[O-0663] 変形性膝関節症患者における外側スラストの出現は安静時痛,動作時痛,日常生活動作の困難さに影響する
キーワード:変形性膝関節症, ラテラルスラスト, 関節痛
【はじめに】
変形性膝関節症(膝OA)は,膝関節の変形や関節軟骨の摩耗を伴う退行性疾患であり,重症化した際には観血的加療に移行する症例も少なくない。したがって,保存療法の時期に,進行予防を目的とした適切な評価や介入が必要とされている。動的評価である外側スラストは,関節変形の増悪因子であることが報告されており,その有用性が着目されている。しかし,未だスラストと臨床症状に関する報告は少なく,スラスト評価の有用性は十分に検証できていない。さらに,スラストを起因とする関節痛は,日常生活動作(ADL)に影響を及ぼす可能性があるため,新たな着眼点として,ADLを含めた複合的評価尺度との関連性を検討する必要性がある。そこで本研究では,変形性膝関節症機能評価尺度(JKOM)の下位尺度(痛みとこわばり,日常生活の状態,社会的交流,健康状態)を使用し,外側スラストとJKOM下位尺度の関連性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は保存的加療中の膝OA外来患者302名とした(72.6±7.0歳,女性78.6%)。包含基準は,50歳以上,Kellgren/Lawrence(K/L)分類≧Grade1,自立歩行が可能な者とした。質問紙にて,年齢,性別,身長,JKOMを調査し,体重,運動機能,関節可動域を計測した。レントゲン所見は,3ヶ月以内に撮影された画像所見を使用した。K/L分類の判定は,盲検化した状態で外部の整形外科医が行い,検者内信頼性はκ=0.90であった。スラストの有無は,ビデオカメラ(HDR-CX550V;Sony Corporation製)にて,快適歩行を前額面から記録し,盲検化した状態で2名の独立した理学療法士が評価した。検者内信頼性は,それぞれ,κ=0.92,κ=0.81であり,検者間信頼性はκ=0.73であった。統計解析は,まずスラストの有無に基づき,スラストあり群・なし群の2群に分け,カイ二乗検定,対応のないt検定を行った。その後,従属変数にJKOM下位尺度を,独立変数にスラストの有無を,調整変数に年齢,性別,BMI,K/L分類を投入した重回帰分析(強制投入)を行った。さらに,重回帰分析においてスラストと有意な関連性が認められた下位尺度に含まれる細項目の回答(0-4の5段階)を,痛みもしくは困難さの有無(0:なし,1:あり)でダミー変数化した2区分変数を従属変数に投入し,独立変数にスラストの有無を,調整変数に年齢,性別,BMI,K/L分類を投入したロジスティック回帰分析(強制投入)を行った。統計学的有意確率は5%未満とした。
【結果】
測定データに欠損のない290名を解析対象とした。対象者のうち,48名(16.6%)にスラストを認めた。2群間の比較では,スラストあり群は有意にBMIが高く,膝屈曲制限があり,K/L分類が重症化していた。重回帰分析の結果,スラストは“痛みとこわばり”,“日常生活の状態”に独立して関連していた(β=0.19,P<0.01;β=0.12,P<0.05)。さらに,ロジスティック回帰分析の結果,スラストは基本情報とK/L分類で調整してもなお,起床時,夜間,歩行時,階段下り時の膝関節痛(オッズ比(OR)2.51,P<0.05;OR 2.23,P<0.05;OR 3.09,P<0.01;OR 3.02,P<0.05),洋式トイレからの立ち上がり,連続歩行の困難さ(OR 2.23,P<0.05;OR 2.11,P<0.05)と独立して関連していた。
【考察】
本研究結果より,膝OA患者に認められるスラストは,安静時痛,動作時痛,そして日常生活の困難さと,独立して関連していることが明らかになった。安静時痛に関して,先行研究ではスラストに伴う機械的刺激が組織の損傷を引き起こすことが報告されており,この損傷が炎症を引き起こし,安静時痛に関連していると考えられる。動作時痛に関しては,これまで歩行時痛との関連性が数多く報告されているが,階段下り時の膝関節痛とも関連していることが新たに明らかになった。これは,動作時に生じる膝内反モーメントの増加が膝関節痛の発生に関与していると考えられる。さらに,立ち上がりや連続歩行の困難さには,スラストによって生じる膝関節痛が介在し,間接的に影響を及ぼしていると考えられる。今後は,縦断的研究やスラストの抑制を目的とした介入研究を行い,進行予防を目的とした保存療法を確立していく必要性がある。
【理学療法学研究としての意義】
スラスト評価は,三次元動作解析などの機器を使用した評価法と比較し,簡易的,低コスト,高い汎用性という利点を持っている。加えて,本研究によって様々な臨床症状との関連性が証明された。本研究は,臨床で多用されているスラスト評価の有用性を科学的に証明したという面で,意義のある理学療法学研究と言える。
変形性膝関節症(膝OA)は,膝関節の変形や関節軟骨の摩耗を伴う退行性疾患であり,重症化した際には観血的加療に移行する症例も少なくない。したがって,保存療法の時期に,進行予防を目的とした適切な評価や介入が必要とされている。動的評価である外側スラストは,関節変形の増悪因子であることが報告されており,その有用性が着目されている。しかし,未だスラストと臨床症状に関する報告は少なく,スラスト評価の有用性は十分に検証できていない。さらに,スラストを起因とする関節痛は,日常生活動作(ADL)に影響を及ぼす可能性があるため,新たな着眼点として,ADLを含めた複合的評価尺度との関連性を検討する必要性がある。そこで本研究では,変形性膝関節症機能評価尺度(JKOM)の下位尺度(痛みとこわばり,日常生活の状態,社会的交流,健康状態)を使用し,外側スラストとJKOM下位尺度の関連性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は保存的加療中の膝OA外来患者302名とした(72.6±7.0歳,女性78.6%)。包含基準は,50歳以上,Kellgren/Lawrence(K/L)分類≧Grade1,自立歩行が可能な者とした。質問紙にて,年齢,性別,身長,JKOMを調査し,体重,運動機能,関節可動域を計測した。レントゲン所見は,3ヶ月以内に撮影された画像所見を使用した。K/L分類の判定は,盲検化した状態で外部の整形外科医が行い,検者内信頼性はκ=0.90であった。スラストの有無は,ビデオカメラ(HDR-CX550V;Sony Corporation製)にて,快適歩行を前額面から記録し,盲検化した状態で2名の独立した理学療法士が評価した。検者内信頼性は,それぞれ,κ=0.92,κ=0.81であり,検者間信頼性はκ=0.73であった。統計解析は,まずスラストの有無に基づき,スラストあり群・なし群の2群に分け,カイ二乗検定,対応のないt検定を行った。その後,従属変数にJKOM下位尺度を,独立変数にスラストの有無を,調整変数に年齢,性別,BMI,K/L分類を投入した重回帰分析(強制投入)を行った。さらに,重回帰分析においてスラストと有意な関連性が認められた下位尺度に含まれる細項目の回答(0-4の5段階)を,痛みもしくは困難さの有無(0:なし,1:あり)でダミー変数化した2区分変数を従属変数に投入し,独立変数にスラストの有無を,調整変数に年齢,性別,BMI,K/L分類を投入したロジスティック回帰分析(強制投入)を行った。統計学的有意確率は5%未満とした。
【結果】
測定データに欠損のない290名を解析対象とした。対象者のうち,48名(16.6%)にスラストを認めた。2群間の比較では,スラストあり群は有意にBMIが高く,膝屈曲制限があり,K/L分類が重症化していた。重回帰分析の結果,スラストは“痛みとこわばり”,“日常生活の状態”に独立して関連していた(β=0.19,P<0.01;β=0.12,P<0.05)。さらに,ロジスティック回帰分析の結果,スラストは基本情報とK/L分類で調整してもなお,起床時,夜間,歩行時,階段下り時の膝関節痛(オッズ比(OR)2.51,P<0.05;OR 2.23,P<0.05;OR 3.09,P<0.01;OR 3.02,P<0.05),洋式トイレからの立ち上がり,連続歩行の困難さ(OR 2.23,P<0.05;OR 2.11,P<0.05)と独立して関連していた。
【考察】
本研究結果より,膝OA患者に認められるスラストは,安静時痛,動作時痛,そして日常生活の困難さと,独立して関連していることが明らかになった。安静時痛に関して,先行研究ではスラストに伴う機械的刺激が組織の損傷を引き起こすことが報告されており,この損傷が炎症を引き起こし,安静時痛に関連していると考えられる。動作時痛に関しては,これまで歩行時痛との関連性が数多く報告されているが,階段下り時の膝関節痛とも関連していることが新たに明らかになった。これは,動作時に生じる膝内反モーメントの増加が膝関節痛の発生に関与していると考えられる。さらに,立ち上がりや連続歩行の困難さには,スラストによって生じる膝関節痛が介在し,間接的に影響を及ぼしていると考えられる。今後は,縦断的研究やスラストの抑制を目的とした介入研究を行い,進行予防を目的とした保存療法を確立していく必要性がある。
【理学療法学研究としての意義】
スラスト評価は,三次元動作解析などの機器を使用した評価法と比較し,簡易的,低コスト,高い汎用性という利点を持っている。加えて,本研究によって様々な臨床症状との関連性が証明された。本研究は,臨床で多用されているスラスト評価の有用性を科学的に証明したという面で,意義のある理学療法学研究と言える。