第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述91

身体運動学7

Sun. Jun 7, 2015 9:40 AM - 10:40 AM 第7会場 (ホールD5)

座長:谷埜予士次(関西医療大学保健医療学部 臨床理学療法学教室)

[O-0681] 磁気刺激を用いた半腱様筋選択的疲労時における膝関節屈曲力特性の解明

青木信裕, 金子文成, 片寄正樹 (札幌医科大学理学療法学第二講座)

Keywords:膝関節, 磁気刺激, 筋疲労

【はじめに,目的】膝関節屈曲運動は,半腱様筋(ST),半膜様筋,大腿二頭筋から構成されるハムストリングが主動作筋となって行われる。しかし,膝関節屈筋を構成する個々の筋が,膝関節屈曲運動に貢献する割合について報告されていない。これは膝関節屈筋の最大収縮力が随意収縮課題でしか測定することができないためであると我々は考えている。猪飼は,電気を用いた神経刺激によって得られる最大筋力を生理的限界,随意収縮によって得られる最大筋力を心理的限界と報告した(猪飼,1961)。我々は,殿部への磁気刺激を用いて坐骨神経を刺激し,誘発される収縮力の測定から,膝関節屈曲力の生理的限界を推定する試みについて報告した(第49回日本理学療法学術大会,2013)。本研究では,膝関節屈筋を構成するSTのみの選択的筋疲労条件を用いることで,膝関節屈筋力の心理的限界,生理的限界にSTが貢献する力発揮特性について解明することを目的とした。
【方法】対象は健康な成人男性15名とし,全ての被験者で左下肢を対象側として測定を実施した。被験者の姿勢は,ベッド上で股関節,膝関節を屈曲90°とした四つ這い位となり,腹部に台を入れて支持した肢位とした。左殿部を磁気刺激部位とし,坐骨結節と大腿骨大転子を指標に15mm間隔で格子を作成し,絶対座標系を定義した。経皮的磁気刺激は,直径20cmの大型円形コイルを磁気刺激装置に接続し,コイル辺縁を刺激部位上に配置し,末梢方向に誘導電流を流した。まず,磁気刺激部位の検討として,各被験者において磁気刺激によって生じるSTの複合筋活動電位(CMAP)振幅が最も大きい刺激部位を決定した。その後,決定した刺激部位において,連発刺激間隔,連発刺激回数を変化させ,誘発される収縮力が最大となる条件を決定した。刺激部位と刺激条件が決定した後に,本実験では,最大随意収縮(MVC)課題と単収縮補間法を行い,STの神経筋電気刺激後に再度MVC課題と単収縮補間法を行った。MVC課題は,膝関節屈曲の最大等尺性随意収縮を行い,膝関節最大屈曲トルクを測定した。単収縮補間法は,安静時および随意収縮中に殿部への磁気刺激による坐骨神経刺激を行い,随意収縮力と随意的動員度を算出した。随意収縮力は,MVC課題で得られたトルク値を100%とし,20%から80%まで20%刻みで目標値を設定した。随意的動員度は,先行研究(Belanger et al., 1981)を参考に,安静時刺激収縮力と随意収縮時刺激収縮力を用いて随意的に動員している運動単位の割合を算出した。また,随意収縮中の各筋の筋電図から,筋電図積分値と中央周波数を算出した。神経筋電気刺激は,刺激電極をST上に配置し,周波数20Hzで30分間実施した。統計学的解析として,電気刺激前後における膝関節最大屈曲トルク,筋電図積分値,中央周波数,安静時収縮力,CMAP振幅,随意的動員度について対応のあるt検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】膝関節最大屈曲トルクは,NMES後に有意に低下した。また,STのみ積分筋電図はNMES後に有意に高値を示し,中央周波数は有意に低値を示した。各筋のCMAP振幅,および安静時収縮力は,NMES前後で有意な差はなかった。随意的動員度は,40,60,80%MVC発揮課題において,NMES後に有意に高値を示した。
【考察】膝関節最大屈曲トルクと表面筋電図の結果から,STのみに選択的筋疲労が誘起されたことが確認できた。各筋のCMAP振幅および誘発収縮力がSTの選択的筋疲労後に変化しなかったことから,本実験の筋疲労では膝関節屈曲力の生理的限界を変化させない可能性がある。一方で,随意的動員度が選択的筋疲労後に上昇したことから,STのみが筋疲労すると随意的に発揮するための努力量は増大することが示された。本研究の結果から,膝関節屈曲力を構成する要素には生理的限界と心理的限界という機構だけでなく,筋疲労に伴い力発揮特性を調整する神経学的機構が存在する可能性があり,更なる検討が必要だと考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,磁気刺激を用いて膝関節屈曲力の発揮特性を明らかにする新規的研究である。膝関節屈曲運動に関わる筋の力発揮貢献度については明確な報告がされておらず,本研究の手法は各筋の力発揮貢献割合を明らかにすることができる可能性がある。その結果,膝関節機能障害後の理学療法や,膝関節屈筋の障害予防など様々な領域の理学療法に応用可能な基礎的情報を示すことができる可能性がある。