[O-0678] ラット膝関節炎の急性期における寒冷療法ならびに寒冷療法と運動療法の併用が腫脹や痛みにおよぼす影響
キーワード:関節炎, 寒冷療法, 運動療法
【はじめに,目的】
関節炎をはじめとした組織損傷の急性期においては,炎症軽減を目的に寒冷療法が適用されるが,その効果を明確に示した報告は少ない。また,寒冷療法のみの施行では患部を中心に不活動が惹起され,これは慢性痛に発展するリスクを高めるとされている。つまり,急性期においても運動療法を適用する必要があり,寒冷療法と併用しながら進める方法が妥当と思われるが,その効果についても明らかになっていない。そこで,本研究ではラット膝関節炎の急性期に寒冷療法ならびに寒冷療法と運動療法を併用して適用し,腫脹や痛みに対する効果を検討した。
【方法】
8週齢のWistar系雄性ラット24匹を,1)起炎剤である3%カラゲニン・カオリン混合液を右側膝関節に注入し,関節炎を惹起させる関節炎群(n=6),2)関節炎惹起後,その急性期において寒冷療法を実施する寒冷群(n=6),3)同様に急性期において寒冷療法と運動療法を実施する併用群(n=6),4)疑似処置として右側膝関節に生理食塩水を注入する対照群(n=6)に振り分けた。なお,予備実験において関節炎惹起後の赤血球沈降速度を1・3・7・10日目に計測し,この指標が正常範囲に回復するのは7日目であることを確認している。つまり,起炎剤投与後の1~7日目までを今回の膝関節炎モデルの急性期とし,寒冷療法や運動療法はこの時期のみに行った。そして,寒冷群と併用群に対しては麻酔下で患部を冷水(水温;約5℃)に20分間浸漬することで寒冷療法を実施し,併用群に対しては寒冷療法実施後に20分間大腿四頭筋を電気刺激し,膝関節伸展運動を誘発することで運動療法を実施した。次に,各群に対しては起炎剤(生理食塩水)投与の前日ならびに投与後8日目までは毎日,その後は14・21・28日目に患部である右側膝関節の腫脹と圧痛閾値を評価し,あわせて患部の遠隔部にあたる両側足底の痛覚閾値を評価した。具体的には,膝関節の横径をノギスで計測することで腫脹を評価し,Push Pullゲージを用いて膝関節の圧痛閾値を評価した。また,足底の痛覚閾値に関しては4・15gのvon Frey filament(VFF)を用いて同部位を10回刺激し,その際の痛み関連行動の出現頻度を計測することで評価した。
【結果】
患部の腫脹は関節炎群,寒冷群,併用群とも起炎剤投与後1日目をピークに28日目まで対照群より有意に増加していた。しかし,この3群の推移を見ると3日目以降は寒冷群と併用群が関節炎群より有意に減少し,この2群間の推移には有意差を認めなかった。患部の圧痛閾値に関しても起炎剤投与後1日目では関節炎群,寒冷群,併用群とも対照群より有意に減少し,この3群間には有意差を認めなかった。しかし,その後の推移を見ると関節炎群は28日目まで対照群より有意に減少していたが,寒冷群と併用群は3日目以降,関節炎群より有意に増加し,28日目では対照群との有意差も認められなくなり,しかもこの2群間の推移には有意差を認めなかった。
足底の痛覚閾値に関しては左右ならびに4・15gのVFFともほぼ同様の結果で,具体的には,起炎剤投与後1日目では関節炎群,寒冷群,併用群とも対照群より有意に減少し,この3群間には有意差を認めなかった。しかし,その後の推移を見ると関節炎群は28日目まで対照群より有意に減少していたのに対し,寒冷群と併用群は3日目以降,関節炎群より有意に増加し,この2群間の推移には有意差を認めなかった。
【考察】
今回の結果から,関節炎群,寒冷群,併用群には同程度の炎症が発生していると推測され,この影響によって中枢性感作が惹起され,遠隔部にあたる足底の痛覚閾値の低下が生じたと考えられる。そして,関節炎群では患部ならびに足底の痛覚閾値の低下が1ヶ月にわたり持続しており,これは慢性痛に発展していることを示唆している。一方,寒冷群と併用群では患部の腫脹ならびに痛覚閾値の低下,さらには足底の痛覚閾値の低下が早期に回復していた。したがって,関節炎の急性期における寒冷療法の適用は,患部の炎症軽減のみならず,慢性痛の発生予防としても有効な治療戦略になることが示唆された。一方,今回の条件で運動療法を適用しても炎症の増悪はないことも明らかとなり,今後は筋力増強効果など,運動療法によって期待されるその他の効果についても検討を加えていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,寒冷療法の炎症軽減効果ならびに慢性痛の発生予防効果を明らかにしており,理学療法学領域の基礎研究として意義あるものと考える。
関節炎をはじめとした組織損傷の急性期においては,炎症軽減を目的に寒冷療法が適用されるが,その効果を明確に示した報告は少ない。また,寒冷療法のみの施行では患部を中心に不活動が惹起され,これは慢性痛に発展するリスクを高めるとされている。つまり,急性期においても運動療法を適用する必要があり,寒冷療法と併用しながら進める方法が妥当と思われるが,その効果についても明らかになっていない。そこで,本研究ではラット膝関節炎の急性期に寒冷療法ならびに寒冷療法と運動療法を併用して適用し,腫脹や痛みに対する効果を検討した。
【方法】
8週齢のWistar系雄性ラット24匹を,1)起炎剤である3%カラゲニン・カオリン混合液を右側膝関節に注入し,関節炎を惹起させる関節炎群(n=6),2)関節炎惹起後,その急性期において寒冷療法を実施する寒冷群(n=6),3)同様に急性期において寒冷療法と運動療法を実施する併用群(n=6),4)疑似処置として右側膝関節に生理食塩水を注入する対照群(n=6)に振り分けた。なお,予備実験において関節炎惹起後の赤血球沈降速度を1・3・7・10日目に計測し,この指標が正常範囲に回復するのは7日目であることを確認している。つまり,起炎剤投与後の1~7日目までを今回の膝関節炎モデルの急性期とし,寒冷療法や運動療法はこの時期のみに行った。そして,寒冷群と併用群に対しては麻酔下で患部を冷水(水温;約5℃)に20分間浸漬することで寒冷療法を実施し,併用群に対しては寒冷療法実施後に20分間大腿四頭筋を電気刺激し,膝関節伸展運動を誘発することで運動療法を実施した。次に,各群に対しては起炎剤(生理食塩水)投与の前日ならびに投与後8日目までは毎日,その後は14・21・28日目に患部である右側膝関節の腫脹と圧痛閾値を評価し,あわせて患部の遠隔部にあたる両側足底の痛覚閾値を評価した。具体的には,膝関節の横径をノギスで計測することで腫脹を評価し,Push Pullゲージを用いて膝関節の圧痛閾値を評価した。また,足底の痛覚閾値に関しては4・15gのvon Frey filament(VFF)を用いて同部位を10回刺激し,その際の痛み関連行動の出現頻度を計測することで評価した。
【結果】
患部の腫脹は関節炎群,寒冷群,併用群とも起炎剤投与後1日目をピークに28日目まで対照群より有意に増加していた。しかし,この3群の推移を見ると3日目以降は寒冷群と併用群が関節炎群より有意に減少し,この2群間の推移には有意差を認めなかった。患部の圧痛閾値に関しても起炎剤投与後1日目では関節炎群,寒冷群,併用群とも対照群より有意に減少し,この3群間には有意差を認めなかった。しかし,その後の推移を見ると関節炎群は28日目まで対照群より有意に減少していたが,寒冷群と併用群は3日目以降,関節炎群より有意に増加し,28日目では対照群との有意差も認められなくなり,しかもこの2群間の推移には有意差を認めなかった。
足底の痛覚閾値に関しては左右ならびに4・15gのVFFともほぼ同様の結果で,具体的には,起炎剤投与後1日目では関節炎群,寒冷群,併用群とも対照群より有意に減少し,この3群間には有意差を認めなかった。しかし,その後の推移を見ると関節炎群は28日目まで対照群より有意に減少していたのに対し,寒冷群と併用群は3日目以降,関節炎群より有意に増加し,この2群間の推移には有意差を認めなかった。
【考察】
今回の結果から,関節炎群,寒冷群,併用群には同程度の炎症が発生していると推測され,この影響によって中枢性感作が惹起され,遠隔部にあたる足底の痛覚閾値の低下が生じたと考えられる。そして,関節炎群では患部ならびに足底の痛覚閾値の低下が1ヶ月にわたり持続しており,これは慢性痛に発展していることを示唆している。一方,寒冷群と併用群では患部の腫脹ならびに痛覚閾値の低下,さらには足底の痛覚閾値の低下が早期に回復していた。したがって,関節炎の急性期における寒冷療法の適用は,患部の炎症軽減のみならず,慢性痛の発生予防としても有効な治療戦略になることが示唆された。一方,今回の条件で運動療法を適用しても炎症の増悪はないことも明らかとなり,今後は筋力増強効果など,運動療法によって期待されるその他の効果についても検討を加えていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,寒冷療法の炎症軽減効果ならびに慢性痛の発生予防効果を明らかにしており,理学療法学領域の基礎研究として意義あるものと考える。