第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

口述

口述86

予防理学療法7

Sun. Jun 7, 2015 8:30 AM - 9:30 AM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:笹野弘美(名古屋学院大学 リハビリテーション学部)

[O-0649] 動脈硬化を有する高齢者の身体的特徴と運動機能に関する研究

久保宏紀1,2, 浅井剛3, 福元喜啓3, 岡智大1,4, 糟谷明彦5, 金居督之2, 春藤久人3 (1.神戸学院大学大学院総合リハビリテーション学研究科, 2.伊丹恒生脳神経外科病院リハビリテーション部, 3.神戸学院大学総合リハビリテーション学部医療リハビリテーション学科, 4.あんしん病院リハビリテーション科, 5.北整形外科リハビリテーション科)

Keywords:高齢者, 動脈硬化, 身体機能

【はじめに,目的】
動脈硬化の進行は心疾患や脳血管疾患を惹き起こす最も重要な要因である。心疾患,脳血管疾患はともに死亡率の上位に位置し,脳血管疾患はわが国の介護・支援が必要になった主な原因の第1位で,全体の約21%を占めている。動脈硬化の進行を予防することは平均寿命や健康寿命の延伸に寄与すると考えられ,動脈硬化の進行に関連する要因について十分に理解する必要がある。動脈硬化の関連因子として年齢や性別,高血圧などの冠危険因子などが挙げられる。また,骨格筋量指標(Skeletal Muscle Mass Index,SMI)の低下と動脈硬化の関連も報告されており,身体機能や運動機能の低下が動脈硬化の進行に影響を及ぼしている可能性が考えられる。しかし,身体組成や運動機能と動脈硬化の関連を検討している報告は少ないのが現状である。本研究の目的は,地域在住健常高齢者において動脈硬化の進行にどのような特徴があるのか,年齢や性別,既往歴に加え,身体機能や運動機能を含め調査することである。

【方法】
地域在住健常高齢者50名(男性11名,女性39名,平均年齢72.3±7.6歳)を対象とした。質問紙を用いて動脈硬化の危険因子である高血圧,糖尿病,高脂血症の既往歴を聴取した。またBody Mass Index(BMI)により25を基準にそれ以上を肥満症とした。骨格筋量はIn body S20(Biospace)を用いて測定し,体重の影響を取り除くため体重で除した体重あたりの骨格筋量(SMI(%))を算出した。膝伸展最大筋力は膝伸展筋力計(竹井機器)を用いて測定し,骨格筋量と同様に体重で除した体重あたりの筋力(Weight Bearing Index,WBI(N/kg))を算出した。動脈硬化の測定には血圧脈波計測装置(フクダ電子)を用い,心臓足首血管指標(Cardio-Ankle Vascular Index,CAVI)を求めた。この指標は理論上血圧変動に依存しない血管の硬さを反映しており,新たな動脈硬化の指標として近年用いられてきている。運動機能としてTime up and Go(TUG)と5 Chair Stand(5CS)を測定した。CAVIの標準値9.0を基準に9.0以下の高齢者を非動脈硬化群,9.1以上の高齢者を動脈硬化群の2群に群分けした。各測定項目においてχ2検定,対応のないt検定を用いて2群間の比較を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。

【結果】
CAVIの標準値による群分けは非動脈硬化群17名,動脈硬化群33名であった。年齢は非動脈硬化群65.4±6.0歳,動脈硬化群75.9±5.7歳で有意差を認めた(p<0.001)。性別による両群間の差は認めなかった。動脈硬化の危険因子である高血圧,糖尿病,高脂血症の有病率には両群間に差を認めなかったが,肥満症の有病率は非動脈硬化群2%,動脈硬化群20%で有意差を認めた(p<0.05)。SMI,WBIには両群間の有意差は認めなかった。5CSには有意差を認めなかったが,TUGは非動脈硬化群5.4秒,動脈硬化群6.2秒で有意差を認めた(p<0.05)。

【考察】
本研究の結果より,同程度の身体機能を有している高齢者においても加齢や肥満症により動脈硬化が進行している可能性が示唆された。内臓脂肪の過剰蓄積は高血圧や脂質異常症,耐糖能異常などを介して間欠的に,あるいはアディポネクチンの作用により直接的に動脈硬化を進行することから,肥満症を予防・改善することで,動脈硬化の進行を予防できる可能性がある。また,下肢筋力と動脈硬化の進行には関連がないものの,バランスや敏捷性,移動能力などの要素を含めた総合的な運動機能が高いほどCAVIの値は低くなっていたことから,このような運動機能を維持する生活習慣があると動脈硬化が進行しにくくなると考えられる。

【理学療法学研究としての意義】
理学療法研究として本研究は動脈硬化の進行に疫学的な視点のみならず,身体機能の影響を理解する上で意義があると考える。