第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述89

臨床教育

Sun. Jun 7, 2015 8:30 AM - 9:30 AM 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:平野孝行(名古屋学院大学 リハビリテーション学部理学療法学科)

[O-0668] 兵庫県下の理学療法士勤務施設における災害リハビリテーション支援の現状と課題

山野薫1, 天野真衣1, 松尾慎1, 西川仁史2 (1.宝塚医療大学保健医療学部, 2.甲南女子大学看護リハビリテーション学部)

Keywords:理学療法士, 災害リハビリテーション支援, 人員派遣

【はじめに】わが国では,1995(平成7)年に発生した阪神淡路大震災以降,数年おきに大規模災害に見舞われ,その度に理学療法士も被災者の支援に駆け付けた。その後,東日本大震災リハビリテーション(リハ)支援関連10団体(JRAT)が組織され,活動を行っている。本研究では,大規模災害時の理学療法士の施設内対応や勤務施設外への災害リハ支援体制の現状を把握することを目的とした。
【方法】対象は,一般社団法人兵庫県理学療法士会(県士会)の2012年度版会員名簿に掲載されている会員勤務施設(施設)671施設とした。方法は,郵送による質問紙法(無記名)とした。質問紙への回答の依頼は,理学療法(PT)部門責任者とした。調査項目は,各施設の情報,防災対策,災害支援の支援体制,および自由記載欄とした。
【結果】返送された調査票は,265通(回収率39.7%)であった。この内,記載不備の2通を除いた263通を分析対象とした。設立母体別では,医療法人160施設(60.8%),市町立24施設(9.1%),公的な団体16施設(6.1%)等であった。施設区分別では,一般病院105施設(39.9%),介護保険施設47施設(17.9%),総合病院21施設(8.0%),無床診療所21施設(8.0%)等であった。施設の防災対策では,施設全体の災害マニュアルが「ある」198施設(75.3%),「なし」40施設(15.2%),「わからない」25施設(9.5%)であった。対応する災害の種類(重複回答)は,「火災」182施設(69.2%),「地震」167施設(63.5%),「津波」53施設(20.2%),「洪水」54施設(20.5%)等であった。発災時の職員への緊急連絡システムは,「ある」234施設(89.0%),「なし」20施設(7.6%),「わからない」8施設(3.0%),無回答1施設(0.4%)であった。災害対策研修などの実施は,「ある」171施設(65.0%),「なし」78施設(29.7%),「わからない」14施設(5.3%)であった。災害リハ支援の人員派遣体制は,独自の派遣制度が「ある」12施設(4.6%),「なし」227施設(86.3%),「わからない」24施設(9.1%)であった。また,発災時の人員派遣(重複回答)は,「有給休暇」56施設(21.3%),「ボランティア休暇」26施設(9.9%),「独自の制度」22施設(8.4%),「関連団体の制度」17施設(6.5%),「日本理学療法士協会(以下,協会)の制度」14施設(5.3%),「わからない」88施設(33.5%),無回答72施設(27.4%)であった。
【考察】本研究の特徴的な課題は,以下の2点と考えられた。第1は,災害リハ支援の派遣体制は,86.3%に整備されておらず,「わからない」(9.1%)を加えた95.4%の施設は,理学療法士の施設外活動の支援体制がないことが分かった。また,発災時の人員派遣の手続きは,「有給休暇利用」と「ボランティア休暇利用」が主であり,個人の休暇に頼っていた。加えて,回答の60.9%が,「わからない」と無回答であったことは,臨床現場が持つ災害リハ支援の派遣体制の理解度や取り組みの温度差ととらえられる。災害時の人員派遣の法的根拠は,災害対策基本法をもとに災害救助法(昭和22年10月18日法律第118号)によって整備されている。しかし,各法律は人命最優先の原則に基づくため,廃用症候群や障害の管理などで理学療法士の支援が必要な時期(JRATが示す第2期後半から第3期前半(発災後約2か月))の活動に対して有効な法整備となっていない。ところで,日本看護協会は,災害派遣事業の中で臨床経験5年以上の会員を対象に「災害支援ナース」の養成講習会を開催している。理学療法士も被災者の健康管理に幅広く貢献できる職種であることから,協会等を中心に被災地で活躍できる人材育成を行い,前述した温度差の解消を図るべきである。第2に,各施設の防災対策については,PT部門責任者は施設全体のマニュアルの存在を認識していたことが挙げられる。この点は評価できるが,その多くは火災マニュアルであり,年1回の防火訓練により,身近な体験として回答を引き出しやすかったものと考えられる。また,発災時の職員に対する緊急連絡システムも約9割に整備されており,好適な結果といえる。しかし,本研究は大規模災害の模擬検証の有無まで踏み込めておらず,今後の課題とした。今後,PT部門は,取扱患者数や職場方針等を踏まえて,人員配置を考え,防災対策と災害リハ支援業務を希望する職員を派遣できる体制を整える努力が必要である。
【理学療法学研究としての意義】災害リハ支援は,理学療法士の就労環境(人的・物的環境)に左右される。PT部門は,発災時の人員派遣に対応できる平素の組織作りが重要であり,本研究はその足がかりとなる。