第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

参加型症例研究ディスカッション 口述10

脳卒中理学療法と装具

2015年6月7日(日) 08:30 〜 09:30 第4会場 (ホールB7(2))

座長:神沢信行(甲南女子大学 看護リハビリテーション学部理学療法学科), 萩原章由(横浜市立脳血管医療センター)

[O-0629] 拡散テンソル画像にて麻痺の良好な回復が予測され下肢装具作製を保留した脳実質内出血を伴うくも膜下出血後重症片麻痺例の経験

齋藤麻梨子, 阿部浩明, 辻本直秀 (一般財団法人広南会広南病院)

キーワード:拡散テンソル画像, 片麻痺, 長下肢装具

【目的】
急性期に装具を作成する際には,作製期間の中で劇的な変化が生じ得る為,回復予測を行い,必要性を慎重に判断すべきである。今回,拡散テンソル画像(DTI)により運動麻痺の回復を予測し,長下肢装具(KAFO)を必要とする状態の重度片麻痺を呈した症例に対し,作製を見送った理学療法経験について報告する。
【症例提示】
症例は50歳代女性,病前ADLは自立していた。脳実質内出血を伴うくも膜下出血を発症し近院へ救急搬送され,翌日当院転院後,脳動脈瘤クリッピング術,外減圧術を施行された。出血は左被殻から放線冠に及んでいた。初期評価時(4病日),JCS:10~20,下肢Br.s:II,失語,重度感覚障害,軽度pushingを呈し,ADLには全介助を要した。16病日より平行棒内にてKAFO装着下での全介助歩行練習を開始した。CT及びMRI所見上,上肢及び顔面の運動に関わる皮質脊髄路(CST)には大きな損傷がみられたが,下肢CSTは損傷を免れていると推察された。だが,実際の下肢麻痺は重度であり,DTIを用いてTractgraphyを描出し,CSTを評価した。非損傷側のCSTと比べ,描出線維数の減少を認めたものの大部分のCSTの描出が可能であり,中脳大脳脚におけるfractional anisotropy rationは0.8以上を示したため,大部分は損傷を免れているものと判断した。
【経過と考察】
脳画像の所見から,今後,比較的早期に下肢運動機能の回復が得られることを予測して,本人用のKAFOの作製を見送り,備品のKAFOでの歩行練習を継続した。29病日には運動麻痺の改善がみられ最終評価時(44病日),下肢Br.sはIII~IVへ改善した。当院退院後,回復期リハ病棟のある他院に転院されたが,最終的には短下肢装具使用下で自立歩行が可能なレベルまで回復されたとの情報を得た。KAFOを作製する上で麻痺の改善予測が重要であるが,運動機能評価のみでは困難であり,DTIを含めた脳画像所見を活用することは予測精度を高める上で有効な手段の一つであると思われる。