[O-0688] 血液透析治療前後での二重課題が立位平衡機能に与える影響
キーワード:血液透析治療, 立位平衡機能, 二重課題
【はじめに,目的】
日本の慢性腎不全透析患者数は増加の一途を辿っている。2012年現在の血液透析(hemodialysis:HD)患者の平均年齢は,男性66.0歳,女性68.2歳である(日本透析医学会,2012)。そのため,平均年齢の高齢に伴い様々な問題が生じると考えられる。HD患者の運動機能は同年代の健常者と比べて約7割に低下し,そのなかでも特に立位平衡機能が低下するとされている(逸見ら,2009)。地域高齢者の転倒率は0.3-0.7回/1年であり(Desmet et al, 2006),HD患者の転倒率は1.6回/1年という報告がある(Cook et al, 2005)。HD治療後には,疲労や倦怠感などの自覚症状がおこる(松永,2012)。これらのことからHD患者の転倒率は高く,HD治療後はさらに転倒リスクが高まる可能性がある。
転倒に関連がある平衡機能は,運動課題に認知課題が加わる二重課題でより低下すると報告されている(Cook et al, 1997)。認知課題のひとつとして色ストループ課題がある。この課題は色名単語の名称ではなく,単語のインクの色を答える課題であり,簡便に使用できる利点から,多くの研究で用いられている。しかしHD治療前後の運動課題時や,運動課題時に色ストループ課題を加えた二重課題時の立位平衡機能を報告した研究はみあたらない。
本研究はHD治療前後での運動課題と二重課題が,立位平衡機能に与える影響を明らかにすることを目的とした。仮説は運動課題に色ストループ課題を加えた二重課題の立位平衡機能が,運動課題のみと比較して低下するとした。
【方法】
対象はHD治療を週に3回実施している者で,立位保持が可能な男性2名,女性4名(年齢64.7±7.5歳,身長161.8±7.2cm,体重53.6±7.4kg,透析歴5.8±1.8年)とした。測定項目はHD治療前後での運動課題時と,運動課題に色ストループ課題を加えた二重課題時の立位平衡機能,HD治療による疲労度とした。測定時期は治療前と治療終了1時間後に実施し,疲労を考慮して測定回数はそれぞれ1回とした。
運動課題は,裸足で両足部内側を合わせた開眼立位姿勢を30秒間保持することとし,平衡機能計(UM-BAR,株式会社ユニメック)を用いて,足圧中心の単位軌跡長(mm/s)を求めた。
色ストループ課題で使用する色名単語は,対象の前方2 m先のスクリーンに映しだした。色名単語の名称はあか,あお,きいろ,みどりの4色を,インクの色は赤,青,黄色,緑の4色を使用した。30秒間に15回の色名単語が表示され,対象に回答するように指示した。
HD治療前後の疲労度の評価はVisual Analogue Scaleを用いて,10cmの横線上に疲労の程度を対象者自身に示させた(mm)。
統計学的解析には,SPSS ver 20.0 for windows(IBM社)を使用した。HD治療前後の疲労度の比較には対応のあるt検定を,HD治療前後の運動課題時,二重課題時の単位軌跡長の比較には反復測定分散分析を行った。有意な差が認められた場合に,多重比較検定であるBonferroni法を用いた。有意水準5%未満を有意とした。
【結果】
運動課題時の単位軌跡長は,治療前27.1±7.9mm/s,HD治療後48.6±18.9mm/sであり,二重課題時の単位軌跡長は,HD治療前48.4±22.4mm/s,HD治療後53.9±18.0mm/sであった。HD治療後の運動課題時,HD治療前後の二重課題時の単位軌跡長は,HD治療前の運動課題時より,それぞれ79.3%,78.6%,98.9%有意に増加した(p<0.05)。疲労度は,HD治療前19.3±18.1mm,治療後44.7±17.6mmであり,HD治療後に131.6%有意に増加した(p<0.05)。
【考察】
本研究の結果より,HD治療後の運動課題時の単位軌跡長は,HD治療前より79.3%増加した。この結果は,HD治療による疲労の影響が生じたことで,増加したものと考えられる。
HD治療前後の二重課題時の単位軌跡長は,HD治療前の運動課題時と比べてそれぞれ78.6%,98.9%増加し,運動課題に認知課題が加わることで立位平衡機能はさらに低下すると考えられる。色ストループ課題と運動課題を同時に行うことにより,課題に対する注意力が分散され,注意力の減少が運動機能の低下につながるといわれている(大野ら,2002)。二重課題は駅で電光掲示版の時刻表を見るなど,日常生活場面で遭遇しやすい状況である。これらのことから,HD患者は治療後に立位平衡機能が低下するため,転倒のリスクに我々は一層注意していくべきである。
【理学療法学研究としての意義】
今後理学療法士がHD患者に関わる機会が増加するなかで,安全に運動療法を実施するために,HD治療が立位平衡機能に与える影響を知ることは意義があると考えられる。
日本の慢性腎不全透析患者数は増加の一途を辿っている。2012年現在の血液透析(hemodialysis:HD)患者の平均年齢は,男性66.0歳,女性68.2歳である(日本透析医学会,2012)。そのため,平均年齢の高齢に伴い様々な問題が生じると考えられる。HD患者の運動機能は同年代の健常者と比べて約7割に低下し,そのなかでも特に立位平衡機能が低下するとされている(逸見ら,2009)。地域高齢者の転倒率は0.3-0.7回/1年であり(Desmet et al, 2006),HD患者の転倒率は1.6回/1年という報告がある(Cook et al, 2005)。HD治療後には,疲労や倦怠感などの自覚症状がおこる(松永,2012)。これらのことからHD患者の転倒率は高く,HD治療後はさらに転倒リスクが高まる可能性がある。
転倒に関連がある平衡機能は,運動課題に認知課題が加わる二重課題でより低下すると報告されている(Cook et al, 1997)。認知課題のひとつとして色ストループ課題がある。この課題は色名単語の名称ではなく,単語のインクの色を答える課題であり,簡便に使用できる利点から,多くの研究で用いられている。しかしHD治療前後の運動課題時や,運動課題時に色ストループ課題を加えた二重課題時の立位平衡機能を報告した研究はみあたらない。
本研究はHD治療前後での運動課題と二重課題が,立位平衡機能に与える影響を明らかにすることを目的とした。仮説は運動課題に色ストループ課題を加えた二重課題の立位平衡機能が,運動課題のみと比較して低下するとした。
【方法】
対象はHD治療を週に3回実施している者で,立位保持が可能な男性2名,女性4名(年齢64.7±7.5歳,身長161.8±7.2cm,体重53.6±7.4kg,透析歴5.8±1.8年)とした。測定項目はHD治療前後での運動課題時と,運動課題に色ストループ課題を加えた二重課題時の立位平衡機能,HD治療による疲労度とした。測定時期は治療前と治療終了1時間後に実施し,疲労を考慮して測定回数はそれぞれ1回とした。
運動課題は,裸足で両足部内側を合わせた開眼立位姿勢を30秒間保持することとし,平衡機能計(UM-BAR,株式会社ユニメック)を用いて,足圧中心の単位軌跡長(mm/s)を求めた。
色ストループ課題で使用する色名単語は,対象の前方2 m先のスクリーンに映しだした。色名単語の名称はあか,あお,きいろ,みどりの4色を,インクの色は赤,青,黄色,緑の4色を使用した。30秒間に15回の色名単語が表示され,対象に回答するように指示した。
HD治療前後の疲労度の評価はVisual Analogue Scaleを用いて,10cmの横線上に疲労の程度を対象者自身に示させた(mm)。
統計学的解析には,SPSS ver 20.0 for windows(IBM社)を使用した。HD治療前後の疲労度の比較には対応のあるt検定を,HD治療前後の運動課題時,二重課題時の単位軌跡長の比較には反復測定分散分析を行った。有意な差が認められた場合に,多重比較検定であるBonferroni法を用いた。有意水準5%未満を有意とした。
【結果】
運動課題時の単位軌跡長は,治療前27.1±7.9mm/s,HD治療後48.6±18.9mm/sであり,二重課題時の単位軌跡長は,HD治療前48.4±22.4mm/s,HD治療後53.9±18.0mm/sであった。HD治療後の運動課題時,HD治療前後の二重課題時の単位軌跡長は,HD治療前の運動課題時より,それぞれ79.3%,78.6%,98.9%有意に増加した(p<0.05)。疲労度は,HD治療前19.3±18.1mm,治療後44.7±17.6mmであり,HD治療後に131.6%有意に増加した(p<0.05)。
【考察】
本研究の結果より,HD治療後の運動課題時の単位軌跡長は,HD治療前より79.3%増加した。この結果は,HD治療による疲労の影響が生じたことで,増加したものと考えられる。
HD治療前後の二重課題時の単位軌跡長は,HD治療前の運動課題時と比べてそれぞれ78.6%,98.9%増加し,運動課題に認知課題が加わることで立位平衡機能はさらに低下すると考えられる。色ストループ課題と運動課題を同時に行うことにより,課題に対する注意力が分散され,注意力の減少が運動機能の低下につながるといわれている(大野ら,2002)。二重課題は駅で電光掲示版の時刻表を見るなど,日常生活場面で遭遇しやすい状況である。これらのことから,HD患者は治療後に立位平衡機能が低下するため,転倒のリスクに我々は一層注意していくべきである。
【理学療法学研究としての意義】
今後理学療法士がHD患者に関わる機会が増加するなかで,安全に運動療法を実施するために,HD治療が立位平衡機能に与える影響を知ることは意義があると考えられる。