第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

セレクション 口述12

人体構造・機能情報学 運動生理学

2015年6月7日(日) 08:30 〜 09:30 第3会場 (ホールB7(1))

座長:河上敬介(名古屋大学大学院 医学系研究科リハビリテーション療法学専攻)

[O-0625] 関節を不動化したラットの脊髄後根神経節における神経成長因子の変化

―筋の一次知覚神経における検討―

平賀慎一郎1, 肥田朋子2, 中川達貴1, 堀紀代美1, 山口豪1, 尾﨑紀之1 (1.金沢大学医薬保健研究域医学系機能解剖学分野, 2.名古屋学院大学リハビリテーション学部)

キーワード:不動化, 筋痛, NGF

【はじめに,目的】近年,四肢の一部が不動化状態に陥ると,関節可動域制限や筋萎縮などの形態学的変化ばかりでなく疼痛が生じることが知られている。ラットの両側足関節を4週間不動化すると,筋機械的痛覚閾値が低下し,筋での神経成長因子(nerve growth factor:NGF)含有量の増加,抗NGF抗体筋注後の筋機械的痛覚閾値上昇により,NGFが不動化に伴う筋痛に関与する可能性を我々は報告してきた。しかし,末梢組織で産生されたNGFが筋痛にどのように関与するのか,その詳細なメカニズムは未だ明らかにされていない。炎症や神経因性疼痛モデルでは,一次知覚神経に取り込まれ,後根神経節(dorsal root ganglion:DRG)に運ばれたNGFが,疼痛関連遺伝子や蛋白質の発現を誘導し,皮膚の機械的痛覚閾値の低下に関与することが報告されているが,筋の一次知覚神経への取り込みや筋痛との関連は検討されておらず,また不動化モデルでの検討もされていない。そこで,我々は関節を不動化したラットのDRGにおけるNGFの変化を,筋の一次知覚神経に着目して検討した。
【方法】Wistar系雄性ラットを用い,両側足関節を4週間不動化するImmobilization群と通常飼育をするNormal群に無作為に振り分けた。DRGの筋の一次知覚神経を標識するため,腓腹筋へ逆行性トレーサーであるFluoro-Gold(FG)50μLをHamilton syringeを用いて注入した。両群における筋機械的痛覚閾値を不動化前,不動化1,2,3,4週目にRandall-selitto装置を用いて腓腹筋内側頭で測定した。4週間の不動化後に灌流固定を行い,両群からL4-L6のDRGを取り出し,免疫組織化学的手法を用いてNGFの発現を評価した。
【結果】Normal群における筋機械的痛覚閾値は不動化前,不動化1週,2週,3週,4週の順に136.3±5.7g,136.5±3.1g,141.3±3.2g,138.3±4.9,142.3±2.1gと不動化4週間で変化は認められなかったのに対して,Immobilization群では不動化前と比較して不動化1週目より有意に低値を示した(135.0±3.1g,120.3±4.0g,105.0±6.1g,80.3±5.2g,67.7±1.9g,不動化前との比較p<0.01)。また両群間で比較を行った結果,Normal群と比較してImmobilization群では不動化1週目より有意に低値を示した(p<0.01)。両群におけるDRGのFG陽性細胞数には差は認められなかったが,FG陽性細胞数中のNGF陽性細胞数がImmobilization群で高値を示した。
【考察】不動化により筋機械的痛覚閾値が低下している動物では,DRGにおいてNGFを含有する筋の一次知覚神経の細胞体数が増加することがわかった。このモデルでは,筋のNGF含有量が増加し,抗NGF抗体筋注後は筋機械的痛覚閾値が上昇することを我々は既に報告している。不動化が起きると,筋でNGFが発現し,筋の一次知覚神経の末梢終末から取り込まれたNGFが逆行性にDRGに運ばれ,DRGでNGFを含有する細胞体が増加している可能性を示している。さらに筋の一次知覚神経で増加したNGFが疼痛関連遺伝子などの発現を誘導し,一次知覚神経の活性化を介して筋痛の惹起あるいはその維持に関与しているのではないかと考えている。
【理学療法学研究としての意義】不動化に伴う疼痛はそれが長引くと,二次的障害として日常生活活動(activities of daily living:ADL)にとどまらず生活の質(quality of life:QOL)にも多大な影響を及ぼし,不動化部位を超えた慢性痛に発展することも多い。NGFはそのような既存治療薬が無効な慢性痛に関与している可能性があるため,NGFやNGFに誘導される疼痛関連遺伝子の変化を調べることで不動化に伴う疼痛への理学療法の有効性を検討できる。また,NGFの作用をそのまま抑えることは機能回復や損傷治癒の面からはさまざまな副作用が懸念されるため,NGFが関節の不動化に伴う疼痛を発生させるメカニズムを明らかにし,副作用の少ない,より特異的な理学療法を検討することができる。