[O-0676] 人工膝関節全置換術後症例の大腿四頭筋に対する神経筋電気刺激の効果
刺激電流強度に着目して
キーワード:人工膝関節全置換術, 神経筋電気刺激, 筋力増強
【はじめに,目的】
人工膝関節全置換術(TKA)後,関節腫脹等の二次的な抑制による中枢神経系弱化により,大腿四頭筋筋力低下が残存する。その中枢性筋力低下に対して通常の筋力増強に神経筋電気刺激(NMES)を付加することが有効であると報告されている。NMESによる筋力増強は過負荷の原則に従って高強度の方が筋力改善効果が高いとされるが,筋収縮を伴わない感覚強度のNMESにおいても上位中枢からの下行性入力を増大させ,筋力を改善させるとの報告もある。高強度の刺激は治療のアドヒアランスを低下させるため,疼痛や不快感の少ない感覚強度のNMESを用いる利点は大きい。しかし,TKA後筋力増強に関してNMES強度と筋力改善の関係をみた報告はない。今回はTKA後症例に対してNMESを実施した効果とその刺激電流強度と筋力改善の関連を検証した。
【方法】
研究デザインは評価者のみをブラインドし,介入者と対象者にはブラインドを行わないシングルブラインドの準ランダム化比較対照試験とした。対象は片側TKAを施行した症例60名60膝とし,感覚強度NMES(sNMES)群20名,運動強度NMES(mNMES)群20名,NMES非実施(Control)群20名にExcel乱数関数を用いて割り付けた。NMESは,術後2週目より5日/週×2週間,大腿四頭筋へ実施した。機器は両群共に電気治療器(Intelect Mobile Stim,Chattanooga社製)を使用し,二相性対称性パルス波,周波数100Hz,パルス幅1msとし,電極は大腿神経幹上,大腿直筋,内外側広筋のモーターポイントに貼付した。sNMES群は筋収縮が生じないピリピリと感じる強度で,45分間連続刺激した。mNMES群は最大耐性強度で,30分間,10 sec on/20 sec offで刺激した。運動療法は術後翌日より膝関節ROM拡大,下肢筋力増強,歩行・ADL練習を実施した。主要アウトカムは,大腿四頭筋等尺性最大筋力(MVIC),副次アウトカムは生体電気インピーダンス法による下肢骨格筋量(LSMM),Timed Up and Go test(TUG),2分間歩行テスト(2MWT)を評価した。評価は術前と術後2,4週目の計3回測定した。LSMMはインプラントによる電気抵抗を考慮して術後2,4週目の計2回測定した。各項目は一元配置分散分析を用いて群間比較し,有意差を認めた場合はBonferroni法による多重比較を行った。またmNMES群の最大耐性強度と介入前後のMVIC増加率との関係をSpearmanの順位相関係数を用いて調べた。いずれも有意水準は5%とした。
【結果】
mNMES群ではNMESの不快感を理由に3名が脱落した。MVICはmNMES群,sNMES群,Control群で術前0.29±0.10kgf/kg,0.30±0.10kgf/kg,0.31±0.10kgf/kg,術後2週目0.11±0.05kgf/kg,0.12±0.04kgf/kg,0.13±0.04kgf/kg,4週目0.26±0.06kgf/kg,0.24±0.07kgf/kg,0.19±0.07kgf/kgとなり,術前と術後2週目では3群間に有意差はなかったが,4週目ではmNMES群(p<0.01),sNMES群(p<0.05)共にControl群より有意に改善した。LSMMはmNMES群,sNMES群,Control群で術後2週目92±11g/kg,93±15 g/kg,92±15g/kg,4週目93±13 g/kg,93±14 g/kg,91±12g/kgとなり,3群間に有意差は示さなかった。TUGはmNMES群,sNMES群,Control群で術前11.9±4.8秒,11.4±4.7秒,12.2±3.8秒,術後2週目13.7±4.4秒,15.9±7.1秒,14.0±4.8秒,4週目8.9±1.8秒,9.9±3.2秒,10.6±2.8秒となり,3群間に有意差は示さなかった。2MWTはmNMES群,sNMES群,Control群で術前112±25m,114±33m,112±21m,術後2週目99±16m,91±33m,95±25m,4週目133±16m,130±26m,117±22mとなり,術前と術後2週目では3群間に有意差はなかったが,4週目ではmNMES群(p<0.05)のみControl群より有意に改善した。mNMES群の最大耐性強度は対象者間で差を認め(17-38mA),最大耐性強度とMVIC増加率が有意な相関を示した(r=0.48,p<0.05)。
【考察】
筋収縮を誘発する従来のmNMESで最も筋力と歩行持久力の改善を認めたが,sNMESにおいても筋力改善を認めた。LSMMには有意差はなかったことから筋力改善は筋肥大ではなく,運動単位賦活によるものと考えられた。mNMESはより強い電流強度で刺激した方が早期に筋力改善を図れるが,疼痛や不快感により至適な運動強度に設定困難である症例においては負担が少ないsNMESが有効である可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
TKA後症例に対するNMESは,運動強度が第一選択となり,より筋力改善効果を望むには可及的に高強度に設定する必要があるが,受け入れの問題を有する。副作用の少ない感覚強度のNMESは,電流への耐性が悪い症例に対して適応が可能であり,中枢性筋力増強を図れる手段となる。
人工膝関節全置換術(TKA)後,関節腫脹等の二次的な抑制による中枢神経系弱化により,大腿四頭筋筋力低下が残存する。その中枢性筋力低下に対して通常の筋力増強に神経筋電気刺激(NMES)を付加することが有効であると報告されている。NMESによる筋力増強は過負荷の原則に従って高強度の方が筋力改善効果が高いとされるが,筋収縮を伴わない感覚強度のNMESにおいても上位中枢からの下行性入力を増大させ,筋力を改善させるとの報告もある。高強度の刺激は治療のアドヒアランスを低下させるため,疼痛や不快感の少ない感覚強度のNMESを用いる利点は大きい。しかし,TKA後筋力増強に関してNMES強度と筋力改善の関係をみた報告はない。今回はTKA後症例に対してNMESを実施した効果とその刺激電流強度と筋力改善の関連を検証した。
【方法】
研究デザインは評価者のみをブラインドし,介入者と対象者にはブラインドを行わないシングルブラインドの準ランダム化比較対照試験とした。対象は片側TKAを施行した症例60名60膝とし,感覚強度NMES(sNMES)群20名,運動強度NMES(mNMES)群20名,NMES非実施(Control)群20名にExcel乱数関数を用いて割り付けた。NMESは,術後2週目より5日/週×2週間,大腿四頭筋へ実施した。機器は両群共に電気治療器(Intelect Mobile Stim,Chattanooga社製)を使用し,二相性対称性パルス波,周波数100Hz,パルス幅1msとし,電極は大腿神経幹上,大腿直筋,内外側広筋のモーターポイントに貼付した。sNMES群は筋収縮が生じないピリピリと感じる強度で,45分間連続刺激した。mNMES群は最大耐性強度で,30分間,10 sec on/20 sec offで刺激した。運動療法は術後翌日より膝関節ROM拡大,下肢筋力増強,歩行・ADL練習を実施した。主要アウトカムは,大腿四頭筋等尺性最大筋力(MVIC),副次アウトカムは生体電気インピーダンス法による下肢骨格筋量(LSMM),Timed Up and Go test(TUG),2分間歩行テスト(2MWT)を評価した。評価は術前と術後2,4週目の計3回測定した。LSMMはインプラントによる電気抵抗を考慮して術後2,4週目の計2回測定した。各項目は一元配置分散分析を用いて群間比較し,有意差を認めた場合はBonferroni法による多重比較を行った。またmNMES群の最大耐性強度と介入前後のMVIC増加率との関係をSpearmanの順位相関係数を用いて調べた。いずれも有意水準は5%とした。
【結果】
mNMES群ではNMESの不快感を理由に3名が脱落した。MVICはmNMES群,sNMES群,Control群で術前0.29±0.10kgf/kg,0.30±0.10kgf/kg,0.31±0.10kgf/kg,術後2週目0.11±0.05kgf/kg,0.12±0.04kgf/kg,0.13±0.04kgf/kg,4週目0.26±0.06kgf/kg,0.24±0.07kgf/kg,0.19±0.07kgf/kgとなり,術前と術後2週目では3群間に有意差はなかったが,4週目ではmNMES群(p<0.01),sNMES群(p<0.05)共にControl群より有意に改善した。LSMMはmNMES群,sNMES群,Control群で術後2週目92±11g/kg,93±15 g/kg,92±15g/kg,4週目93±13 g/kg,93±14 g/kg,91±12g/kgとなり,3群間に有意差は示さなかった。TUGはmNMES群,sNMES群,Control群で術前11.9±4.8秒,11.4±4.7秒,12.2±3.8秒,術後2週目13.7±4.4秒,15.9±7.1秒,14.0±4.8秒,4週目8.9±1.8秒,9.9±3.2秒,10.6±2.8秒となり,3群間に有意差は示さなかった。2MWTはmNMES群,sNMES群,Control群で術前112±25m,114±33m,112±21m,術後2週目99±16m,91±33m,95±25m,4週目133±16m,130±26m,117±22mとなり,術前と術後2週目では3群間に有意差はなかったが,4週目ではmNMES群(p<0.05)のみControl群より有意に改善した。mNMES群の最大耐性強度は対象者間で差を認め(17-38mA),最大耐性強度とMVIC増加率が有意な相関を示した(r=0.48,p<0.05)。
【考察】
筋収縮を誘発する従来のmNMESで最も筋力と歩行持久力の改善を認めたが,sNMESにおいても筋力改善を認めた。LSMMには有意差はなかったことから筋力改善は筋肥大ではなく,運動単位賦活によるものと考えられた。mNMESはより強い電流強度で刺激した方が早期に筋力改善を図れるが,疼痛や不快感により至適な運動強度に設定困難である症例においては負担が少ないsNMESが有効である可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
TKA後症例に対するNMESは,運動強度が第一選択となり,より筋力改善効果を望むには可及的に高強度に設定する必要があるが,受け入れの問題を有する。副作用の少ない感覚強度のNMESは,電流への耐性が悪い症例に対して適応が可能であり,中枢性筋力増強を図れる手段となる。