[O-0699] 変形性膝関節症患者における重症度と筋形態的変化
キーワード:変形性膝関節症, 重症度, 筋形態
【はじめに,目的】変形性膝関節症(以下,膝OA)患者における下肢筋力の低下は,機能障害を最も反映する重要な因子である。筋力低下には,筋萎縮(量的変化)に加え,筋内脂肪・結合組織の増加といった筋の質的変化も影響を及ぼすことが知られている。膝OA患者では,大腿四頭筋の筋萎縮および質的変化が生じていることが報告されているが,大腿四頭筋の個々の筋や股・足関節周囲筋については明らかにされていない。膝OAの進行に伴うこれらの筋群の量的・質的変化を明らかにすることは,重症度に応じた理学療法プログラムの開発に有用である。本研究の目的は,膝OAの進行に伴う下肢筋の量的・質的変化を健常者との比較により明らかにすることである。
【方法】膝OA患者は全員女性とし,軽度膝OA患者9名(K/L scale1または2;以下,軽度OA群:平均年齢61.4±6.6歳),重度膝OA患者13名(K/L scale3または4;以下,重度OA群:66.8±9.6歳)に群分けした。また,対照群として地域在住の女性健常高齢者23名(以下,健常群:60.7±7.9歳)を対象とした。膝OA患者の全員が両側にOAを有しており,解析対象には重症度の高い側を,同程度の場合は疼痛の強い側とした。超音波診断装置(GE Healthcare社製LOGIQ e)を使用し,安静肢位における各筋の横断画像を撮影した。対象筋は,大腿直筋(RF),中間広筋(VI),内側広筋(VM),外側広筋(VL),大腿二頭筋(BF),大殿筋(Gmax),中殿筋(Gmed),腓腹筋内側頭(Gas),ヒラメ筋(Sol),前脛骨筋(TA)の10筋とした。8MHzのリニアプローブを用い,ゲインなど画像条件は同一設定として一人の検者が測定を行った。得られた横断画像から量的指標として筋厚(cm)を計測した。また,画像処理ソフト(リジット社製Image J WinJP)を使用し,質的指標となる筋輝度を各筋の領域から算出した。筋輝度は0(黒色)から255(白色)の256階調で表現されるグレースケールで評価され,高値を示すほど筋内の脂肪・結合組織が多いことを意味する。なお,すべての筋に対して信頼性の検討を行った結果,検者内信頼性は,筋厚の級内相関係数(ICC)は0.97-0.89,筋輝度のICCは0.90-0.83であった。また,膝伸展筋力の測定には,筋力測定器(OG技研社製ISOFORCE GT-360)を使用し,膝関節60度屈曲位での最大等尺性筋力を測定した。得られた値を体重で除し,トルク体重比に変換した(Nm/kg)。統計解析にはSPSS(SPSS Statistics ver. 22.0)を使用した。筋厚・筋輝度,膝伸展筋力について軽度・重度OA群,健常群の3群で比較するため,一元配置分散分析を行い,事後検定としてTukey検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】筋厚はVMにおいて3群間で有意差を認め,健常群(1.8±0.4cm)に比べて軽度OA群(1.6±0.2cm),重度OA群(1.1±0.4cm)で減少していた(p<0.05)。また,健常群に比べ,重度OA群におけるRF,VI,TA筋厚も有意に減少していた。筋輝度は,健常群に比較し,軽度・重度OA群のVMで有意な上昇を示し,また重度OA群のVI,Gmed,TAにおいても有意に上昇していた。一方,VLは,筋厚・筋輝度ともに3群間に有意差を認めなかった。膝伸展筋力は,全ての群間で有意差を認め,健常群,軽度OA群,重度OA群の順に高値を示した。
【考察】軽度OA患者ではVMのみ筋厚減少・筋輝度上昇を認めたことから,VMで特異的に退行変性がみられることが明らかになった。VMでは関節原性筋抑制による選択的萎縮や線維化・脂肪化といった変性が生じやすいことが報告されており,早期からその影響を受けていることが示唆された。また,重度OA患者では,RF,VI,VM,Gmed,TAにおいても筋の量的または質的低下が確認されたが,VLはOAの重症化に関連せず量的・質的に維持されていた。膝OA患者の歩行時の筋活動を調べた研究では,VM,Gmed,TAの筋活動が低下し,一方でVLの筋活動が増加することが報告されている。このことから,膝OA患者の筋の量的・質的変化には,歩行特性に関連した廃用性変化が影響している可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,膝OA患者の下肢関節における量的・質的変化を調査した初めての研究である。本研究の結果は,膝OAの進行予防や重症度に応じた運動療法の開発に有益な情報をもたらす。
【方法】膝OA患者は全員女性とし,軽度膝OA患者9名(K/L scale1または2;以下,軽度OA群:平均年齢61.4±6.6歳),重度膝OA患者13名(K/L scale3または4;以下,重度OA群:66.8±9.6歳)に群分けした。また,対照群として地域在住の女性健常高齢者23名(以下,健常群:60.7±7.9歳)を対象とした。膝OA患者の全員が両側にOAを有しており,解析対象には重症度の高い側を,同程度の場合は疼痛の強い側とした。超音波診断装置(GE Healthcare社製LOGIQ e)を使用し,安静肢位における各筋の横断画像を撮影した。対象筋は,大腿直筋(RF),中間広筋(VI),内側広筋(VM),外側広筋(VL),大腿二頭筋(BF),大殿筋(Gmax),中殿筋(Gmed),腓腹筋内側頭(Gas),ヒラメ筋(Sol),前脛骨筋(TA)の10筋とした。8MHzのリニアプローブを用い,ゲインなど画像条件は同一設定として一人の検者が測定を行った。得られた横断画像から量的指標として筋厚(cm)を計測した。また,画像処理ソフト(リジット社製Image J WinJP)を使用し,質的指標となる筋輝度を各筋の領域から算出した。筋輝度は0(黒色)から255(白色)の256階調で表現されるグレースケールで評価され,高値を示すほど筋内の脂肪・結合組織が多いことを意味する。なお,すべての筋に対して信頼性の検討を行った結果,検者内信頼性は,筋厚の級内相関係数(ICC)は0.97-0.89,筋輝度のICCは0.90-0.83であった。また,膝伸展筋力の測定には,筋力測定器(OG技研社製ISOFORCE GT-360)を使用し,膝関節60度屈曲位での最大等尺性筋力を測定した。得られた値を体重で除し,トルク体重比に変換した(Nm/kg)。統計解析にはSPSS(SPSS Statistics ver. 22.0)を使用した。筋厚・筋輝度,膝伸展筋力について軽度・重度OA群,健常群の3群で比較するため,一元配置分散分析を行い,事後検定としてTukey検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】筋厚はVMにおいて3群間で有意差を認め,健常群(1.8±0.4cm)に比べて軽度OA群(1.6±0.2cm),重度OA群(1.1±0.4cm)で減少していた(p<0.05)。また,健常群に比べ,重度OA群におけるRF,VI,TA筋厚も有意に減少していた。筋輝度は,健常群に比較し,軽度・重度OA群のVMで有意な上昇を示し,また重度OA群のVI,Gmed,TAにおいても有意に上昇していた。一方,VLは,筋厚・筋輝度ともに3群間に有意差を認めなかった。膝伸展筋力は,全ての群間で有意差を認め,健常群,軽度OA群,重度OA群の順に高値を示した。
【考察】軽度OA患者ではVMのみ筋厚減少・筋輝度上昇を認めたことから,VMで特異的に退行変性がみられることが明らかになった。VMでは関節原性筋抑制による選択的萎縮や線維化・脂肪化といった変性が生じやすいことが報告されており,早期からその影響を受けていることが示唆された。また,重度OA患者では,RF,VI,VM,Gmed,TAにおいても筋の量的または質的低下が確認されたが,VLはOAの重症化に関連せず量的・質的に維持されていた。膝OA患者の歩行時の筋活動を調べた研究では,VM,Gmed,TAの筋活動が低下し,一方でVLの筋活動が増加することが報告されている。このことから,膝OA患者の筋の量的・質的変化には,歩行特性に関連した廃用性変化が影響している可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,膝OA患者の下肢関節における量的・質的変化を調査した初めての研究である。本研究の結果は,膝OAの進行予防や重症度に応じた運動療法の開発に有益な情報をもたらす。