[O-0673] 回復期リハビリテーション病棟における被殻出血患者の独歩獲得率
Keywords:被殻出血, 血管支配領域, 独歩獲得率
【はじめに,目的】
Chungらは発症約2週間の急性期被殻出血患者の出血部位を血管支配領域別に6分類しModified Rankin Scaleや感覚障害,高次脳機能障害などの出現傾向を報告している。回復期リハビリテーション病棟(以下;回復期)を経過した長期的な傾向を検討した報告は見られない。今回,被殻出血患者における回復期退院時の独歩獲得率を各部位間で調査しChungらの報告と比較検討を行った。
【方法】
2008年-2014年の間に入院した被殻出血患者70名を対象とした。男性40名,女性30名,年齢平均60(35-83)歳,損傷側は左側36名,右側34名であった。既往歴に脳血管疾患や整形外科疾患を有する症例は除外した。急性期頭部CT画像と回復期入院時頭部CT画像(撮影日;発症後平均35±17日)を用いて出血位置を確認しChungらが報告している6タイプに分類した。尾状核頭,尾状核体周囲を支配するHeubner’s動脈領域を前方タイプ,淡蒼球と被殻中心周囲を支配する内側レンズ核線条体動脈領域を中間タイプ,内包後脚の前方周囲を支配する前脈絡叢動脈領域を後内側タイプ,被殻後方周囲を支配する外側レンズ核線条体動脈後内側枝領域を後外側タイプ,外包と島皮質周囲を支配する外側レンズ核線条体動脈最外側枝領域を外側タイプ,線条体と内包を含む大血腫を大出血タイプとした。退院時Functional Independent measure(以下;FIM)移動項目1-5点を独歩不可能,6-7点を独歩可能とし,退院時のFIM認知項目,Brunnstrom stage(以下;BRS)を調査した。またChungらの報告と比較を行うために各タイプの独歩可能者を各タイプの総数で除し,各タイプにおける独歩獲得率を求めた。各タイプの割合,年齢平均,独歩獲得率,退院時FIM移動項目の点数とFIM認知項目の点数,BRSを比較した。統計学的解析はStatcel2を用い,独立した多群の差の検定としてKruskal-Wallis検定を行い。多群比較としてTurkey-Kramer法を行った。有意水準はいずれもp<0.05とした。
【結果】
前方タイプ4名(5.7%),中間タイプ7名(10%),後内側タイプ4名(5.7%),後外側タイプ14名(20%),外側タイプ32名(46%),大出血タイプ9名(12.9%)であった。年齢は各タイプで統計学的な有意差は見られなかった。前方タイプは独歩獲得率75%,FIM移動5.3±2.5点,FIM認知20±7.8点,BRSIII50%,VI50%。中間タイプは独歩獲得率86%,FIM移動6.3±1.0点,FIM認知32.7±3.1点,BRSIII14%,IV29%,V14%,VI43%。後内側タイプは独歩獲得率75%,FIM移動6.0±1.2点,FIM認知25.7±8.8点,BRSIII75%,IV25%。後外側タイプは独歩獲得率50%,FIM移動4.8±2.1点,FIM認知29.4±6.3点,BRSII29%,III36%,V14%,VI21%。外側タイプは独歩獲得率94%,FIM移動6.4±1.1点,FIM認知31.5±4.7点,BRSII6%,III21%,IV24%,V18%,VI30%。大出血タイプは独歩獲得率13%,FIM移動1.9±2.0点,FIM認知17.6±6.5点,BRSI11%,II56%,III22%,V10%。統計学的解析の結果,FIM移動項目は後外側タイプ,大出血タイプで有意に低く,同時に独歩獲得率も低かった。FIM認知項目は大出血タイプと前方タイプで有意に点数が低かった。
【考察】
Chungらの報告では対象者は215名,年齢平均57.4(27-90)歳であり本調査の対象者は70名,年齢平均60(35-83)歳であり,年齢平均には差が見られなかった。独歩獲得率は外側タイプ94%,中間タイプ86%の順に高く,Chungらの報告では外側タイプ60%,中間タイプ50%であり,いずれも回復期退院時の方が同タイプにおいて高かった。2タイプは共に内包,放線冠を直接的に損傷することは稀であったために独歩獲得しやすかったと思われる。後外側タイプ,大血腫タイプの独歩獲得率は他の部位と比較すると低い結果であり,Chungらの報告と同程度の結果となった。それらの部位は内包又はその近傍を支配する血管領域であり随意運動,筋緊張の調整をはじめとする自立歩行に関わる神経線維群が損傷していた可能性がある。発症早期には脳浮腫,血腫の圧排などの影響で出血の周辺組織は一時的な機能低下が生じていたと考えられる。回復期退院時にはそれらはほぼなくなっている事が予測されるため同タイプでも発症からの期間の違いが影響したと考える。FIM認知に関しては前方タイプ,後内側タイプの順に低かった。これらは大脳基底核の入力核である尾状核やそれに関わる神経線維群の損傷により認知機能の低下をきたしやすかった可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
被殻出血において出血血管の違いにより機能的な予後に差が生じる傾向がみられた。画像読影時は出血の進展方向に加えて,出血源も把握することで血腫が吸収された後の予後予測の一助になる可能性がある。
Chungらは発症約2週間の急性期被殻出血患者の出血部位を血管支配領域別に6分類しModified Rankin Scaleや感覚障害,高次脳機能障害などの出現傾向を報告している。回復期リハビリテーション病棟(以下;回復期)を経過した長期的な傾向を検討した報告は見られない。今回,被殻出血患者における回復期退院時の独歩獲得率を各部位間で調査しChungらの報告と比較検討を行った。
【方法】
2008年-2014年の間に入院した被殻出血患者70名を対象とした。男性40名,女性30名,年齢平均60(35-83)歳,損傷側は左側36名,右側34名であった。既往歴に脳血管疾患や整形外科疾患を有する症例は除外した。急性期頭部CT画像と回復期入院時頭部CT画像(撮影日;発症後平均35±17日)を用いて出血位置を確認しChungらが報告している6タイプに分類した。尾状核頭,尾状核体周囲を支配するHeubner’s動脈領域を前方タイプ,淡蒼球と被殻中心周囲を支配する内側レンズ核線条体動脈領域を中間タイプ,内包後脚の前方周囲を支配する前脈絡叢動脈領域を後内側タイプ,被殻後方周囲を支配する外側レンズ核線条体動脈後内側枝領域を後外側タイプ,外包と島皮質周囲を支配する外側レンズ核線条体動脈最外側枝領域を外側タイプ,線条体と内包を含む大血腫を大出血タイプとした。退院時Functional Independent measure(以下;FIM)移動項目1-5点を独歩不可能,6-7点を独歩可能とし,退院時のFIM認知項目,Brunnstrom stage(以下;BRS)を調査した。またChungらの報告と比較を行うために各タイプの独歩可能者を各タイプの総数で除し,各タイプにおける独歩獲得率を求めた。各タイプの割合,年齢平均,独歩獲得率,退院時FIM移動項目の点数とFIM認知項目の点数,BRSを比較した。統計学的解析はStatcel2を用い,独立した多群の差の検定としてKruskal-Wallis検定を行い。多群比較としてTurkey-Kramer法を行った。有意水準はいずれもp<0.05とした。
【結果】
前方タイプ4名(5.7%),中間タイプ7名(10%),後内側タイプ4名(5.7%),後外側タイプ14名(20%),外側タイプ32名(46%),大出血タイプ9名(12.9%)であった。年齢は各タイプで統計学的な有意差は見られなかった。前方タイプは独歩獲得率75%,FIM移動5.3±2.5点,FIM認知20±7.8点,BRSIII50%,VI50%。中間タイプは独歩獲得率86%,FIM移動6.3±1.0点,FIM認知32.7±3.1点,BRSIII14%,IV29%,V14%,VI43%。後内側タイプは独歩獲得率75%,FIM移動6.0±1.2点,FIM認知25.7±8.8点,BRSIII75%,IV25%。後外側タイプは独歩獲得率50%,FIM移動4.8±2.1点,FIM認知29.4±6.3点,BRSII29%,III36%,V14%,VI21%。外側タイプは独歩獲得率94%,FIM移動6.4±1.1点,FIM認知31.5±4.7点,BRSII6%,III21%,IV24%,V18%,VI30%。大出血タイプは独歩獲得率13%,FIM移動1.9±2.0点,FIM認知17.6±6.5点,BRSI11%,II56%,III22%,V10%。統計学的解析の結果,FIM移動項目は後外側タイプ,大出血タイプで有意に低く,同時に独歩獲得率も低かった。FIM認知項目は大出血タイプと前方タイプで有意に点数が低かった。
【考察】
Chungらの報告では対象者は215名,年齢平均57.4(27-90)歳であり本調査の対象者は70名,年齢平均60(35-83)歳であり,年齢平均には差が見られなかった。独歩獲得率は外側タイプ94%,中間タイプ86%の順に高く,Chungらの報告では外側タイプ60%,中間タイプ50%であり,いずれも回復期退院時の方が同タイプにおいて高かった。2タイプは共に内包,放線冠を直接的に損傷することは稀であったために独歩獲得しやすかったと思われる。後外側タイプ,大血腫タイプの独歩獲得率は他の部位と比較すると低い結果であり,Chungらの報告と同程度の結果となった。それらの部位は内包又はその近傍を支配する血管領域であり随意運動,筋緊張の調整をはじめとする自立歩行に関わる神経線維群が損傷していた可能性がある。発症早期には脳浮腫,血腫の圧排などの影響で出血の周辺組織は一時的な機能低下が生じていたと考えられる。回復期退院時にはそれらはほぼなくなっている事が予測されるため同タイプでも発症からの期間の違いが影響したと考える。FIM認知に関しては前方タイプ,後内側タイプの順に低かった。これらは大脳基底核の入力核である尾状核やそれに関わる神経線維群の損傷により認知機能の低下をきたしやすかった可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
被殻出血において出血血管の違いにより機能的な予後に差が生じる傾向がみられた。画像読影時は出血の進展方向に加えて,出血源も把握することで血腫が吸収された後の予後予測の一助になる可能性がある。