第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述85

身体運動学6

2015年6月7日(日) 08:30 〜 09:30 第7会場 (ホールD5)

座長:山崎弘嗣(昭和大学保健医療学部 理学療法学科)

[O-0641] 股関節内転筋群のスタティックストレッチングは股関節外転筋群の筋出力を改善させる

松本拓哉1, 金澤浩1, 大津知昌1, 成尾政一郎2 (1.医療法人社団誠療会診療技術部リハビリテーション科, 2.医療法人社団誠療会診療部整形外科)

キーワード:ストレッチング, 拮抗筋, 最大随意等尺性収縮

【はじめに,目的】
ストレッチングには,スタティックストレッチング(SS)やダイナミックストレッチング,バリスティックストレッチングなど,多様な方法がある。中でもSSは,伸張反射が起こりにくく,筋腱の損傷が少ない安全な方法であるとされている。筋の伸張性が筋力に及ぼす影響を調査した研究は多数行われているが,筋のストレッチングが拮抗筋へ与える影響を調査した報告は少ない。中島ら(2012)は,ハムストリングのSSを1週間継続した結果,膝関節伸展トルクの有意な増加が認められたと報告している。我々は,SS直後に拮抗筋の筋力が向上すれば,運動療法をより効果的に実施することが出来るのではないかと考えた。本研究の目的は,股関節内転筋群(AD)にSSを加え,拮抗筋である股関節外転筋群(AB)の筋出力が向上するかを確認することである。
【方法】
対象は,整形外科的疾患や神経学的疾患がない健康な成人男性50名(平均年齢25.1±2.5歳,身長171.1±4.5cm,体重65.5±9.1kg)とした。はじめに,右股関節外転角度を,角度計で他動的に計測し,疼痛の出現する直前の角度を記録した。続いて,右ABの最大随意等尺性収縮(MVC)を,サイベックスノルムCN77(CSMI社)を用い,肢位は「筋力測定装置CYBEX NORM User’s Manual」に準じて側臥位とし,股関節外転のMVCを3回行った。その後,背臥位で,右ADに対するSSを,30秒間保持の4セット,疼痛の出現する直前の強度で実施した。SS後,股関節外転角度,及びMVCの測定を再度行い,ABのピークトルク,体重比(%BC)を算出し,SSの前後で比較した。股関節外転角度とABのピークトルク,%BCの差の比較には,Wilcoxonの符号付き順位和検定を用い,有意水準は5%とした。

【結果】
SS前後の股関節外転角度の平均は,SS前42.6°±4.4°,SS後47.2°±4.1°で,SS後の股関節外転角度の有意な増大を示した。ABのピークトルクの平均も,SS前87.5±26.8Nm,SS後は94.3±29.5Nmとなり,SS後が有意に増大した。ABの%BCの平均についても,SS前135.1±42.5,SS後145.8±46.6で,SS後は有意な増大が得られた。
【考察】
股関節外転角度はSSにより11%の有意な増大を示したことから,ADの伸張性は改善し,SSの効果は得られていたと考えられる。Siatrasら(2008)は,30秒以上のSSで関節可動性が有意に増大したと報告していることから,本研究のSSの実施時間は,ADの伸張性を改善させるには,十分であったといえる。対象筋に対するSSの効果を調査した報告は多く,濱田ら(2008)は筋パワーの低下をもたらすとし,Rubiniら(2007)は最大筋発揮やパフォーマンスを低下させると報告している。本研究ではADのSS後に,拮抗筋のABのピークトルクが7.7%,%BCは7.9%向上したことが確認され,SSは拮抗筋の筋出力の向上に即時的な効果があることが示された。筋力発揮に関わる因子は多く挙げられるが,その中でも効果的な筋力発揮を得るための相反神経支配の関与が重要視されている。通常,関節運動時には拮抗筋の活動は完全には抑制されず共収縮が生じており,本研究ではSSによってADの伸張性が増大した結果,ADの共収縮が低下し,拮抗筋であるABの筋出力が改善したことが一つの要因ではないかと考える。本研究の結果,筋力強化の対象筋が明確な場合,SSは拮抗筋の筋出力を即時的に改善させることから,SSを行うことで拮抗筋の筋力を効率よく発揮出来ることがわかった。
【理学療法学研究としての意義】
主動作筋の筋力増強運動を行う直前に拮抗筋のSSを行うことで,より効果の高い運動療法が実施出来ると考える。