[O-0626] 不動期間に伴うラットヒラメ筋の伸張性の変化に関する縦断的検索
キーワード:筋性拘縮, 他動張力, 伸張性
【はじめに,目的】
これまでわれわれは,筋性拘縮の病態解明を目的にラット足関節を不動化したモデルを用い,ヒラメ筋内のコラーゲンの動態変化の検索を進めてきた。その結果,1週という短期の不動でコラーゲン増生を認め,この変化は不動4週まではその期間に準拠して著しくなることが明らかになっている。つまり,われわれはコラーゲン増生に起因した骨格筋の線維化が筋性拘縮の主要な病態と考えており,これが骨格筋の伸張性に影響し,関節可動域(ROM)制限の発生につながると予想している。しかし,上記モデルのヒラメ筋の伸張性の変化に関してはこれまで明らかにできておらず,課題となっていた。また,先行研究では一定期間不動化した際の骨格筋の伸張性を検索したデータは散見されるものの,不動期間の影響を検討した縦断的検索はほとんど行われていない。そこで,本研究では骨格筋の伸張性の指標である他動張力の測定方法を確立し,不動期間の延長に伴う上記モデルのヒラメ筋の伸張性の変化を縦断的に検索するとともに,ROM制限の発生・進行との関連性を検討した。
【方法】
実験動物には8週齢のWistar系雄性ラットを用い,両側足関節を最大底屈位で1,2,4,8週間ギプスを用いて不動化する不動群と,同期間通常飼育する対照群に振り分けた。各不動期間終了後は,麻酔下にて足関節背屈のROMを測定し,その後,ヒラメ筋を採取し,805A in vitro Muscle Apparatus System(Aurora社製)を用いて長さ-張力曲線を求めた。なお,この実験にあたっては試料採取方法や浸漬液の種類,機器へのセット方法,ヒラメ筋の伸張方法ならびに測定データの妥当性などについて検討を重ね,プロトコルを作製した。そして,このプロトコルに準拠し,ヒラメ筋を0.1mm/秒の速度で他動的に伸張させ,その際の張力を測定した。その後,解析ソフトを用いて張力が発揮しはじめる点をSlack Length(以下,1.0 Ls)と規定し,そこから1.4 Lsの長さまで5%Lsごとに他動張力を算出し,長さ-張力曲線を求めた。なお,各不動期間には5匹以上のラットを振り分け,上記の測定は10筋以上行っている。
【結果】
不動群のROMは対照群に比べ1週で22.6%,2週で36.9%,4週で52.8%,8週で59.7%の減少が認められ,すべての不動期間とも対照群よりも有意に低値を示した。不動群の他動張力を対照群と比較すると,1週は1.15~1.3 Lsの長さまで有意に高値を示し,2,4,8週は1.1~1.4 Lsの長さまで有意に高値を示した。また,不動期間で比較すると2週は1.15~1.35 Lsの長さまで1週より有意に高値を示し,4,8週は1.05~1.4 Lsの長さまで1,2週より有意に高値を示した。しかし,4週と8週の間にはすべての測定ポイントで有意差を認めなかった。
【考察】
今回の結果から,不動1週で足関節背屈のROM制限が認められ,ヒラメ筋には伸張性低下が惹起されることが明らかとなった。つまり,この結果は1週という短期の不動で筋性拘縮が発生することを示唆している。そして,不動期間の影響を見ると,不動4週まではその期間に準拠してヒラメ筋の伸張性低下が著しくなり,ROMも対照群より52.8%の減少が認められた。しかし,その後さらに4週間,不動期間を延長した不動8週の他動張力の結果は不動4週とすべての測定ポイントで有意差を認めず,しかもこの4週間におけるROM制限の減少率は対照群に対する比率で約7%に留まっていた。したがって,本モデルのヒラメ筋の筋性拘縮は不動4週まで進行し,以後はプラトーになると推測される。そして,この結果は同モデルのヒラメ筋を用いて検索したコラーゲン増生の経時的推移とほぼ同様で,このことを踏まえるとコラーゲン増生に起因した線維化の発生・進行が骨格筋の伸張性低下に直接的に影響し,その結果としてROM制限につながると推察される。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法の治療対象の一つである筋性拘縮の発生・進行には,以前から骨格筋の伸張性低下が関与すると考えられてきたが,このことを裏づける明確なデータは示されていない。つまり,本研究の成果は筋性拘縮の病態を整理する上で貴重な基礎データになると思われる。また,筋性拘縮に対する理学療法のエビデンス構築のための検索パラメータとして,骨格筋の他動張力測定は応用可能で,本研究は基礎理学療法学研究として意義深いと考える。
これまでわれわれは,筋性拘縮の病態解明を目的にラット足関節を不動化したモデルを用い,ヒラメ筋内のコラーゲンの動態変化の検索を進めてきた。その結果,1週という短期の不動でコラーゲン増生を認め,この変化は不動4週まではその期間に準拠して著しくなることが明らかになっている。つまり,われわれはコラーゲン増生に起因した骨格筋の線維化が筋性拘縮の主要な病態と考えており,これが骨格筋の伸張性に影響し,関節可動域(ROM)制限の発生につながると予想している。しかし,上記モデルのヒラメ筋の伸張性の変化に関してはこれまで明らかにできておらず,課題となっていた。また,先行研究では一定期間不動化した際の骨格筋の伸張性を検索したデータは散見されるものの,不動期間の影響を検討した縦断的検索はほとんど行われていない。そこで,本研究では骨格筋の伸張性の指標である他動張力の測定方法を確立し,不動期間の延長に伴う上記モデルのヒラメ筋の伸張性の変化を縦断的に検索するとともに,ROM制限の発生・進行との関連性を検討した。
【方法】
実験動物には8週齢のWistar系雄性ラットを用い,両側足関節を最大底屈位で1,2,4,8週間ギプスを用いて不動化する不動群と,同期間通常飼育する対照群に振り分けた。各不動期間終了後は,麻酔下にて足関節背屈のROMを測定し,その後,ヒラメ筋を採取し,805A in vitro Muscle Apparatus System(Aurora社製)を用いて長さ-張力曲線を求めた。なお,この実験にあたっては試料採取方法や浸漬液の種類,機器へのセット方法,ヒラメ筋の伸張方法ならびに測定データの妥当性などについて検討を重ね,プロトコルを作製した。そして,このプロトコルに準拠し,ヒラメ筋を0.1mm/秒の速度で他動的に伸張させ,その際の張力を測定した。その後,解析ソフトを用いて張力が発揮しはじめる点をSlack Length(以下,1.0 Ls)と規定し,そこから1.4 Lsの長さまで5%Lsごとに他動張力を算出し,長さ-張力曲線を求めた。なお,各不動期間には5匹以上のラットを振り分け,上記の測定は10筋以上行っている。
【結果】
不動群のROMは対照群に比べ1週で22.6%,2週で36.9%,4週で52.8%,8週で59.7%の減少が認められ,すべての不動期間とも対照群よりも有意に低値を示した。不動群の他動張力を対照群と比較すると,1週は1.15~1.3 Lsの長さまで有意に高値を示し,2,4,8週は1.1~1.4 Lsの長さまで有意に高値を示した。また,不動期間で比較すると2週は1.15~1.35 Lsの長さまで1週より有意に高値を示し,4,8週は1.05~1.4 Lsの長さまで1,2週より有意に高値を示した。しかし,4週と8週の間にはすべての測定ポイントで有意差を認めなかった。
【考察】
今回の結果から,不動1週で足関節背屈のROM制限が認められ,ヒラメ筋には伸張性低下が惹起されることが明らかとなった。つまり,この結果は1週という短期の不動で筋性拘縮が発生することを示唆している。そして,不動期間の影響を見ると,不動4週まではその期間に準拠してヒラメ筋の伸張性低下が著しくなり,ROMも対照群より52.8%の減少が認められた。しかし,その後さらに4週間,不動期間を延長した不動8週の他動張力の結果は不動4週とすべての測定ポイントで有意差を認めず,しかもこの4週間におけるROM制限の減少率は対照群に対する比率で約7%に留まっていた。したがって,本モデルのヒラメ筋の筋性拘縮は不動4週まで進行し,以後はプラトーになると推測される。そして,この結果は同モデルのヒラメ筋を用いて検索したコラーゲン増生の経時的推移とほぼ同様で,このことを踏まえるとコラーゲン増生に起因した線維化の発生・進行が骨格筋の伸張性低下に直接的に影響し,その結果としてROM制限につながると推察される。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法の治療対象の一つである筋性拘縮の発生・進行には,以前から骨格筋の伸張性低下が関与すると考えられてきたが,このことを裏づける明確なデータは示されていない。つまり,本研究の成果は筋性拘縮の病態を整理する上で貴重な基礎データになると思われる。また,筋性拘縮に対する理学療法のエビデンス構築のための検索パラメータとして,骨格筋の他動張力測定は応用可能で,本研究は基礎理学療法学研究として意義深いと考える。