第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述86

予防理学療法7

Sun. Jun 7, 2015 8:30 AM - 9:30 AM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:笹野弘美(名古屋学院大学 リハビリテーション学部)

[O-0647] 前期ならびに後期高齢者における健康関連QOLに関わる要因

飯野朋彦1, 平瀬達哉2, 井口茂3 (1.介護老人保健施設にしきの里, 2.介護老人保健施設ガイアの里, 3.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻理学・作業療法学講座)

Keywords:前期高齢者, 後期高齢者, 健康関連QOL

【はじめに】
2025年には後期高齢者の人口に占める割合が最大となるといわれており,健康関連QOL(以下,HRQOL)を考慮した健康寿命の延伸が課題となっている。幅広い年齢層を対象とする介護予防事業では,HRQOL向上のための後期高齢者に対する取り組みはいうまでもないが,前期高齢者に対する取り組みも重要となる。先行研究では,HRQOLが高い高齢者は運動機能や心理面も良好であることが報告されている。一方,加齢とともに運動機能や心理面は低下し,転倒する可能性も高くなることが示されており,その結果としてHRQOLの低下が引き起こされる可能性が高い。つまり,HRQOLには運動機能や心理面が影響を及ぼすことが推察されるが,HRQOLに影響を及ぼす要因について年齢の違いに着目し検討した報告は少ない。そこで本研究では,前期高齢者ならびに後期高齢者別にHRQOLに関わる要因について運動機能や心理面,転倒リスク数から検討することを目的とした。
【方法】
対象は,平成18年より当施設が実施している一次予防,二次予防事業に参加した高齢者307名(男性54名,女性253名,平均年齢75.7±5.8歳)とした。そのうち65-74歳を前期高齢者134名(男性13名,女性121名,平均年齢70.3±2.6歳),75歳以上を後期高齢者173名(男性41名,女性132名,平均年齢79.9±3.9歳)に分類した。評価項目は,一般属性,HRQOL,運動機能,心理面,転倒リスク数とした。一般属性については,家族構成(独居/同居),服薬状況(無/有),痛みなどの自覚症状(無/有)を問診により聴取した。HRQOLについては,SF-36を用いて身体的健康を表すサマリースコア(PCS),精神的健康を表すサマリースコア(MCS)を算出した。運動機能については握力,開眼片脚立位,椅子起立時間,Timed Up and Go(TUG)を測定し,心理面については老年期うつ評価尺度(GDS-15)を用いて評価した。転倒リスク数は,鈴木らの転倒アセスメントを用いて,その合計数から評価した。分析は,SF-36のサマリースコア国民標準値の性別,年代別平均値を基準に,PCSとMCS双方ともに平均値以上の者をHRQOL高群,未満の者をHRQOL低群と分類し,前期高齢者と後期高齢者のそれぞれにおいて各評価項目をHRQOL分類別で比較した(χ2検定,Mann-WhitneyのU検定)。更に,前期高齢者と後期高齢者それぞれにおいてHRQOLが高くなる因子を特定するため,HRQOL(高/低)を目的変数,群間比較で有意差の認められた各評価項目を説明変数としたロジスティック回帰分析を行った。なお,いずれの統計手法とも有意水準は5%未満とした。
【結果】
前期高齢者では,HRQOL高群は28名,HRQOL低群は106名であった。後期高齢者では,HRQOL高群は37名,HRQOL低群は136名であった。前期高齢者においてHRQOL分類別に各評価項目を比較した結果,自覚症状の有無(p=0.045),年齢(p=0.002),椅子起立時間(p=0.022),TUG(p=0.036),GDS-15(p<0.001),転倒リスク数(p=0.008)で有意差を認めた。後期高齢者では,自覚症状の有無(p=0.013),開眼片脚立位(p=0.003),椅子起立時間(p=0.001),TUG(p=0.001),GDS-15(p<0.001),転倒リスク数(p<0.001)で有意差を認めた。更に,ロジスティック回帰分析の結果,前期高齢者では年齢,GDS-15がHRQOL分類に独立して関連性を認めた(オッズ比それぞれp=0.006,p=0.001)。後期高齢者ではGDS-15,転倒リスク数がHRQOL分類に独立して関連性を認めた(オッズ比それぞれp=0.008)。
【考察】
今回の結果から前期高齢者においては,自覚症状が無く,低年齢で転倒リスクも低いこと,更に運動機能や心理面が良好であることがHRQOLを高くする要因として示唆された。そして,その中でも最も影響力のある因子としては年齢と心理面であることが抽出された。後期高齢者においては,自覚症状が無く,転倒リスクも低いこと,更に運動機能や心理面が良好なであることがHRQOLを高くする要因として考えられた。そして,最も影響力のある因子としては心理面と転倒リスクが抽出された。これらのことから,前期高齢者においては年齢の増加とともに心理的なサポートを行う介入が重要であり,後期高齢者においては,心理面のサポートのみでなく転倒リスクを減少するような介入も必要になってくると考える。
【理学療法学研究としての意義】
我々理学療法士の関わりが多くなる介護予防分野において,前期高齢者,後期高齢者別のHRQOLに関わる因子を示せたことは,今後介入するにあたって重要な基礎資料となりうると考える。