[O-0680] 筋力発揮時の筋内筋張力分布は不均一である
せん断波エラストグラフィーによる検証
キーワード:大腿四頭筋, 筋張力, せん断波エラストグラフィー
【はじめに・目的】
大腿四頭筋に対する筋力トレーニングによる筋肥大効果は筋間・筋内で異なるという報告がある。筋肥大が筋間で異なることは筋形態,筋線維タイプの割合や神経支配の違いによると考えられている。一方,筋肥大が筋内で異なるということは,発生する筋張力が部位により異なる可能性が考えられるが,これまでヒト骨格筋の筋張力を非侵襲的に測定する方法がなく,筋内の筋張力分布は明らかではなかった。さらに,筋張力は関節角度により変化するが,関節角度が筋張力分布に及ぼす影響は明らかではなかった。近年,超音波診断装置のせん断波エラストグラフィー機能を用いて算出した弾性率は筋力発揮時の筋張力を反映することが報告されている。つまり,せん断波エラストグラフィーを用いることで筋力発揮時の筋内筋張力分布を推定することが可能となった。筋内筋張力分布が明らかになることで筋力トレーニングの関節角度や運動様式を設定する根拠の1つになると考える。
そこで本研究は大腿四頭筋を対象とし,せん断波エラストグラフィーにより算出した弾性率を筋張力の指標として用い,筋力発揮時の同一筋内の筋張力分布を明らかにすること,筋張力分布が関節角度によって変化するのかを明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は下肢に神経学的および整形外科的疾患を有さない健常若年男性16名(平均年齢23.8±3.6歳)の右下肢とした。多用途筋機能評価運動装置(BIODEX社製)を用いて最大等尺性膝伸展筋力(MVC)を測定した。測定肢位は端座位,股関節屈曲85度とし,膝関節屈曲角度は15,50,90度で測定した。
対象筋は大腿直筋(RF),外側広筋(VL),内側広筋(VM)とし,測定部位はRFが上前腸骨棘から膝蓋骨上縁を結ぶ線上30%(近位),50%(中間),70%(遠位),VLが大転子~膝蓋骨上縁外側の30%(近位),50%(中間),70%(遠位)の高さ,VMが上前腸骨棘~内側膝蓋裂隙の60%(近位),80%(遠位)の高さとした。膝関節屈曲15,50,90度において安静時と60%MVCで収縮させたときの弾性率を測定した。なお測定を行なう膝関節角度の順序は無作為とした。弾性率(kPa)は超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用いて算出し,安静時から収縮時の弾性率の変化量を筋張力の指標として解析に用いた。
統計解析は各筋において関節角度,部位の2要因の反復測定二元配置分散分析ならびに多重比較を行なった。なお,有意水準は5%とした。
【結果】
RF,VLで部位による主効果がみられ,多重比較の結果,RFは屈曲50度では近位が中間・遠位に比べ有意に弾性率が高く,屈曲15度では近位が遠位に比べ有意に弾性率が高かった。屈曲90度では有意な差はなかった。VLは屈曲90度では中間が近位に比べて弾性率が高く,屈曲15度では近位が中間・遠位に比べ有意に弾性率が高かった。屈曲50度では有意な差はなかった。VMはどの角度でも近位,遠位で弾性率に有意な差がなかった。
VLのみ関節角度と部位との交互作用が認められ,屈曲90度では中間,屈曲15度では近位の筋張力が高く,弾性率の部位による違いの傾向が関節角度によって異なった。
【考察】
本研究の結果,RF,VLの弾性率は同一筋内でも部位によって異なることが示され,筋張力分布は筋内で不均一であることが明らかとなった。多チャンネル筋電図を用いて測定したRFの筋活動は筋内の部位によって異なることが報告されている。今回,RFで筋張力分布が不均一であったことは,筋活動が筋内で異なることが影響していると考える。一方,多チャンネル筋電図の先行研究において,VL,VMでは部位による違いがないことが示されており,本研究のVLの結果とは矛盾する。これより,筋張力には筋活動以外にも,羽状角や筋線維タイプなどの筋内の形態的特徴が異なることも影響していると考える。
反復測定二元配置分散分析の結果,VLのみ交互作用が認められたことから,VLは関節角度によって筋張力分布パターンが変化することが示唆された。これは膝関節角度による筋線維の至適長変化が部位によって異なる影響が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
RFやVLでは筋力発揮時の筋内の筋張力分布が異なること,VLにおいては膝関節角度によって筋張力分布は変化することが示唆された。本研究結果は筋力トレーニングを実施するうえで有用な情報となると考える。
大腿四頭筋に対する筋力トレーニングによる筋肥大効果は筋間・筋内で異なるという報告がある。筋肥大が筋間で異なることは筋形態,筋線維タイプの割合や神経支配の違いによると考えられている。一方,筋肥大が筋内で異なるということは,発生する筋張力が部位により異なる可能性が考えられるが,これまでヒト骨格筋の筋張力を非侵襲的に測定する方法がなく,筋内の筋張力分布は明らかではなかった。さらに,筋張力は関節角度により変化するが,関節角度が筋張力分布に及ぼす影響は明らかではなかった。近年,超音波診断装置のせん断波エラストグラフィー機能を用いて算出した弾性率は筋力発揮時の筋張力を反映することが報告されている。つまり,せん断波エラストグラフィーを用いることで筋力発揮時の筋内筋張力分布を推定することが可能となった。筋内筋張力分布が明らかになることで筋力トレーニングの関節角度や運動様式を設定する根拠の1つになると考える。
そこで本研究は大腿四頭筋を対象とし,せん断波エラストグラフィーにより算出した弾性率を筋張力の指標として用い,筋力発揮時の同一筋内の筋張力分布を明らかにすること,筋張力分布が関節角度によって変化するのかを明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は下肢に神経学的および整形外科的疾患を有さない健常若年男性16名(平均年齢23.8±3.6歳)の右下肢とした。多用途筋機能評価運動装置(BIODEX社製)を用いて最大等尺性膝伸展筋力(MVC)を測定した。測定肢位は端座位,股関節屈曲85度とし,膝関節屈曲角度は15,50,90度で測定した。
対象筋は大腿直筋(RF),外側広筋(VL),内側広筋(VM)とし,測定部位はRFが上前腸骨棘から膝蓋骨上縁を結ぶ線上30%(近位),50%(中間),70%(遠位),VLが大転子~膝蓋骨上縁外側の30%(近位),50%(中間),70%(遠位)の高さ,VMが上前腸骨棘~内側膝蓋裂隙の60%(近位),80%(遠位)の高さとした。膝関節屈曲15,50,90度において安静時と60%MVCで収縮させたときの弾性率を測定した。なお測定を行なう膝関節角度の順序は無作為とした。弾性率(kPa)は超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用いて算出し,安静時から収縮時の弾性率の変化量を筋張力の指標として解析に用いた。
統計解析は各筋において関節角度,部位の2要因の反復測定二元配置分散分析ならびに多重比較を行なった。なお,有意水準は5%とした。
【結果】
RF,VLで部位による主効果がみられ,多重比較の結果,RFは屈曲50度では近位が中間・遠位に比べ有意に弾性率が高く,屈曲15度では近位が遠位に比べ有意に弾性率が高かった。屈曲90度では有意な差はなかった。VLは屈曲90度では中間が近位に比べて弾性率が高く,屈曲15度では近位が中間・遠位に比べ有意に弾性率が高かった。屈曲50度では有意な差はなかった。VMはどの角度でも近位,遠位で弾性率に有意な差がなかった。
VLのみ関節角度と部位との交互作用が認められ,屈曲90度では中間,屈曲15度では近位の筋張力が高く,弾性率の部位による違いの傾向が関節角度によって異なった。
【考察】
本研究の結果,RF,VLの弾性率は同一筋内でも部位によって異なることが示され,筋張力分布は筋内で不均一であることが明らかとなった。多チャンネル筋電図を用いて測定したRFの筋活動は筋内の部位によって異なることが報告されている。今回,RFで筋張力分布が不均一であったことは,筋活動が筋内で異なることが影響していると考える。一方,多チャンネル筋電図の先行研究において,VL,VMでは部位による違いがないことが示されており,本研究のVLの結果とは矛盾する。これより,筋張力には筋活動以外にも,羽状角や筋線維タイプなどの筋内の形態的特徴が異なることも影響していると考える。
反復測定二元配置分散分析の結果,VLのみ交互作用が認められたことから,VLは関節角度によって筋張力分布パターンが変化することが示唆された。これは膝関節角度による筋線維の至適長変化が部位によって異なる影響が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
RFやVLでは筋力発揮時の筋内の筋張力分布が異なること,VLにおいては膝関節角度によって筋張力分布は変化することが示唆された。本研究結果は筋力トレーニングを実施するうえで有用な情報となると考える。