[O-0677] オピオイド受容体拮抗薬の前投与は神経障害性疼痛に対する経皮的末梢神経電気刺激(TENS)の効果を抑制するか
Keywords:経皮的末梢神経電気刺激(TENS), 神経障害性疼痛, オピオイド
【はじめに,目的】
神経障害性疼痛は,体性感覚神経系の病変や疾患によって生じる疼痛と定義され,臨床症状としてアロディニアや痛覚過敏を引き起こし,日常生活活動の低下を招く。このような神経障害性疼痛に対して臨床的に経皮的末梢神経電気刺激(transcutaneous electrical nerve stimulation;TENS)が行われているが,その鎮痛効果の基礎的メカニズムは未解明な点が多い。これらの事を背景に我々は,神経障害性疼痛に対するTENSの鎮痛効果およびそのメカニズムについて基礎的な解析を継続的に行い,先行研究にてTENSによりマウス神経障害性疼痛モデルの脊髄後角中のオピオイド受容体の蛋白発現量が増加する事を確認した。オピオイドは,生体に内在し疼痛抑制に機能する事が知られており,健常成人や正常ラットを使用した実験によりTENSは内因性オピオイドを賦活させる事が報告されている。その一方で,神経障害性疼痛の病態の一つとして,脊髄後角におけるオピオイド受容体が減少し,オピオイドの疼痛抑制作用が消失あるいは低下する可能性が報告されており,我々の先行研究で認めたTENSにより増加したオピオイド受容体が疼痛抑制に機能しているかどうかは不明である。
そこで本研究では,マウス神経障害性疼痛モデルを使用し,TENS治療前のオピオイド受容体拮抗薬の投与が神経障害性疼痛に対するTENSの効果を抑制するかどうか検証した。
【方法】
対象はICRマウス(9週齢,n=20)とした。マウス神経障害性疼痛モデルとして総腓骨神経,脛骨神経を結紮後に切断し,腓腹神経を温存するspared nerve injury(SNI)を行い,障害側を左側とした。TENS治療は,電気刺激装置(Pulsecure-Pro KR-7;OG技研社製)を使用し,SNI後1日目から開始し,刺激部位は左側のL1-L6に感覚支配される左側の傍脊柱筋の直上の皮膚,周波数は100Hz,刺激強度は筋収縮が生じない最大強度,刺激時間は30分間とし,麻酔下にて1日1回実施した。毎回のTENS実施の15分前にオピオイド受容体の拮抗薬であるnaloxoneを2mg/kg,腹腔内から投与するTENS-naloxone群と比較対象のために同様に生理食塩水を投与するTENS-saline群を設定した。行動学的評価として,痛覚検査装置(Ugo Basile, Italy)を使用し,圧刺激および熱刺激に対する逃避行動を評価した。7日間のTENSの後,L4-5の脊髄を採取し,microgliaのマーカーであるIba1,astrocytesのマーカーであるGFAPについて免疫組織化学的評価を行った。解析対象を脊髄後角表層とし,核染色であるDAPIと共染色されるIba1陽性細胞およびGFAP陽性細胞の細胞数をカウントした。2群間の比較として,t検定を行い,有意水準を5%とした。
【結果】
TENS-saline群は,SNI術後翌日に圧刺激および熱刺激に対する痛覚過敏を認めたが,毎日のTENS治療により痛覚過敏が徐々に改善した。その一方で,TENS-naloxone群は,SNI術後翌日に圧刺激および熱刺激に対する痛覚過敏を認め,毎日のTENS治療を行っているにも関わらず継続して痛覚過敏を認め,TENSによる痛覚過敏の改善効果が抑制されている事が確認できた。免疫組織化学的評価ではTENS-naloxone群は,TENS-saline群と比較し,Iba1陽性細胞,GFAP陽性細胞のそれぞれで有意な細胞数の増加を認めた。
【考察】
本研究では,治療前のオピオイド受容体拮抗薬の投与により,マウス神経障害性疼痛モデルにおけるTENSによる痛覚過敏の改善効果が抑制される事が確認できた。この事からオピオイドの鎮痛効果が低下するとされている神経障害性疼痛においても,TENS治療により内因性のオピオイドを賦活し,鎮痛作用をもたらす可能性が推察された。さらに,神経障害性疼痛の病態である脊髄後角内のmicrogliaやastrocyetsといったグリア細胞の活性化もTENS治療により抑制されたが,TENS治療前のオピオイド受容体拮抗薬の投与によりその抑制効果は認めなくなった。したがってTENS治療は,内因性のオピオイドを賦活させ,脊髄後角のグリア細胞の活性化にも抑制的に作用した可能性が推察された。
【理学療法学研究としての意義】
TENSの鎮痛効果を患者や動物モデルを対象に行動評価から検討した報告は多いが,その鎮痛効果の基礎的メカニズムまで検証した報告は少ない。本研究は,オピオイドの鎮痛効果が低下すると報告されている神経障害性疼痛においてもTENS治療が内因性オピオイドを賦活させ,痛覚過敏の改善に寄与する可能性を示唆するものであり,神経障害性疼痛に対する物理療法の発展に貢献できると考えている。
神経障害性疼痛は,体性感覚神経系の病変や疾患によって生じる疼痛と定義され,臨床症状としてアロディニアや痛覚過敏を引き起こし,日常生活活動の低下を招く。このような神経障害性疼痛に対して臨床的に経皮的末梢神経電気刺激(transcutaneous electrical nerve stimulation;TENS)が行われているが,その鎮痛効果の基礎的メカニズムは未解明な点が多い。これらの事を背景に我々は,神経障害性疼痛に対するTENSの鎮痛効果およびそのメカニズムについて基礎的な解析を継続的に行い,先行研究にてTENSによりマウス神経障害性疼痛モデルの脊髄後角中のオピオイド受容体の蛋白発現量が増加する事を確認した。オピオイドは,生体に内在し疼痛抑制に機能する事が知られており,健常成人や正常ラットを使用した実験によりTENSは内因性オピオイドを賦活させる事が報告されている。その一方で,神経障害性疼痛の病態の一つとして,脊髄後角におけるオピオイド受容体が減少し,オピオイドの疼痛抑制作用が消失あるいは低下する可能性が報告されており,我々の先行研究で認めたTENSにより増加したオピオイド受容体が疼痛抑制に機能しているかどうかは不明である。
そこで本研究では,マウス神経障害性疼痛モデルを使用し,TENS治療前のオピオイド受容体拮抗薬の投与が神経障害性疼痛に対するTENSの効果を抑制するかどうか検証した。
【方法】
対象はICRマウス(9週齢,n=20)とした。マウス神経障害性疼痛モデルとして総腓骨神経,脛骨神経を結紮後に切断し,腓腹神経を温存するspared nerve injury(SNI)を行い,障害側を左側とした。TENS治療は,電気刺激装置(Pulsecure-Pro KR-7;OG技研社製)を使用し,SNI後1日目から開始し,刺激部位は左側のL1-L6に感覚支配される左側の傍脊柱筋の直上の皮膚,周波数は100Hz,刺激強度は筋収縮が生じない最大強度,刺激時間は30分間とし,麻酔下にて1日1回実施した。毎回のTENS実施の15分前にオピオイド受容体の拮抗薬であるnaloxoneを2mg/kg,腹腔内から投与するTENS-naloxone群と比較対象のために同様に生理食塩水を投与するTENS-saline群を設定した。行動学的評価として,痛覚検査装置(Ugo Basile, Italy)を使用し,圧刺激および熱刺激に対する逃避行動を評価した。7日間のTENSの後,L4-5の脊髄を採取し,microgliaのマーカーであるIba1,astrocytesのマーカーであるGFAPについて免疫組織化学的評価を行った。解析対象を脊髄後角表層とし,核染色であるDAPIと共染色されるIba1陽性細胞およびGFAP陽性細胞の細胞数をカウントした。2群間の比較として,t検定を行い,有意水準を5%とした。
【結果】
TENS-saline群は,SNI術後翌日に圧刺激および熱刺激に対する痛覚過敏を認めたが,毎日のTENS治療により痛覚過敏が徐々に改善した。その一方で,TENS-naloxone群は,SNI術後翌日に圧刺激および熱刺激に対する痛覚過敏を認め,毎日のTENS治療を行っているにも関わらず継続して痛覚過敏を認め,TENSによる痛覚過敏の改善効果が抑制されている事が確認できた。免疫組織化学的評価ではTENS-naloxone群は,TENS-saline群と比較し,Iba1陽性細胞,GFAP陽性細胞のそれぞれで有意な細胞数の増加を認めた。
【考察】
本研究では,治療前のオピオイド受容体拮抗薬の投与により,マウス神経障害性疼痛モデルにおけるTENSによる痛覚過敏の改善効果が抑制される事が確認できた。この事からオピオイドの鎮痛効果が低下するとされている神経障害性疼痛においても,TENS治療により内因性のオピオイドを賦活し,鎮痛作用をもたらす可能性が推察された。さらに,神経障害性疼痛の病態である脊髄後角内のmicrogliaやastrocyetsといったグリア細胞の活性化もTENS治療により抑制されたが,TENS治療前のオピオイド受容体拮抗薬の投与によりその抑制効果は認めなくなった。したがってTENS治療は,内因性のオピオイドを賦活させ,脊髄後角のグリア細胞の活性化にも抑制的に作用した可能性が推察された。
【理学療法学研究としての意義】
TENSの鎮痛効果を患者や動物モデルを対象に行動評価から検討した報告は多いが,その鎮痛効果の基礎的メカニズムまで検証した報告は少ない。本研究は,オピオイドの鎮痛効果が低下すると報告されている神経障害性疼痛においてもTENS治療が内因性オピオイドを賦活させ,痛覚過敏の改善に寄与する可能性を示唆するものであり,神経障害性疼痛に対する物理療法の発展に貢献できると考えている。