[O-0650] 移動能力に関わる要因について
キーワード:移動能力, 高齢者, 運動機能
【はじめに,目的】
平成25年国民生活基礎調査によると,要支援・要介護の原因として骨折・転倒および関節疾患を合算した運動器の障害が22.7%で1位となった。運動器の障害をロコモティブシンドローム(以下ロコモ)と称し,政府は健康日本21の第2次計画でロコモの認知度を高めることを目標にしている。ロコモの判定基準において近年ではロコモ度テストとして,立ち上がりテスト,2ステップテスト,ロコモ25が用いられている。日本整形外科学会が提唱するロコモの定義は移動能力の低下をきたした状態としているが,移動能力に上記3つのテストとの関わりを報告したものは少ない。本研究ではロコモ度テストに加え,バランスや筋力評価を含む他運動機能の測定を行い,移動能力に関わる項目を検討した。
【方法】
対象は埼玉県伊奈町に在住し,要支援・要介護および身体障害に該当しない60から70歳代の高齢者中高年者765名を対象とした。運動機能については,最大歩行速度を計測し,さらに握力,開眼片足立ち時間(以下OLS),Functional Reach Test(以下FRT),5回立ち上がりテスト(以下SS-5),2ステップテスト(以下2Step),10~40cm台での立ち上がりテスト(片足,両足ともに各4段階),膝伸展筋力,足趾把持力を測定した。運動機能以外にも身長や体重の計測およびBody Mass Index(以下BMI)を算出し,また質問紙評価により年齢および主観的強度を示すロコモ25とWomacの回答を得た。
統計処理については,最大歩行速度と各運動機能および身長,体重,BMI,質問紙評価点数との関係をPearsonの積率相関係数およびSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。さらに,最大歩行速度を従属変数とし,相関の得られた項目を独立変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。統計解析にはSPSS Ver16.0を使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
年齢は69.7±5.3歳,各運動機能項目は最大歩行速度1.9±2.9m/sec,握力28.4±8.3Kg,OLS49.1±39.9sec,FRT38.1±5.6cm,SS-5 8.4±2.5sec,2Step1.4±0.2,膝伸展筋力1.7±0.5Nm/Kg,足趾把持力1.7±0.5Kg/Kgとなった。最大歩行速度は握力,OLS,FRT,膝伸展筋力,立ち上がりテスト(片脚),足趾把持力,年齢,身長,体重,ロコモ25,Womacと弱い相関を示し(r=0.17~0.39),SS-5,2Stepと中等度の相関を示した(r=0.49~0.51)。独立変数に投入する際に多重共線性の問題を回避するため,身長およびWomacは独立変数より除外した。最大歩行速度を従属変数とした重回帰分析においては,独立変数として2Step,SS-5,握力,年齢,ロコモ25,体重,足趾把持力,OLSが選択された(調整済みr2=0.44)。
【考察】
本研究の対象者は健常な地域在住高齢者であり,鈴木らが報告する地域在住高齢者男性の最速歩行速度に近似している。最大歩行速度の低下は5年後の要介護や重度化,死亡に至る危険性との関連があることが報告されている。身体的虚弱(高齢者)理学療法診療ガイドラインにおいても移動・歩行の評価として高いエビデンスに位置づけられている。また,ロコモ度テストに用いられている2Stepの値は歩行速度との関連が強く,2Stepの値が低下するにつれ転倒リスクが高くなることが示されている。本研究では最大歩行速度と2Stepとの関連は中等度であり,その他の運動機能および質問紙にて得られる主観的強度も関連していた。さらに,重回帰分析により2Stepやロコモ25以外にもSS-5や握力,年齢,体重,足趾把持力,OLSの項目が選択された。新井らの報告においても,下肢筋力やバランス能力が最大歩行速度に関連する項目としている。最大歩行速度と関連する2Stepやロコモ25は移動能力における重要な指標であることが示唆された。さらに移動能力を詳細に把握するためには体重およびバランスや筋力評価を行う必要性について検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
ロコモ度テストは明らかな運動器疾患を持たない方の年代平均値を指標として,平均値より低いと将来ロコモとなる可能性が高いと考えられている。一般にはロコモを判定する上で3つの指標にて評価し,ロコモの恐れがある場合には理学療法士が介入すべき部分としてバランスや筋力評価も詳細に把握する必要があると考える。
平成25年国民生活基礎調査によると,要支援・要介護の原因として骨折・転倒および関節疾患を合算した運動器の障害が22.7%で1位となった。運動器の障害をロコモティブシンドローム(以下ロコモ)と称し,政府は健康日本21の第2次計画でロコモの認知度を高めることを目標にしている。ロコモの判定基準において近年ではロコモ度テストとして,立ち上がりテスト,2ステップテスト,ロコモ25が用いられている。日本整形外科学会が提唱するロコモの定義は移動能力の低下をきたした状態としているが,移動能力に上記3つのテストとの関わりを報告したものは少ない。本研究ではロコモ度テストに加え,バランスや筋力評価を含む他運動機能の測定を行い,移動能力に関わる項目を検討した。
【方法】
対象は埼玉県伊奈町に在住し,要支援・要介護および身体障害に該当しない60から70歳代の高齢者中高年者765名を対象とした。運動機能については,最大歩行速度を計測し,さらに握力,開眼片足立ち時間(以下OLS),Functional Reach Test(以下FRT),5回立ち上がりテスト(以下SS-5),2ステップテスト(以下2Step),10~40cm台での立ち上がりテスト(片足,両足ともに各4段階),膝伸展筋力,足趾把持力を測定した。運動機能以外にも身長や体重の計測およびBody Mass Index(以下BMI)を算出し,また質問紙評価により年齢および主観的強度を示すロコモ25とWomacの回答を得た。
統計処理については,最大歩行速度と各運動機能および身長,体重,BMI,質問紙評価点数との関係をPearsonの積率相関係数およびSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。さらに,最大歩行速度を従属変数とし,相関の得られた項目を独立変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。統計解析にはSPSS Ver16.0を使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
年齢は69.7±5.3歳,各運動機能項目は最大歩行速度1.9±2.9m/sec,握力28.4±8.3Kg,OLS49.1±39.9sec,FRT38.1±5.6cm,SS-5 8.4±2.5sec,2Step1.4±0.2,膝伸展筋力1.7±0.5Nm/Kg,足趾把持力1.7±0.5Kg/Kgとなった。最大歩行速度は握力,OLS,FRT,膝伸展筋力,立ち上がりテスト(片脚),足趾把持力,年齢,身長,体重,ロコモ25,Womacと弱い相関を示し(r=0.17~0.39),SS-5,2Stepと中等度の相関を示した(r=0.49~0.51)。独立変数に投入する際に多重共線性の問題を回避するため,身長およびWomacは独立変数より除外した。最大歩行速度を従属変数とした重回帰分析においては,独立変数として2Step,SS-5,握力,年齢,ロコモ25,体重,足趾把持力,OLSが選択された(調整済みr2=0.44)。
【考察】
本研究の対象者は健常な地域在住高齢者であり,鈴木らが報告する地域在住高齢者男性の最速歩行速度に近似している。最大歩行速度の低下は5年後の要介護や重度化,死亡に至る危険性との関連があることが報告されている。身体的虚弱(高齢者)理学療法診療ガイドラインにおいても移動・歩行の評価として高いエビデンスに位置づけられている。また,ロコモ度テストに用いられている2Stepの値は歩行速度との関連が強く,2Stepの値が低下するにつれ転倒リスクが高くなることが示されている。本研究では最大歩行速度と2Stepとの関連は中等度であり,その他の運動機能および質問紙にて得られる主観的強度も関連していた。さらに,重回帰分析により2Stepやロコモ25以外にもSS-5や握力,年齢,体重,足趾把持力,OLSの項目が選択された。新井らの報告においても,下肢筋力やバランス能力が最大歩行速度に関連する項目としている。最大歩行速度と関連する2Stepやロコモ25は移動能力における重要な指標であることが示唆された。さらに移動能力を詳細に把握するためには体重およびバランスや筋力評価を行う必要性について検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
ロコモ度テストは明らかな運動器疾患を持たない方の年代平均値を指標として,平均値より低いと将来ロコモとなる可能性が高いと考えられている。一般にはロコモを判定する上で3つの指標にて評価し,ロコモの恐れがある場合には理学療法士が介入すべき部分としてバランスや筋力評価も詳細に把握する必要があると考える。