第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述93

呼吸5

Sun. Jun 7, 2015 9:40 AM - 10:40 AM 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:高橋仁美(市立秋田総合病院 リハビリテーション科)

[O-0695] 慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の認知機能に及ぼす筋力トレ
ーニングの試み

小林茂1,2, 平田一人2, 吉川貴仁3, 藤本繁夫4 (1.履正社医療スポーツ専門学校理学療法学科, 2.大阪市立大学大学院医学研究科呼吸器内科学分野, 3.大阪市立大学大学院医学研究科運動生体医学分野, 4.相愛大学人間発達学部発達栄養科)

Keywords:慢性閉塞性肺疾患, 認知機能, 筋力トレーニング

【はじめに,目的】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は中・高齢者に多い慢性の呼吸症状をはじめとする全身炎症性疾患として捉えられる。同患者は活動時の呼吸困難感に伴って運動能力や日常生活活動(ADL)が低下する不活動性の悪循環となり,全身の生理機能に影響し,その一つとして認知機能が低下する。既に,COPD患者に対する有酸素トレーニングが認知機能を改善する報告が散見され,我々も同患者に歩行を中心としたトレーニングを行い,運動能力と認知機能の改善効果があることを報告した。一方,同患者に対する高強度な筋力トレーニング(HMT)における認知機能との関係性については明らかにされていない。そこで本研究では同患者にHMTを主とした運動療法を施行し,認知機能に及ぼす効果を検討した。
【方法】
症状安定期にある60歳以上の平均68.1±5.4歳のCOPD患者で,体幹や下肢に整形外科的問題のない9名を対象とした。
プロトコールは8週間の観察期に引き続き,8週間の介入期とした。運動療法はHMTとして体重の10~20%負荷をかけてのスクワット運動での下肢筋トレーニング,体幹筋トレーニングを週3回。さらに同運動に加えて自転車エルゴメーターにて,最大に運動遂行できる80%強度を2分間,5回のインターバル運動とし週1回実施した。
認知機能の評価はMini Mental State Examination(MMSE)を,注意機能はTrail Making Test(TMT)を用いた。運動機能の評価は6分間の歩行テスト(6MWT),ハンドヘルドメーターでの膝伸展筋力測定,Kraus-Weber(K-W)テストでの体幹機能測定,ADLテストを実施した。観察期およびHMT介入前後で各測定を行い,t検定を用いて比較分析した。
【結果】
対象のうち2例の脱落があり7例が8週間のHMTを完遂できた。
呼吸機能はFEV1.0(1.33±0.50L),%FEV1.0,VC,%VCについて変わらなかった。
認知機能としてのMMSEは観察期で注意・計算と遅延再生の項目が選択的に低く26.4±2.5点であり,介入前26.9±2.4点と変わらなかったが,介入後は同項目の改善に伴い28.6±1.9点に有意(P<0.01)な改善がみられた。TMTは87.9±41.1秒,83.1±46.3秒,68.8±40.8秒に有意(P<0.01)な改善がみられた。なお,MMSEとTMTの変化量の間に0.73(P<0.05)の相関関係が認められた。
運動機能としての6MWTは観察期402.7±94.7m,介入前414.6±114.3mと変わらなかったが,介入後442.9±97.1mに有意(P<0.05)な改善がみられた。また,膝伸展筋力は397.9±59.3N・m,399.1±51.6 N・m,506.7±48.1 N・mに有意(P<0.01)な改善がみられた。K-Wテストは50点満点の20.7±2.4点,23.6±5.3点,33.7±6.3点に有意(P<0.001)な改善がみられた。
ADLテストは身辺動作で同じく12.1±1.9点,12.6±1.7点,13.7±1.1点に有意(P<0.02)な改善がみられ,移動動作は8.0±2.0点,8.6±2.5点,10,9±2.3点に有意(P<0.01)な改善がみられた。

【考察】
健常中・高齢者に対してHMTの介入はサルコペニアを予防し,注意・認知機能をも改善することが明らかにされている。一方,COPD患者に注意・認知機能障害が比較的多く発症することがIncalziやDoodらによって報告されている。同患者の認知機能への運動介入の影響は,主に有酸素トレーニングが用いられており,HMTの介入研究はliu-AmbroseやElizabethらの報告が散見されるが,その効果は明らかにされていない。
本研究では8週間のHMTにおいては9例中2例に脱落がみられたため,今回は7例での検討にとどめる。認知機能はMMSEとTMTで観察期では変わらなかったが,HMTの介入後では特に注意機能の改善がみられた。運動機能は6分間歩行距離,下肢筋力,体幹機能全てにおいて介入後に改善した。HMTによる体幹・下肢筋の変化は注意・認知機能改善に影響し,その結果としてADLの改善につながった。当初より対象者の下肢筋力の低下は少なく,トレーニングされていない体幹筋の変化が注意・認知機能とADLの改善により繋がったものと考えられた。
しかし,運動強度が高くなるため中途脱落が生じやすい問題があり,運動継続のモチベーションを維持させるための援助方法,さらに有酸素トレーニングとの比較検討が今後の課題として残った。
【理学療法研究としての意義】
COPD患者における障害の一つとしての注意・認知機能障害は比較的多く認められる。同患者のADL,QOLの維持・向上,さらに生命予後に関して運動機能障害のみではなく注意・認知機能障害の観点からのHMTの有効性が考えられた。