第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

口述

セレクション 口述12

人体構造・機能情報学 運動生理学

Sun. Jun 7, 2015 8:30 AM - 9:30 AM 第3会場 (ホールB7(1))

座長:河上敬介(名古屋大学大学院 医学系研究科リハビリテーション療法学専攻)

[O-0627] 肝機能障害ラットにおける発症前後の運動の影響

諸橋直紀, 山﨑聖也, 中塚翔, 木村悠人, 片岡雄希, 西井康恵, 今北英高 (畿央大学健康科学部理学療法学科)

Keywords:肝機能障害, 運動, 予防

【はじめに,目的】
一般的に肝機能障害患者において運動は肝機能障害を増悪させるため長期間の安静が強いられるが,近年では安静による社会復帰遅延やQOL低下が問題視されており,運動の必要性が多くの文献で述べられている。先行研究では肝機能が安定している時期においての運動は効果的であることや,肝機能障害を有していても運動を実施することで筋機能の向上が報告されている。その一方,運動耐容能が低い肝硬変患者では生命予後が不良という報告もあり,運動耐容能を高めることの重要性を示唆している。本研究は肝機能障害発症前から運動耐容能を高めるために予防的な運動を実施し,発症後も継続して運動を実施することで筋機能,肝機能に与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
1年8ヵ月齢のWistar系雄性ラット19匹を無作為に,運動(Ex:n=8)群,非運動(Se:n=7)群,対照(Ct:n=4)群の3群に分類した。Ex群とSe群にはCCl4とオリーブオイルの混合液を3回/週,2週間投与し肝機能障害を発症させた。Ct群にはオリーブオイルのみを投与した。Ex群は投薬の2週間前からトレッドミル運動を開始して,15分間,6日/週の頻度でトータル4週間継続して実施した。速度については1日目に10m/minで開始,その後漸増的に負荷を上昇させ,18日目より解剖日まで12m/minで実施した。4週目の解剖日に血液および肝臓,長趾伸筋(EDL),ヒラメ筋(SOL)を摘出した。生化学的分析では肝機能を把握するために血液検査によりAST,ALT,ALBを分析した。組織学的分析ではヘマトキシレンエオジン(HE)染色で肝臓組織を染色し,コハク酸脱水素酵素(SDH)染色およびアデノシン三リン酸分解酵素(ATP ase)染色で筋組織を染色し,形態的特性を分析した。生理学的分析では,EDLとSOLの筋張力を測定した。
【結果】
ALBは投薬開始日にCt群と比較してEx群で有意に高値を示した(前4.4±0.2,後4.3±0.2)。投薬1週目のAST・ALTはCt群と比較してEx群・Se群で有意に高値を示した(AST:Ct群183.8±67.3,Ex群488.9±12.8,Se群531.1±159.1;ALT:Ct群115.8±31.9,Ex群524.3±8.3,Se群553.7±222.2)。投薬開始2週後,ALBはCt群と比較してEx群・Se群が有意に低値を示しており(Ct群3.4±0.04,Ex群3.2±0.2,Se群3.0±0.1),AST,ALTにおいてはCt群と比較してEx群・Se群が有意に高値を示した。また,Se群と比較してEx群が有意に高値を示した(AST:Ct群149±32.8,Ex群5024.4±1037.3,Se群2491.1±891.6;ALT:Ct群95.8±27.6,Ex群3770.3±1247.8,Se群1392.7±280.1)。筋張力において,SOLでは3群間に有意差は認められなかったが,EDLではSe群と比較してEx群で有意に高値を示した。筋横断面積においては,SOLで3群間に有意差は認められなかったが,EDLではCt群と比較してEx群・Se群で低値を示した。
【考察】
投薬前の予防的運動においてALBは上昇傾向,ASTおよびALTは低下傾向にあった。これは運動によって肝機能が向上したことを示唆する。CCl4投与2週後でEx群はSe群と比較してAST・ALTともに有意に上昇し,肝機能が増悪したことが示唆された。このことは,肝障害における急性期では,運動プログラムの立案にさらに詳細な評価が必要であると考えられる。また,EDLの筋張力はEx群においてSe群より有意に高値を示したにも関わらず,筋横断面積ではCt群と比較してEx群・Se群で低値を示した。これはトレーニング初期の筋力増強は神経活動の上昇から,筋肥大に先行して筋力が増加することが知られており,これによって筋横断面積は低値を示したが筋張力で有意に高値を示したと推察された。
【理学療法学研究としての意義】
予防的な運動は肝機能や筋機能の向上に繋がる可能性が示唆された。また,肝機能障害発症後の運動は肝機能を増悪させる可能性があり,さらに詳細な評価が必要と思われた。