[O-0693] 慢性閉塞性肺疾患に対する運動療法による効果の検討
―心機能に着目した評価―
Keywords:慢性閉塞性肺疾患, 心臓超音波検査, 左室拡張機能
【はじめに,目的】
近年,慢性閉塞性肺疾患(COPD)においては,運動耐容能と関連のある左室拡張機能が着目されている。しかし,COPDに対する運動療法による効果の検討に関しては,左室拡張機能に着目した縦断研究が報告されていない。本研究は,COPD患者において12週間の運動療法を実施し,拡張機能の変化,運動耐容能と拡張機能の関連を検討した。
【方法】
対象は,COPD患者9名(年齢78.1±7.4歳)とし,COPD国際ガイドライン(GOLD)の分類はI:3名,II:4名,III:2名であった。COPD罹患期間9.7±8.7年,喫煙指数1070±615,BMI 21.5±3.6であった。在宅酸素使用者が1名(GOLD III)おり,安静時と運動時共に鼻腔カヌラO22.0 L/minを使用していた。服薬に関しては,1名を除く全員が気管支拡張薬を吸入していた。心臓超音波検査(心エコー検査)に関して,経験豊富な1名の心臓超音波検査技師が安静時と運動時の心機能評価を行い,収縮機能評価として左室駆出率(EF)を測定し,拡張機能評価として拡張早期波/僧帽弁輪運動速波形(E/E’)等を測定した。運動時の心エコー検査にはリカンベント式エルゴメーターを用いた。6分間歩行試験(6MD)に関して,実測値と実測値/予測値を測定した。予測値は(7.57×身長cm)-(5.02×年齢)-(1.76×体重kg)-309mで求めた。また,肺機能検査や生化学検査,血液ガス検査を行った。全測定項目は,介入前と3ヶ月間の運動療法後に測定した。介入期間は3ヶ月間とし,1回/週の監視下でコンディショニングや有酸素運動,レジスタンストレーニング(9種類)を実施した。また,同様の運動を自主トレーニングとして,3回/週実施した。統計解析は,SPSSを用い有意水準5%とした。6MD・心エコー検査・肺機能検査・生化学検査・血液ガス検査データの解析にはWilcoxonの符号付順位検定を用い,拡張機能と運動耐容能との関連性の検討にはSpearmanの順位相関係数を用いた。12週間後から研究開始時の6MD値を引いたものをΔ6MD,12週間後から研究開始時のE/E’値を引いたものをΔE/E’とした。
【結果】
介入前の心エコー検査に関してEFは73.1±2.0%,E/E’は9.52±3.27,肺機能検査に関してFEV1.0%は51.7±18.2%,%VCは74.9±6.9%,生化学検査に関してC反応性蛋白は0.79±1.70 mg/dl,ヘモグロンビン量は15.0±1.4 g/dl,血液ガス検査に関してPaO2は65.5±17.8 Torr,PaCO2は41.0±13.1 Torrであった。12週間の運動療法によって,6MDの実測値は320±74 mから352±89 m,6MDの実測値/予測値は68.5±23.0%から76.0±27.1%の有意な改善が認められた(p<0.05)。介入前後で6MD実施後の血圧や脈拍,経皮的酸素飽和度,修正Borg scaleにおいて,有意差はなかった。心エコー検査において,運動時E/E’は9.52±3.27から7.29±2.56に有意な改善を認めたが(p<0.05),安静時E/E’では改善を認めなかった。Δ6MDと安静時または運動時ΔE/E’は,関連しなかった。介入前後で肺機能検査,生化学検査,血液ガス検査に有意差はなかった。
【考察】
今回,運動時のE/E’改善は,下肢筋の乳酸代謝を軽減し,頻呼吸の改善により動的肺過膨張が運動中に生じなかった可能性が考えられた。安静時E/E’は,動的肺過膨張に関与しない指標であり,改善を示さなかった可能性が考えられた。また,6MDの改善は,先行研究同様に骨格筋や呼吸様式の影響の可能性が考えられた。これら骨格筋や呼吸様式を改善する事は呼吸困難が軽減し,運動耐容能向上に影響することが報告されている。つまり,運動耐容能の向上には,心機能以外の因子が関与する可能性が考えられた。そのため,Δ6MDと安静時または運動時ΔE/E’は,関連しなかったと考えられた。研究限界として,今回症例数が少なく重症度別の検討が困難なため,Δ6MDと安静時や運動時のΔE/E’は関連しなかった可能性が考えられる。今後,症例数を増やし重症度別に検討したい。
【理学療法学研究としての意義】
運動時E/E’は有意な改善を認めたが,Δ6MDと安静時や運動時のΔE/E’は関連しなかった。このことから,12週間の運動療法は,運動耐容能と運動時の拡張機能を改善することが示された。
近年,慢性閉塞性肺疾患(COPD)においては,運動耐容能と関連のある左室拡張機能が着目されている。しかし,COPDに対する運動療法による効果の検討に関しては,左室拡張機能に着目した縦断研究が報告されていない。本研究は,COPD患者において12週間の運動療法を実施し,拡張機能の変化,運動耐容能と拡張機能の関連を検討した。
【方法】
対象は,COPD患者9名(年齢78.1±7.4歳)とし,COPD国際ガイドライン(GOLD)の分類はI:3名,II:4名,III:2名であった。COPD罹患期間9.7±8.7年,喫煙指数1070±615,BMI 21.5±3.6であった。在宅酸素使用者が1名(GOLD III)おり,安静時と運動時共に鼻腔カヌラO22.0 L/minを使用していた。服薬に関しては,1名を除く全員が気管支拡張薬を吸入していた。心臓超音波検査(心エコー検査)に関して,経験豊富な1名の心臓超音波検査技師が安静時と運動時の心機能評価を行い,収縮機能評価として左室駆出率(EF)を測定し,拡張機能評価として拡張早期波/僧帽弁輪運動速波形(E/E’)等を測定した。運動時の心エコー検査にはリカンベント式エルゴメーターを用いた。6分間歩行試験(6MD)に関して,実測値と実測値/予測値を測定した。予測値は(7.57×身長cm)-(5.02×年齢)-(1.76×体重kg)-309mで求めた。また,肺機能検査や生化学検査,血液ガス検査を行った。全測定項目は,介入前と3ヶ月間の運動療法後に測定した。介入期間は3ヶ月間とし,1回/週の監視下でコンディショニングや有酸素運動,レジスタンストレーニング(9種類)を実施した。また,同様の運動を自主トレーニングとして,3回/週実施した。統計解析は,SPSSを用い有意水準5%とした。6MD・心エコー検査・肺機能検査・生化学検査・血液ガス検査データの解析にはWilcoxonの符号付順位検定を用い,拡張機能と運動耐容能との関連性の検討にはSpearmanの順位相関係数を用いた。12週間後から研究開始時の6MD値を引いたものをΔ6MD,12週間後から研究開始時のE/E’値を引いたものをΔE/E’とした。
【結果】
介入前の心エコー検査に関してEFは73.1±2.0%,E/E’は9.52±3.27,肺機能検査に関してFEV1.0%は51.7±18.2%,%VCは74.9±6.9%,生化学検査に関してC反応性蛋白は0.79±1.70 mg/dl,ヘモグロンビン量は15.0±1.4 g/dl,血液ガス検査に関してPaO2は65.5±17.8 Torr,PaCO2は41.0±13.1 Torrであった。12週間の運動療法によって,6MDの実測値は320±74 mから352±89 m,6MDの実測値/予測値は68.5±23.0%から76.0±27.1%の有意な改善が認められた(p<0.05)。介入前後で6MD実施後の血圧や脈拍,経皮的酸素飽和度,修正Borg scaleにおいて,有意差はなかった。心エコー検査において,運動時E/E’は9.52±3.27から7.29±2.56に有意な改善を認めたが(p<0.05),安静時E/E’では改善を認めなかった。Δ6MDと安静時または運動時ΔE/E’は,関連しなかった。介入前後で肺機能検査,生化学検査,血液ガス検査に有意差はなかった。
【考察】
今回,運動時のE/E’改善は,下肢筋の乳酸代謝を軽減し,頻呼吸の改善により動的肺過膨張が運動中に生じなかった可能性が考えられた。安静時E/E’は,動的肺過膨張に関与しない指標であり,改善を示さなかった可能性が考えられた。また,6MDの改善は,先行研究同様に骨格筋や呼吸様式の影響の可能性が考えられた。これら骨格筋や呼吸様式を改善する事は呼吸困難が軽減し,運動耐容能向上に影響することが報告されている。つまり,運動耐容能の向上には,心機能以外の因子が関与する可能性が考えられた。そのため,Δ6MDと安静時または運動時ΔE/E’は,関連しなかったと考えられた。研究限界として,今回症例数が少なく重症度別の検討が困難なため,Δ6MDと安静時や運動時のΔE/E’は関連しなかった可能性が考えられる。今後,症例数を増やし重症度別に検討したい。
【理学療法学研究としての意義】
運動時E/E’は有意な改善を認めたが,Δ6MDと安静時や運動時のΔE/E’は関連しなかった。このことから,12週間の運動療法は,運動耐容能と運動時の拡張機能を改善することが示された。