第50回日本理学療法学術大会

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口述

セレクション 口述14

地域理学療法

Sun. Jun 7, 2015 8:30 AM - 9:30 AM 第6会場 (ホールD7)

座長:小林規彦(専門学校社会医学技術学院 理学療法学科)

[O-0636] 訪問リハビリテーション実践における病状変化の気づきに影響する要因の検討

平野康之1, 井澤和大2, 夛田羅勝義3, 川間健之介4 (1.徳島文理大学保健福祉学部理学療法学科, 2.神戸大学大学院保健学研究科国際保健学領域, 3.徳島文理大学保健福祉学部看護学科, 4.筑波大学大学院人間系)

Keywords:訪問リハビリテーション, 病状変化, 因子分析

【はじめに,目的】近年,訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)の需要は拡大している。一方,訪問リハ従事者が直面する事故や病状急変などの件数は増加傾向にある。このような現状から訪問リハ従事者のサービス提供における安全管理の徹底が求められている。しかし,訪問リハ従事者は急変の予測や病状変化の把握などに十分に精通しているとはいいがたい。また,これらをアセスメントする能力(技術)の実態についても明らかではない。先行研究として我々は,これらのアセスメント能力の実態について,訪問リハビリテーションアセスメント(以下,VRA)を作成し,その実施の程度と重要性について報告した(平野ら,2013)。しかし,これらのアセスメント実施が病状変化の気づきにどのように影響しているのかについては明らかではない。本研究の目的は,訪問リハ従事者の特性やVRAの実施度から,利用者の病状変化の気づきに影響する要因について検討することである。
【方法】対象は,全国の訪問リハ事業所(病院)に勤務する訪問リハ従事者で,VRAの調査票の回答に不備のない336名(198施設,20歳代:123名,30歳代:150名,40歳代:51名,50歳代以上:12名,男性:179名,女性:157名,理学療法士:251名,作業療法士:85名)である。方法は,まずVRAを構成する42項目のアセスメント実施度の回答(5段階のリッカート尺度)を用いて最尤法,プロマックス回転による因子分析を行った。次に,スクリープロットにより抽出因子数を規定した後,因子得点を算出した。また,病状変化の気づき経験の有無に関する回答に不備のない250名を対象に2群に分類し,対象者特性(年齢,性別,職種,学歴,臨床経験年数,訪問リハ経験年数)および抽出された因子の因子得点について,χ2検定およびt検定を用いて比較検討した。さらに2群の比較において有意差を認めた項目を独立変数,病状変化の気づき経験の有無を従属変数とする多重ロジスティック回帰分析を行い,各項目が与える影響の強さについて検討した。統計学的有意差判定基準は5%未満である。
【結果】VRA実施度の因子分析より5因子(32項目)〔第1因子:特殊な身体所見(心尖拍動,心音聴診,心電図,腹部触診などの7項目),第2因子:生活機能所見(食事,排尿,排便,食事などの6項目),第3因子:標準的身体所見(バイタルサイン,意識レベル,SPO2,視診,胸部触診,呼吸音聴診などの10項目),第4因子:心理・精神機能所見(うつ,せん妄,認知機能などの4項目),第5因子:痛みおよび身体負荷所見(息切れ,自覚症状,疲労,痛みなどの5項目)が抽出された。病状変化の気づき経験の有無による2群での対象者特性および因子抽出後に算出した因子得点の比較では,「気づきあり群」は「気づきなし群」と比し,高年齢,呼吸器・循環器症例経験者多数,臨床経験年数および訪問リハ経験年数長期であった。「気づきあり群」は「気づきなし群」と比し,第2因子得点(気づきあり群/気づきなし群の順,-0.133±0.967/0.140±1.011),第3因子得点(-0.192±0.868/0.209±0.904),第4因子得点(-0.259±0.893/0.143±1.000)が低値を示した。ロジスティック回帰分析による病状変化の気づきに影響する要因については「呼吸器・循環器症例経験」,「訪問リハ経験年数」,「標準的身体所見」が独立して影響を与えていた。なお,それらのオッズ比(95%信頼区間)は順に2.164(1.216-3.853),0.756(0.686-0.834),1.657(1.199-2.290)であった。
【考察】訪問リハの実践において病状変化の気づきに影響する有意な要因は「呼吸器・循環器症例経験」,「訪問リハ経験年数」そして「標準的身体所見」であった。以上のことから,呼吸器や循環器症例の経験を増やす,訪問リハの経験を長く積むことに加え,バイタルサインや意識レベルの確認,視診や胸部の触診,呼吸音の聴診などの基本的な身体所見のアセスメントを確実に実施することが訪問リハ従事者の病状変化の気づきを増やすことにつながる可能性があるものと考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究結果は,訪問リハの教育カリキュラムや研修計画などの作成にあたっての有効な資料となり得ることから,訪問リハ従事者のリスクマネジメント能力向上に貢献できる可能性がある。