[O-0624] 人工膝関節置換術施行患者の身体活動量と生活空間の経時的変化
キーワード:人工膝関節置換術, 身体活動量, 生活空間
【はじめに,目的】
変形性膝関節症患者は一般高齢者に比べ身体活動量が少なく,生活空間が狭小化していることが報告されている。変形性膝関節症患者に対する人工膝関節置換術(TKA)は今や確立された治療法であり,除痛や機能回復は術後6か月以内にピークに到達するとされている。術後,疼痛や機能制限から解放された患者では,身体活動量が増加し,生活空間も広がっていくことが想定されるが,その実態に関する知見は十分とはいえない。そこで今回,TKA施行患者を対象とし,身体活動量の経時的変化を加速度センサー内蔵の身体活動計を用いて客観的に調査した。さらに,生活空間の評価を同時に実施し,身体活動量の変化と生活空間の変化の関連性についても検討した。
【方法】
2012年5月から2013年11月までに,当院とK市民病院でTKAを施行された患者のうち,本調査に同意が得られ,所定の評価を完遂した30例30関節を対象とした。その内訳は,男性3例,女性27例,平均年齢73.2歳,BMI26.9kg/m2,平均術後在院日数24.1日,退院時の歩行レベルは全例T字杖にて自立していた。
本研究では身体活動量を歩数と定義し,測定にはスズケン社製ライフコーダーを用いた。ライフコーダーを2週間以上連続で装着し,装着開始日および回収日を除く連続1週間の1日あたりの平均歩数を算出した。生活空間の指標にはLife Space Assessment(LSA)を用いた。調査は術前・退院後1か月・術後3か月・術後6か月に実施した。検討項目は1)身体活動量とLSAの経時的変化,2)身体活動量の変化とLSAの変化の関連性とし,統計学的解析を行い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
身体活動量の変化(術前→退院後1か月→術後3か月→術後6か月の順)は,3170歩→2570歩→4193歩→4676歩であり,術後6か月において同年代国民平均歩数(4285歩)を上回った。術前と術後3か月および術後6か月,退院後1か月と術後3か月および術後6か月との間に有意差をみとめたが,術前と退院後1か月,術後3か月と術後6か月との間には有意差をみとめなかった。LSAの変化(術前→退院後1か月→術後3か月→術後6か月の順)は,73.0→66.8→86.0→94.4であり,術後6か月において一般高齢者のLSA(91.6)を上回った。術前と術後6か月,退院後1か月と術後3か月および術後6か月との間に有意差をみとめたが,術前と退院後1か月および術後3か月,術後3か月と術後6か月との間には有意差をみとめなかった。LSAはレベル1(住居内),レベル2(住居周辺)では満点に近似しており,レベル3(住居近隣)以上において変化がみられた。
術前→退院後1か月では身体活動量の変化量とLSAの変化量との間に弱い相関がある傾向をみとめた(r=0.33,p=0.07)。一方,術前→術後3か月,術前→術後6か月ではばらつきが大きく,相関をみとめなかった。LSAは大きく改善したが身体活動量の増加が乏しい患者や,LSAの改善は乏しいが身体活動量は大きく増加している患者が散見された。
【考察】
諸家の報告のように一般高齢者と比較してTKA施行前患者の身体活動量は減少しており,生活空間も狭小化していたが,手術やその後のリハビリテーションによって改善することが明らかになった。一方で,疼痛や機能回復は術後早期より得られることが知られているが,身体活動量の増加や生活空間の拡大には術後3か月以上の長期経過管理が必要であることが示唆された。また,身体活動量の減少は生活空間の狭小化につながる可能性があるが,身体活動量の増加と生活空間の拡大は必ずしも一致しないことが示された。その背景には,自動車やバスなどの使用の有無や外出に対する自信の影響があると推察され,この点を考慮した生活指導によりさらなる身体活動量の増加や生活空間の拡大につながると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
TKA施行患者の身体活動量を増加させ,生活空間を拡大させるための一助となると考えられる。
変形性膝関節症患者は一般高齢者に比べ身体活動量が少なく,生活空間が狭小化していることが報告されている。変形性膝関節症患者に対する人工膝関節置換術(TKA)は今や確立された治療法であり,除痛や機能回復は術後6か月以内にピークに到達するとされている。術後,疼痛や機能制限から解放された患者では,身体活動量が増加し,生活空間も広がっていくことが想定されるが,その実態に関する知見は十分とはいえない。そこで今回,TKA施行患者を対象とし,身体活動量の経時的変化を加速度センサー内蔵の身体活動計を用いて客観的に調査した。さらに,生活空間の評価を同時に実施し,身体活動量の変化と生活空間の変化の関連性についても検討した。
【方法】
2012年5月から2013年11月までに,当院とK市民病院でTKAを施行された患者のうち,本調査に同意が得られ,所定の評価を完遂した30例30関節を対象とした。その内訳は,男性3例,女性27例,平均年齢73.2歳,BMI26.9kg/m2,平均術後在院日数24.1日,退院時の歩行レベルは全例T字杖にて自立していた。
本研究では身体活動量を歩数と定義し,測定にはスズケン社製ライフコーダーを用いた。ライフコーダーを2週間以上連続で装着し,装着開始日および回収日を除く連続1週間の1日あたりの平均歩数を算出した。生活空間の指標にはLife Space Assessment(LSA)を用いた。調査は術前・退院後1か月・術後3か月・術後6か月に実施した。検討項目は1)身体活動量とLSAの経時的変化,2)身体活動量の変化とLSAの変化の関連性とし,統計学的解析を行い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
身体活動量の変化(術前→退院後1か月→術後3か月→術後6か月の順)は,3170歩→2570歩→4193歩→4676歩であり,術後6か月において同年代国民平均歩数(4285歩)を上回った。術前と術後3か月および術後6か月,退院後1か月と術後3か月および術後6か月との間に有意差をみとめたが,術前と退院後1か月,術後3か月と術後6か月との間には有意差をみとめなかった。LSAの変化(術前→退院後1か月→術後3か月→術後6か月の順)は,73.0→66.8→86.0→94.4であり,術後6か月において一般高齢者のLSA(91.6)を上回った。術前と術後6か月,退院後1か月と術後3か月および術後6か月との間に有意差をみとめたが,術前と退院後1か月および術後3か月,術後3か月と術後6か月との間には有意差をみとめなかった。LSAはレベル1(住居内),レベル2(住居周辺)では満点に近似しており,レベル3(住居近隣)以上において変化がみられた。
術前→退院後1か月では身体活動量の変化量とLSAの変化量との間に弱い相関がある傾向をみとめた(r=0.33,p=0.07)。一方,術前→術後3か月,術前→術後6か月ではばらつきが大きく,相関をみとめなかった。LSAは大きく改善したが身体活動量の増加が乏しい患者や,LSAの改善は乏しいが身体活動量は大きく増加している患者が散見された。
【考察】
諸家の報告のように一般高齢者と比較してTKA施行前患者の身体活動量は減少しており,生活空間も狭小化していたが,手術やその後のリハビリテーションによって改善することが明らかになった。一方で,疼痛や機能回復は術後早期より得られることが知られているが,身体活動量の増加や生活空間の拡大には術後3か月以上の長期経過管理が必要であることが示唆された。また,身体活動量の減少は生活空間の狭小化につながる可能性があるが,身体活動量の増加と生活空間の拡大は必ずしも一致しないことが示された。その背景には,自動車やバスなどの使用の有無や外出に対する自信の影響があると推察され,この点を考慮した生活指導によりさらなる身体活動量の増加や生活空間の拡大につながると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
TKA施行患者の身体活動量を増加させ,生活空間を拡大させるための一助となると考えられる。