[O-0622] 人工膝関節全置換術後における転倒率と転倒因子について
キーワード:人工膝関節全置換術, 転倒, 転倒因子
【はじめに,目的】
人工膝関節全置換術(以下TKA)は安定した機能改善や除痛効果が期待できる。しかし,術後の関節位置覚低下やバランス能力低下などが残存するといった報告もあり,術後の転倒を引き起こす一因として考えられる。臨床現場で術後転倒に注意をしているにもかかわらず転んでしまった症例や術後身体機能が良好な症例でも転倒を起こした例を経験する。術後に立位姿勢の不安定化やバランス能力の低下が要因に考えられるが,術後の転倒率や転倒に対する意識調査についての報告は少ない。そこで本研究の目的は,TKA後における転倒率や転倒意識の調査と転倒に関わる因子を検討すること。
【方法】
2012年8月~2013年8月までに当院でTKAを施行した症例のうち術後1年間追跡調査が可能であった片側例69名69膝(男性:14名,女性:55名,年齢:73.3±6.0,身長:152.7±7.4,体重:59.9±11.1)を対象とした。疾病内訳は,内側型変形性膝関節症(以下膝OA)58名,関節リウマチ4名,骨壊死7名であった。評価時期は術後12ヶ月で行い,身体機能評価項目は歩行時痛,膝伸展筋力,膝関節可動域,片脚立位時間,10m歩行スピード,Time up and go(以下TUG),30秒椅子立ち上がりテストを実施した。膝伸展筋力にはミナト医科学社製Combit CB-2を使用し,等尺性最大随意収縮で3回計測し,最大値を体重で除した値を採用した。片脚立位時間は上限を30秒とし,3回測定した平均値を採用した。10m歩行スピードとTUGは最大努力にて計測した。術後転倒歴がある者を転倒群,転倒歴がない者を非転倒群とし2群に分け比較した。また,術前から術後12ヶ月までの転倒の有無と転倒に対して注意を払っているかいないかを調査した。統計処理は,2群間の比較にはMann-WhitneyのU検定を用い,有意な差が認められた項目を独立変数とし転倒の有無を目的変数としたロジスティック回帰分析を行った。また,有意な項目として認められた因子について,ROC曲線を用いて曲線化面積(AUC)を求め,カットオフ値および感度と特異度を算出した。統計ソフトはStatView 5.0を用い,有意水準を5%未満とした。
【結果】
術後12ヶ月で転倒群は29名,非転倒群は40名であり,転倒率は術前36.2%(25/69),入院中1.5%(1/69),術後3ヶ月14.5%(10/69),術後6ヶ月21.7%(15/69),術後12ヶ月42.0%(29/69)であった。転倒に対して注意を払っているかいないかの質問の回答率は,転倒群が58.6%(17/29),非転倒群が67.5%(27/40)であった。転倒群で注意をしている者は94.1%(16/17),注意していない者は5.9%(1/17)であり,非転倒群で注意をしている者は85.2%(23/27),注意していない者は14.8%(4/27)であった。2群の比較では片脚立位時間は転倒群が13.7±10.3秒,非転倒群が19.4±9.9秒(p=0.012)と有意に低値を示し,TUGは転倒群が9.5±1.8秒,非転倒群が8.6±1.1秒(p=0.0067)と有意に高値を示した。その他の身体機能評価項目に有意差は認められなかった。これらの因子を独立変数としたロジスティック回帰分析の結果,TUG(p=0.0431)が有意な項目として選択された。また,ROC曲線から求められたAUCは0.67であり,カットオフ値は8.8秒(感度65.0%,特異度65.5%)であった。
【考察】
TKA後における転倒率や転倒意識の調査に関する報告は少なく,転倒に関係する因子の見解は統一されていない。Annetteらは術前転倒歴がある症例の45.8%が術後1年間で転倒しているとし,松本らは術後半年間の転倒頻度は32.9%と報告している。厚生労働省が発表している高齢者の年間転倒率は約20%と報告されているが,本研究の転倒率は1年間で42.0%であり一般高齢者と比べると高値を示したことから術後の転倒リスクは高いと言える。また,諸家らは術後の膝関節屈曲可動域を転倒危険因子として報告しているが,本研究ではTUGが転倒の有無を予測する因子となった。TUGはバランス能力を捉える評価として妥当性が高いとされている評価である。Shumwayらは,高齢者の最大努力によるTUGが8.5秒以上では約20%の転倒経験者が含まれると報告している。本研究では,術後12ヶ月のTUGが8.8秒以上であれば転倒のリスクが高くなる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
TKA後における転倒の有無,転倒への意識調査を行った。術後12ヶ月の転倒率は術前36.2%,入院中1.5%,術後3ヶ月14.5%,術後6ヶ月21.7%,術後12ヶ月42.0%であった。転倒有無に関与する因子は術後12ヶ月のTUGが選択され,最大努力で8.8秒以上であれば転倒のリスクが高くなる可能性が示唆された。
人工膝関節全置換術(以下TKA)は安定した機能改善や除痛効果が期待できる。しかし,術後の関節位置覚低下やバランス能力低下などが残存するといった報告もあり,術後の転倒を引き起こす一因として考えられる。臨床現場で術後転倒に注意をしているにもかかわらず転んでしまった症例や術後身体機能が良好な症例でも転倒を起こした例を経験する。術後に立位姿勢の不安定化やバランス能力の低下が要因に考えられるが,術後の転倒率や転倒に対する意識調査についての報告は少ない。そこで本研究の目的は,TKA後における転倒率や転倒意識の調査と転倒に関わる因子を検討すること。
【方法】
2012年8月~2013年8月までに当院でTKAを施行した症例のうち術後1年間追跡調査が可能であった片側例69名69膝(男性:14名,女性:55名,年齢:73.3±6.0,身長:152.7±7.4,体重:59.9±11.1)を対象とした。疾病内訳は,内側型変形性膝関節症(以下膝OA)58名,関節リウマチ4名,骨壊死7名であった。評価時期は術後12ヶ月で行い,身体機能評価項目は歩行時痛,膝伸展筋力,膝関節可動域,片脚立位時間,10m歩行スピード,Time up and go(以下TUG),30秒椅子立ち上がりテストを実施した。膝伸展筋力にはミナト医科学社製Combit CB-2を使用し,等尺性最大随意収縮で3回計測し,最大値を体重で除した値を採用した。片脚立位時間は上限を30秒とし,3回測定した平均値を採用した。10m歩行スピードとTUGは最大努力にて計測した。術後転倒歴がある者を転倒群,転倒歴がない者を非転倒群とし2群に分け比較した。また,術前から術後12ヶ月までの転倒の有無と転倒に対して注意を払っているかいないかを調査した。統計処理は,2群間の比較にはMann-WhitneyのU検定を用い,有意な差が認められた項目を独立変数とし転倒の有無を目的変数としたロジスティック回帰分析を行った。また,有意な項目として認められた因子について,ROC曲線を用いて曲線化面積(AUC)を求め,カットオフ値および感度と特異度を算出した。統計ソフトはStatView 5.0を用い,有意水準を5%未満とした。
【結果】
術後12ヶ月で転倒群は29名,非転倒群は40名であり,転倒率は術前36.2%(25/69),入院中1.5%(1/69),術後3ヶ月14.5%(10/69),術後6ヶ月21.7%(15/69),術後12ヶ月42.0%(29/69)であった。転倒に対して注意を払っているかいないかの質問の回答率は,転倒群が58.6%(17/29),非転倒群が67.5%(27/40)であった。転倒群で注意をしている者は94.1%(16/17),注意していない者は5.9%(1/17)であり,非転倒群で注意をしている者は85.2%(23/27),注意していない者は14.8%(4/27)であった。2群の比較では片脚立位時間は転倒群が13.7±10.3秒,非転倒群が19.4±9.9秒(p=0.012)と有意に低値を示し,TUGは転倒群が9.5±1.8秒,非転倒群が8.6±1.1秒(p=0.0067)と有意に高値を示した。その他の身体機能評価項目に有意差は認められなかった。これらの因子を独立変数としたロジスティック回帰分析の結果,TUG(p=0.0431)が有意な項目として選択された。また,ROC曲線から求められたAUCは0.67であり,カットオフ値は8.8秒(感度65.0%,特異度65.5%)であった。
【考察】
TKA後における転倒率や転倒意識の調査に関する報告は少なく,転倒に関係する因子の見解は統一されていない。Annetteらは術前転倒歴がある症例の45.8%が術後1年間で転倒しているとし,松本らは術後半年間の転倒頻度は32.9%と報告している。厚生労働省が発表している高齢者の年間転倒率は約20%と報告されているが,本研究の転倒率は1年間で42.0%であり一般高齢者と比べると高値を示したことから術後の転倒リスクは高いと言える。また,諸家らは術後の膝関節屈曲可動域を転倒危険因子として報告しているが,本研究ではTUGが転倒の有無を予測する因子となった。TUGはバランス能力を捉える評価として妥当性が高いとされている評価である。Shumwayらは,高齢者の最大努力によるTUGが8.5秒以上では約20%の転倒経験者が含まれると報告している。本研究では,術後12ヶ月のTUGが8.8秒以上であれば転倒のリスクが高くなる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
TKA後における転倒の有無,転倒への意識調査を行った。術後12ヶ月の転倒率は術前36.2%,入院中1.5%,術後3ヶ月14.5%,術後6ヶ月21.7%,術後12ヶ月42.0%であった。転倒有無に関与する因子は術後12ヶ月のTUGが選択され,最大努力で8.8秒以上であれば転倒のリスクが高くなる可能性が示唆された。