[O-0651] 高齢女性における立位脊柱アライメントと動作能力の関連
―年代別での検討―
Keywords:脊柱アライメント, 動作能力, 地域在住高齢者
【はじめに,目的】
高齢者の立位姿勢は胸椎部の過剰な後弯や腰椎部の前弯減少を呈することが多い。この高齢者の脊柱後弯変化はまず胸椎の変化から始まり,加齢に伴い腰椎へと進行するとされていることから,高齢期の各年代によって胸椎後弯・腰椎後弯のアライメント変化のパターンは異なることが予想される。一方,このような高齢者の脊柱アライメント変化は動作能力に影響を及ぼすことが知られている。そのため,脊柱アライメント変化が動作能力に及ぼす影響についても各年代によって異なることが考えられる。しかしながら,各年代のどのようなアライメント変化がどのような動作能力に影響を及ぼすのかを詳細に検討した報告はみられない。
そこで本研究では高齢女性における立位姿勢での脊柱アライメントが動作能力に及ぼす影響を年代別に検討した。
【方法】
対象は滋賀県長浜市に在住している高齢女性177名(66.7±5.0歳)とし,年代別に60-64歳(67名,61.9±1.5歳),65-69歳(61名,66.6±1.3歳),70歳以上(49名,73.5±2.7歳)の3群に群分けをした。なお,測定に大きな支障を及ぼすほど重度の神経学的・整形外科的障害や認知障害を有する者は対象から除外した。脊柱のアライメントの評価はSpinal Mouse(スイス・イディアク社製)を用い,普段通りの安静立位姿勢における胸椎後弯角度および腰椎前弯角度を測定した。動作能力として,段差昇降能力(30秒間段差昇降回数),立ち座り能力(5回立ち座り時間),Timed Up and Go test(TUG),通常歩行速度,最大歩行速度を測定した。
統計学的解析として,胸椎後弯角度,腰椎前弯角度の年代による違いを一元配置分散分析および多重比較(Bonferroni法)を用いて検討した。またそれぞれの年代別に脊柱アライメントと動作能力との関連を調べるためにPearsonの相関分析を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
立位での胸椎後弯角度は60-64歳で37.8±10.4°,65-69歳で34.9±12.5°,70歳以上で34.6±12.5°であり,胸椎後弯角度を年代別に比較した結果,どの年代間にも有意差はみられなかった。また腰椎前弯角度は60-64歳で20.9±11.3°,65-69歳で19.4±14.1°,70歳以上で11.3±16.4°であり,腰椎前弯角度においては70歳以上が60-64歳および65-69歳と比較して有意に小さな値を示した。
胸椎後弯角度と動作能力との関連について,65-69歳,70歳以上の2群においてはいずれの動作能力とも有意な相関はみられなかったが,60-64歳では段差昇降能力と有意な相関を示した(r=-0.269)。腰椎前弯角度と動作能力との関連について,60-64歳,65-69歳の2群においてはいずれの動作能力とも相関はみられなかった。しかしながら70歳以上では腰椎前弯角度とTUG(r=-0.342),通常歩行速度(r=0.319),最大歩行速度(r=0.410)との間で有意な相関がみられた。
【考察】
脊柱アライメントの年代による違いを分析した結果,腰椎前弯角度においては70歳以上が60-64歳および65-69歳と比較して有意に小さな値を示した。このことから,70歳以上ではさらに加齢に伴う腰椎後弯変化が進行することが示唆された。
脊柱アライメントと動作能力との関連について,胸椎後弯角度では60-64歳においてのみ段差昇降能力との有意な相関がみられた。60歳代前半では加齢早期に生じた胸椎後弯増強のアライメント変化に対応した姿勢制御がまだうまく行われず,大きな重心移動を伴う段差昇降能力に影響を及ぼしたと推測される。
また,腰椎前弯角度では70歳以上においてのみTUGと通常および最大歩行速度との相関がみられた。このことから,70歳代以降になると進行する腰椎後弯変化の影響のほうが大きくなると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果,高齢女性における立位脊柱アライメントが動作能力に及ぼす影響は年代によって異なり,60歳代前半の女性においては胸椎後弯増強のアライメント変化が段差昇降能力に,70歳以上の女性においては腰椎後弯のアライメント変化が歩行速度に影響を及ぼしていることが示唆された。
高齢者の立位姿勢は胸椎部の過剰な後弯や腰椎部の前弯減少を呈することが多い。この高齢者の脊柱後弯変化はまず胸椎の変化から始まり,加齢に伴い腰椎へと進行するとされていることから,高齢期の各年代によって胸椎後弯・腰椎後弯のアライメント変化のパターンは異なることが予想される。一方,このような高齢者の脊柱アライメント変化は動作能力に影響を及ぼすことが知られている。そのため,脊柱アライメント変化が動作能力に及ぼす影響についても各年代によって異なることが考えられる。しかしながら,各年代のどのようなアライメント変化がどのような動作能力に影響を及ぼすのかを詳細に検討した報告はみられない。
そこで本研究では高齢女性における立位姿勢での脊柱アライメントが動作能力に及ぼす影響を年代別に検討した。
【方法】
対象は滋賀県長浜市に在住している高齢女性177名(66.7±5.0歳)とし,年代別に60-64歳(67名,61.9±1.5歳),65-69歳(61名,66.6±1.3歳),70歳以上(49名,73.5±2.7歳)の3群に群分けをした。なお,測定に大きな支障を及ぼすほど重度の神経学的・整形外科的障害や認知障害を有する者は対象から除外した。脊柱のアライメントの評価はSpinal Mouse(スイス・イディアク社製)を用い,普段通りの安静立位姿勢における胸椎後弯角度および腰椎前弯角度を測定した。動作能力として,段差昇降能力(30秒間段差昇降回数),立ち座り能力(5回立ち座り時間),Timed Up and Go test(TUG),通常歩行速度,最大歩行速度を測定した。
統計学的解析として,胸椎後弯角度,腰椎前弯角度の年代による違いを一元配置分散分析および多重比較(Bonferroni法)を用いて検討した。またそれぞれの年代別に脊柱アライメントと動作能力との関連を調べるためにPearsonの相関分析を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
立位での胸椎後弯角度は60-64歳で37.8±10.4°,65-69歳で34.9±12.5°,70歳以上で34.6±12.5°であり,胸椎後弯角度を年代別に比較した結果,どの年代間にも有意差はみられなかった。また腰椎前弯角度は60-64歳で20.9±11.3°,65-69歳で19.4±14.1°,70歳以上で11.3±16.4°であり,腰椎前弯角度においては70歳以上が60-64歳および65-69歳と比較して有意に小さな値を示した。
胸椎後弯角度と動作能力との関連について,65-69歳,70歳以上の2群においてはいずれの動作能力とも有意な相関はみられなかったが,60-64歳では段差昇降能力と有意な相関を示した(r=-0.269)。腰椎前弯角度と動作能力との関連について,60-64歳,65-69歳の2群においてはいずれの動作能力とも相関はみられなかった。しかしながら70歳以上では腰椎前弯角度とTUG(r=-0.342),通常歩行速度(r=0.319),最大歩行速度(r=0.410)との間で有意な相関がみられた。
【考察】
脊柱アライメントの年代による違いを分析した結果,腰椎前弯角度においては70歳以上が60-64歳および65-69歳と比較して有意に小さな値を示した。このことから,70歳以上ではさらに加齢に伴う腰椎後弯変化が進行することが示唆された。
脊柱アライメントと動作能力との関連について,胸椎後弯角度では60-64歳においてのみ段差昇降能力との有意な相関がみられた。60歳代前半では加齢早期に生じた胸椎後弯増強のアライメント変化に対応した姿勢制御がまだうまく行われず,大きな重心移動を伴う段差昇降能力に影響を及ぼしたと推測される。
また,腰椎前弯角度では70歳以上においてのみTUGと通常および最大歩行速度との相関がみられた。このことから,70歳代以降になると進行する腰椎後弯変化の影響のほうが大きくなると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果,高齢女性における立位脊柱アライメントが動作能力に及ぼす影響は年代によって異なり,60歳代前半の女性においては胸椎後弯増強のアライメント変化が段差昇降能力に,70歳以上の女性においては腰椎後弯のアライメント変化が歩行速度に影響を及ぼしていることが示唆された。