[O-0620] 人工膝関節置換術後1ヵ月における身体活動は歩行自己効力感に影響する
Keywords:人工膝関節置換術, 自己効力感, 活動性
【はじめに,目的】
人工膝関節置換術(以下TKA)は,著明な除痛効果があり,術後早期から歩行能力の改善が期待される。しかし,TKA術後における歩行能力の改善には約6ヶ月間が必要とされており,退院の目安となる術後1ヶ月では十分な改善が得られていないのが現状である。さらに,クリティカルパス導入により入院期間短縮が図られるなかで,退院時により歩行能力を改善させることが課題となる。先行研究によると,一定の活動量の確保が歩行能力の改善に寄与することが明らかとなっており,入院期間中の活動性向上は重要である。しかし,TKA術後患者の活動性に影響する要因は明らかにされておらず,活動性を向上させるための具体策は定かではない。そこで,本研究の目的は,術後1ヵ月における身体活動に及ぼす因子を明らかにすることである。
【方法】
2013年7月から2014年7月までの間に当院整形外科を受診し,変形性膝関節症を原因疾患として初回人工膝関節置換術を施行した88名を対象とした。平均年齢は73.0±7.6歳,身長151.6±6.9cm,体重59.4±10.2kg,BMI 25.7±3.9であった。
TKA術後の活動性指標として日本語版The Knee Society Score(以下KSS)を使用した。KSSは1989年に患者立脚型膝関節症機能評価として開発されたが,2011年に身体的な活動を特徴づけるため改訂が行われ,その後日本語版が作成された。主な項目は,現在の膝の状態,満足度,期待度,活動性の4つで構成されるが,本研究では活動性項目のみを用いた。下位項目の合計は0~100点であり,高値ほど活動性が高いことを意味する。また,運動機能として,膝関節屈曲60度位での術側最大等尺性膝伸展筋力,腹臥位術側最大股関節伸展筋力,5回立ち座りテスト(以下STS),術側への荷重率(術側下肢荷重量/体重×100%)を測定した。Timed up&Go test(以下TUG)を測定し,歩行手段は病棟内歩行時の使用状況とした。さらに,歩行時疼痛をVisual Analog Scale(以下VAS)にて評価した。心理的・精神的影響を評価するため,歩行における自己効力感指標である日本語版modified Gait Efficacy Scale(以下mGES)を使用した。mGESは,10項目の合計100点満点で評価し,歩行動作を安全に遂行できるか否かに対する自信尺度である。なお,これらすべての評価は,退院時となる術後1か月の時点で実施した。統計解析は,SPSS(IBM SPSS version 22.0)を使用し,従属変数をKSS活動性,膝伸展筋力・股関節伸展筋力・荷重率・歩行時VAS・STS・TUG・mGESの全7項目を独立変数としてステップワイズ重回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
術後1ヵ月における各変数は,KSS 50.0±15.4点,膝伸展筋力0.65±0.25Nm/kg,股伸展筋力0.78±0.26Nm/kg,荷重率50.1±6.4%,歩行時VAS 24.3±19.9mm,STS 11.5±2.6秒,TUG 10.1±2.4秒,mGES 52.2±20.6点であった。重回帰分析の結果,抽出された因子は,mGES(β=0.524)・術側膝伸展筋力(β=0.266)・STS(β=-0.203)であり,自由度調整済み決定係数は0.471であった。VIF値は1.06~1.64であり,多重共線性の問題はなかった。
【考察】
TKA術後1ヵ月における活動性に影響する因子としてmGES・術側膝伸展筋力・STSが関係していた。術後理学療法では,従来通り膝伸展筋力や立ち上がり能力の改善が必要であるが,歩行に対する自己効力感に着目する必要性を示した。TKA術後の歩行能力改善を検討した先行研究では,膝伸展筋力や立ち上がり能力が寄与すると報告されており,活動性も同様にそれらが影響することが明らかになった。しかし,TKA術後の活動性にはTUGや疼痛は直接的に影響せず,mGESが最も影響していた。牧迫ら(2013)は,mGESは下肢機能やバランス,歩行,持久性といった運動機能と有意な相関関係を認め,転倒恐怖感を有していない者と比較し運動機能が有意に低下していたと報告しており,運動機能に加えて心理的影響を含めた指標である。つまり,TKA術後の活動性には,TUGによる歩行能力のみの評価よりも運動機能と心理的影響を含めた自信尺度がより的確に反映した結果であると推測される。自己効力感の改善を検討した先行研究では,目標設定・代理体験・他者の言葉かけ・心身把握の4つが重要であるとされ,これらの要素を取り入れた介入を実施していく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
TKA術後1ヵ月における活動性には,膝伸展筋力や立ち上がり能力といった運動機能よりも歩行に対する自己効力感が最も影響していた。それゆえ,TKA術後理学療法において,運動機能面だけでなく心理的・精神的要素である自己効力感の向上を図る必要がある。
人工膝関節置換術(以下TKA)は,著明な除痛効果があり,術後早期から歩行能力の改善が期待される。しかし,TKA術後における歩行能力の改善には約6ヶ月間が必要とされており,退院の目安となる術後1ヶ月では十分な改善が得られていないのが現状である。さらに,クリティカルパス導入により入院期間短縮が図られるなかで,退院時により歩行能力を改善させることが課題となる。先行研究によると,一定の活動量の確保が歩行能力の改善に寄与することが明らかとなっており,入院期間中の活動性向上は重要である。しかし,TKA術後患者の活動性に影響する要因は明らかにされておらず,活動性を向上させるための具体策は定かではない。そこで,本研究の目的は,術後1ヵ月における身体活動に及ぼす因子を明らかにすることである。
【方法】
2013年7月から2014年7月までの間に当院整形外科を受診し,変形性膝関節症を原因疾患として初回人工膝関節置換術を施行した88名を対象とした。平均年齢は73.0±7.6歳,身長151.6±6.9cm,体重59.4±10.2kg,BMI 25.7±3.9であった。
TKA術後の活動性指標として日本語版The Knee Society Score(以下KSS)を使用した。KSSは1989年に患者立脚型膝関節症機能評価として開発されたが,2011年に身体的な活動を特徴づけるため改訂が行われ,その後日本語版が作成された。主な項目は,現在の膝の状態,満足度,期待度,活動性の4つで構成されるが,本研究では活動性項目のみを用いた。下位項目の合計は0~100点であり,高値ほど活動性が高いことを意味する。また,運動機能として,膝関節屈曲60度位での術側最大等尺性膝伸展筋力,腹臥位術側最大股関節伸展筋力,5回立ち座りテスト(以下STS),術側への荷重率(術側下肢荷重量/体重×100%)を測定した。Timed up&Go test(以下TUG)を測定し,歩行手段は病棟内歩行時の使用状況とした。さらに,歩行時疼痛をVisual Analog Scale(以下VAS)にて評価した。心理的・精神的影響を評価するため,歩行における自己効力感指標である日本語版modified Gait Efficacy Scale(以下mGES)を使用した。mGESは,10項目の合計100点満点で評価し,歩行動作を安全に遂行できるか否かに対する自信尺度である。なお,これらすべての評価は,退院時となる術後1か月の時点で実施した。統計解析は,SPSS(IBM SPSS version 22.0)を使用し,従属変数をKSS活動性,膝伸展筋力・股関節伸展筋力・荷重率・歩行時VAS・STS・TUG・mGESの全7項目を独立変数としてステップワイズ重回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
術後1ヵ月における各変数は,KSS 50.0±15.4点,膝伸展筋力0.65±0.25Nm/kg,股伸展筋力0.78±0.26Nm/kg,荷重率50.1±6.4%,歩行時VAS 24.3±19.9mm,STS 11.5±2.6秒,TUG 10.1±2.4秒,mGES 52.2±20.6点であった。重回帰分析の結果,抽出された因子は,mGES(β=0.524)・術側膝伸展筋力(β=0.266)・STS(β=-0.203)であり,自由度調整済み決定係数は0.471であった。VIF値は1.06~1.64であり,多重共線性の問題はなかった。
【考察】
TKA術後1ヵ月における活動性に影響する因子としてmGES・術側膝伸展筋力・STSが関係していた。術後理学療法では,従来通り膝伸展筋力や立ち上がり能力の改善が必要であるが,歩行に対する自己効力感に着目する必要性を示した。TKA術後の歩行能力改善を検討した先行研究では,膝伸展筋力や立ち上がり能力が寄与すると報告されており,活動性も同様にそれらが影響することが明らかになった。しかし,TKA術後の活動性にはTUGや疼痛は直接的に影響せず,mGESが最も影響していた。牧迫ら(2013)は,mGESは下肢機能やバランス,歩行,持久性といった運動機能と有意な相関関係を認め,転倒恐怖感を有していない者と比較し運動機能が有意に低下していたと報告しており,運動機能に加えて心理的影響を含めた指標である。つまり,TKA術後の活動性には,TUGによる歩行能力のみの評価よりも運動機能と心理的影響を含めた自信尺度がより的確に反映した結果であると推測される。自己効力感の改善を検討した先行研究では,目標設定・代理体験・他者の言葉かけ・心身把握の4つが重要であるとされ,これらの要素を取り入れた介入を実施していく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
TKA術後1ヵ月における活動性には,膝伸展筋力や立ち上がり能力といった運動機能よりも歩行に対する自己効力感が最も影響していた。それゆえ,TKA術後理学療法において,運動機能面だけでなく心理的・精神的要素である自己効力感の向上を図る必要がある。