[O-0686] 高齢者の足指握力増強が身体機能に与える影響
Keywords:運動機能向上教室, 高齢者, 足指握力
【はじめに,目的】
足指握力に関する報告は散見され,特に高齢者の転倒予防に関する報告やスポーツ分野での報告が多い。高齢者ではバランス能力と関係が深いことが報告され,スポーツ分野では瞬発力と敏捷性に関係すると報告されている。しかし,その多くは横断的な報告であり,足指握力トレーニングによる握力の増強が身体運動にどのように影響を与えるかわかっていない。今回は高齢者に三か月の足指握力トレーニングを実施してもらい,身体機能との関係を探ることとした。
【方法】
対象は,地域高齢者運動機能向上教室に参加している52名。うち,24名をコントロール群(男性8名:平均年齢75.8±6.1歳,平均身長152.1±9.5cm,平均体重53.7±7.7kg。女性16名:平均年齢は76.6±7.7歳,平均身長143.5±8.2cm,平均体重46.9±8.9kg)とし,通常の運動機能向上教室に三か月間参加してもらった。28名はトレーニング群(男性10名:平均年齢76.6±7.1歳,平均身長160.1±7.5cm,平均体重57.7±9.7kg。女性18名:平均年齢84.6±5.7歳,平均身長144.2±7.2cm,平均体重47.9±8.1kg)とし,コントロール群と同様の運動教室に参加するとともに足指握力トレーニングを実施した。
計測項目は足指握力,手指握力,膝屈伸筋力,10m定常歩行速度,10m最大歩行速度,開眼片脚立ち時間,バランス指数の7項目。足指握力は,足指筋力測定器T.K.K.3360(竹井機器工業株式会社)を使用し,裸足で椅座位(股関節・膝関節90度屈曲位,足関節中間位)にて測定した。測定は左右2回ずつ行い,大きい方の値を採用した。膝屈伸筋力にはsystem3(Biodex medical systems),バランス指数はBalance system(Biodex medical systems)(数値が小さい方が,バランスが良い)を使用した。足指握力トレーニングは井原らが提唱した足指握力トレーニングのうち足指を直接動かす4種類を週に一回以上,三か月間実施した。解析は,各評価項目のトレーニング実施前後の差をみるため二元配置分散分析を,また,トレーニング後の各評価項目と足指握力の関係をみるために重回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
足指握力は,コントロール群のトレーニング前6.0±2.9 kg,トレーニング後6.8±2.3kgで有意な変化はみられなかったが,トレーニング群はトレーニング前6.9±2.0 kg,トレーニング後9.9±3.1 kgと有意な上昇を認めた。その他,各群の全ての評価項目でトレーニング後に有意な改善がみられた。群間の差は10m最大歩行速度と開眼片脚立ち時間,バランス指数の三項目でトレーニング群が有意な改善を認めた。トレーニング群において,トレーニング後の足指握力と各評価項目との関係をみると,バランス指数のみが抽出された(オッズ比1.02,p=0.01)。
【考察】
足指握力の増強で瞬発力を必要とする最大歩行速度とバランス機能を向上させることが示された。村田らは高齢者の足指握力が全身の運動機能と関係していると報告している。今回の結果からも足指握力はバランス機能と関係が深いことを示しており,足指握力の増強によって有意に改善できることが示された。しかし,コントロール群も足指握力以外の項目は全て改善がみられている。村田らは足指握力が特異的な機能であることも報告している。足指握力はその特異性から直接的な足指把握運動を実施しなければ改善がみられないものと思われる。バランス機能の改善のため,足指把握運動を選択的に実施することで通常の運動教室で行っているメニューの効果をより向上させるものと思われる。
【理学療法学研究としての意義】
医療,福祉,スポーツなど,様々なフィールドで注目されている足指握力であるが,縦断的な変化が身体機能に与える効果は不明瞭なことが多い。
今回の研究は,足指握力が高齢者のバランス機能と関係があるという今までの報告を後押しするものとなった。また,足指を把握することによる足指握力の改善でバランス機能をより改善することが示された。
運動機能向上教室や転倒予防教室などで足指把握トレーニングを実施する際の論拠となりうるものと考える。
足指握力に関する報告は散見され,特に高齢者の転倒予防に関する報告やスポーツ分野での報告が多い。高齢者ではバランス能力と関係が深いことが報告され,スポーツ分野では瞬発力と敏捷性に関係すると報告されている。しかし,その多くは横断的な報告であり,足指握力トレーニングによる握力の増強が身体運動にどのように影響を与えるかわかっていない。今回は高齢者に三か月の足指握力トレーニングを実施してもらい,身体機能との関係を探ることとした。
【方法】
対象は,地域高齢者運動機能向上教室に参加している52名。うち,24名をコントロール群(男性8名:平均年齢75.8±6.1歳,平均身長152.1±9.5cm,平均体重53.7±7.7kg。女性16名:平均年齢は76.6±7.7歳,平均身長143.5±8.2cm,平均体重46.9±8.9kg)とし,通常の運動機能向上教室に三か月間参加してもらった。28名はトレーニング群(男性10名:平均年齢76.6±7.1歳,平均身長160.1±7.5cm,平均体重57.7±9.7kg。女性18名:平均年齢84.6±5.7歳,平均身長144.2±7.2cm,平均体重47.9±8.1kg)とし,コントロール群と同様の運動教室に参加するとともに足指握力トレーニングを実施した。
計測項目は足指握力,手指握力,膝屈伸筋力,10m定常歩行速度,10m最大歩行速度,開眼片脚立ち時間,バランス指数の7項目。足指握力は,足指筋力測定器T.K.K.3360(竹井機器工業株式会社)を使用し,裸足で椅座位(股関節・膝関節90度屈曲位,足関節中間位)にて測定した。測定は左右2回ずつ行い,大きい方の値を採用した。膝屈伸筋力にはsystem3(Biodex medical systems),バランス指数はBalance system(Biodex medical systems)(数値が小さい方が,バランスが良い)を使用した。足指握力トレーニングは井原らが提唱した足指握力トレーニングのうち足指を直接動かす4種類を週に一回以上,三か月間実施した。解析は,各評価項目のトレーニング実施前後の差をみるため二元配置分散分析を,また,トレーニング後の各評価項目と足指握力の関係をみるために重回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
足指握力は,コントロール群のトレーニング前6.0±2.9 kg,トレーニング後6.8±2.3kgで有意な変化はみられなかったが,トレーニング群はトレーニング前6.9±2.0 kg,トレーニング後9.9±3.1 kgと有意な上昇を認めた。その他,各群の全ての評価項目でトレーニング後に有意な改善がみられた。群間の差は10m最大歩行速度と開眼片脚立ち時間,バランス指数の三項目でトレーニング群が有意な改善を認めた。トレーニング群において,トレーニング後の足指握力と各評価項目との関係をみると,バランス指数のみが抽出された(オッズ比1.02,p=0.01)。
【考察】
足指握力の増強で瞬発力を必要とする最大歩行速度とバランス機能を向上させることが示された。村田らは高齢者の足指握力が全身の運動機能と関係していると報告している。今回の結果からも足指握力はバランス機能と関係が深いことを示しており,足指握力の増強によって有意に改善できることが示された。しかし,コントロール群も足指握力以外の項目は全て改善がみられている。村田らは足指握力が特異的な機能であることも報告している。足指握力はその特異性から直接的な足指把握運動を実施しなければ改善がみられないものと思われる。バランス機能の改善のため,足指把握運動を選択的に実施することで通常の運動教室で行っているメニューの効果をより向上させるものと思われる。
【理学療法学研究としての意義】
医療,福祉,スポーツなど,様々なフィールドで注目されている足指握力であるが,縦断的な変化が身体機能に与える効果は不明瞭なことが多い。
今回の研究は,足指握力が高齢者のバランス機能と関係があるという今までの報告を後押しするものとなった。また,足指を把握することによる足指握力の改善でバランス機能をより改善することが示された。
運動機能向上教室や転倒予防教室などで足指把握トレーニングを実施する際の論拠となりうるものと考える。