[O-0679] マイクロカレントによるアディポネクチンの発現応答が損傷骨格筋回復過程に及ぼす影響
キーワード:マイクロカレント, 筋損傷, アディポネクチン
【はじめに,目的】肉離れに代表される骨格筋損傷は発生頻度の高い外傷の一つであり,理学療法の治療対象になることが多い。近年,物理療法の1つであるマイクロカレント(MENS)が損傷骨格筋の回復促進効果を有することが報告されたが,広く臨床応用されるには至っていない。その背景には,MENSの作用機序に未だ不明な点が多く残されていることが挙げられる。骨格筋組織幹細胞である筋衛星細胞は,損傷した骨格筋の再生において中心的役割を担っていることはよく知られているが,骨格筋の損傷による筋衛星細胞の活性化機構とその修飾については不明な点が多く残されている。アディポカインの1つであるアディポネクチンは,骨格筋における糖脂質代謝を促進し抗糖尿病作用を示すが,抗炎症作用も有していることが知られている。また,アディポネクチンの抗糖尿病作用はAMP依存性タンパクキナーゼ(AMPK)の活性化を介した作用であるが,このAMPKも抗炎症作用を示すことが知られている。したがって,MENSの損傷骨格筋回復促進作用が抗炎症作用によるものであると仮定すると,MENSによりアディポネクチンあるいはAMPKが活性化することが示唆される。そこで本研究では,MENSによる損傷骨格筋回復促進効果について,アディポネクチンおよびAMPKの発現動態から検討することを目的とした。
【方法】実験には生後7週齢のC57BL/6J雄性マウス(36匹)を用いた。これらのマウスを筋損傷を惹起して自然回復させる群(CTX群:n=18)と筋損傷後にMENS治療を行う群(MENS群:n=18)に分類した。骨格筋損傷は,cardiotoxin(CTX)筋注モデルを用いた。麻酔下にて左側前脛骨筋(TA)にCTX(10 mM,10 mL生理食塩水)を筋注することで惹起した。なお,CTX群の右側TAを,無処置の対照群に設定した。MENSは,Trio 300((株)伊藤超短波,東京)を使用し,麻酔下にて左後肢に対して出力20 mA,周波数0.3 Hz,パルス幅250 msecの条件で1日1回,60分間実施した。CTX筋注後1,2および3週間後に,CTX群は両側後肢から,MENS群は左後肢よりTAを摘出し,筋湿重量を測定後,液体窒素にて凍結した。凍結組織より,厚さ7 mmの連続凍結切片を作成し,抗Pax7抗体ならびに抗ラミニン抗体による免疫組織化学染色を施し,Pax7陽性核数(筋衛星細胞数)の評価を行った。また,凍結筋組織より筋タンパク抽出をし,筋タンパク量を測定した。また,Western blot法を用いてアディポネクチン,AMPK発現量の解析を行った。
【結果】CTX筋注1週後において,CTX群とMENS群の筋タンパク量は,対照群に比べ有意に低値を示した(p<0.05)。また,MENS群の筋タンパク量はCTX群と比較して,有意に高値を示したが(p<0.05),CTX筋注2週以降は両群ともに対照群と同水準まで回復した。CTX筋注により筋衛星細胞数が有意に増加した(p<0.05)。また,MENS群の筋衛星細胞数は,CTX群に比べて有意に高値を示した(p<0.05)。しかし,CTX筋注2週間後以降にはCTX群とMENS群の間に有意な差は認めなかった。CTX筋注1週間後にMENS群のアディポネクチン発現量は増加したが,CTX群では変化を認めなかった。AMPK発現量はCTX筋注により増加する傾向を示した。
【考察】MENSは筋衛星細胞数を増加させることで,損傷骨格筋の回復を促進させることが示された。また,MENSはアディポネクチン発現量の増加を促したことから,MENS依存性の筋衛星細胞数の増加にはアディポネクチンが関与していることが示唆された。しかし,AMPK発現量においてはMENSの影響は認められず,今後さらなる検討が必要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】物理療法は理学療法士が頻繁に用いる手法の一つであるが,その作用機序には不明な点が多い。MENSは損傷組織の回復促進効果を有するとされるため,その作用機序が明らかになれば,リハビリテーションへの応用拡大が期待される。本研究の成果は,特に運動器リハビリテーションの発展に寄与できるものと考えている。本研究の一部は,日本学術振興会科学研究費(基盤C,25350641,26350818;挑戦的萌芽,26560372),上原記念生命科学財団「研究助成」ならびに豊橋創造大学大学院健康科学研究科「先端研究助成」からの助成を受けて実施された。
【方法】実験には生後7週齢のC57BL/6J雄性マウス(36匹)を用いた。これらのマウスを筋損傷を惹起して自然回復させる群(CTX群:n=18)と筋損傷後にMENS治療を行う群(MENS群:n=18)に分類した。骨格筋損傷は,cardiotoxin(CTX)筋注モデルを用いた。麻酔下にて左側前脛骨筋(TA)にCTX(10 mM,10 mL生理食塩水)を筋注することで惹起した。なお,CTX群の右側TAを,無処置の対照群に設定した。MENSは,Trio 300((株)伊藤超短波,東京)を使用し,麻酔下にて左後肢に対して出力20 mA,周波数0.3 Hz,パルス幅250 msecの条件で1日1回,60分間実施した。CTX筋注後1,2および3週間後に,CTX群は両側後肢から,MENS群は左後肢よりTAを摘出し,筋湿重量を測定後,液体窒素にて凍結した。凍結組織より,厚さ7 mmの連続凍結切片を作成し,抗Pax7抗体ならびに抗ラミニン抗体による免疫組織化学染色を施し,Pax7陽性核数(筋衛星細胞数)の評価を行った。また,凍結筋組織より筋タンパク抽出をし,筋タンパク量を測定した。また,Western blot法を用いてアディポネクチン,AMPK発現量の解析を行った。
【結果】CTX筋注1週後において,CTX群とMENS群の筋タンパク量は,対照群に比べ有意に低値を示した(p<0.05)。また,MENS群の筋タンパク量はCTX群と比較して,有意に高値を示したが(p<0.05),CTX筋注2週以降は両群ともに対照群と同水準まで回復した。CTX筋注により筋衛星細胞数が有意に増加した(p<0.05)。また,MENS群の筋衛星細胞数は,CTX群に比べて有意に高値を示した(p<0.05)。しかし,CTX筋注2週間後以降にはCTX群とMENS群の間に有意な差は認めなかった。CTX筋注1週間後にMENS群のアディポネクチン発現量は増加したが,CTX群では変化を認めなかった。AMPK発現量はCTX筋注により増加する傾向を示した。
【考察】MENSは筋衛星細胞数を増加させることで,損傷骨格筋の回復を促進させることが示された。また,MENSはアディポネクチン発現量の増加を促したことから,MENS依存性の筋衛星細胞数の増加にはアディポネクチンが関与していることが示唆された。しかし,AMPK発現量においてはMENSの影響は認められず,今後さらなる検討が必要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】物理療法は理学療法士が頻繁に用いる手法の一つであるが,その作用機序には不明な点が多い。MENSは損傷組織の回復促進効果を有するとされるため,その作用機序が明らかになれば,リハビリテーションへの応用拡大が期待される。本研究の成果は,特に運動器リハビリテーションの発展に寄与できるものと考えている。本研究の一部は,日本学術振興会科学研究費(基盤C,25350641,26350818;挑戦的萌芽,26560372),上原記念生命科学財団「研究助成」ならびに豊橋創造大学大学院健康科学研究科「先端研究助成」からの助成を受けて実施された。