[O-0700] 保存療法中の変形性膝関節症患者を対象とした視覚的歩行観察評価の有用性の検討
キーワード:変形性膝関節症, 歩行異常性, 歩行観察評価
【はじめに】
変形性膝関節症(膝OA)の帰結として,疼痛を有する膝OAは活動量が低下するとScott Dら(2013)により報告されている。活動量低下は厚生省,WHOにおいても生活習慣病,死亡リスクの増加が報告され,問題視されていることがわかる。。活動量低下は加齢に伴う変性や疼痛によって引き起こされ,なかでも疼痛の要因としては外部膝関節内反モーメントなどの歩行異常性が報告されている。膝OAの歩行異常性に関する報告は動作解析装置を使った報告が多い。しかし,解析装置は臨床では時間的制約があり,理学療法士が視覚的歩行観察での評価(本研究ではビジュアル・アセスメントとする)を行うことが多い。膝OAのビジュアル・アセスメントは歩行時の膝関節側方動揺を観察するなどであり,信頼性と妥当性が報告されている。このように臨床に即した評価の有用性は高く,理学療法士がビジュアル・アセスメントを行う根拠を提示する必要があると考える。本研究の目的は活動度と膝OAにおけるビジュアル・アセスメントの関連性を検討することである。
【方法】
対象は当院にて膝OAと診断された32名(男性5名,女性27名)とした。除外基準は,膝関節以外の疼痛が歩行の著明な制限となっている者とした。計測は変形性膝関節症患者機能評価尺度の下位項目であるふだんの活動(JKOM活動),歩行速度,疼痛,OA側(両側OAの有無),ビジュアル・アセスメントを行った。ビジュアル・アセスメントは歩行異常性尺度(GARS)をベースとした7項目のものを異常性あり・なしの2値で数量化し使用した。計測方法は,3mの歩行路を通常速度で独歩にて1往復し,ビデオカメラで前額面と矢状面の撮影を行った。採点は一度撮影した動画を再生ソフト(movie.M)でスロー再生にて行った。統計処理として,交絡因子と考えられる年齢,性別,疼痛,OA側,重症度,BMIを主成分分析にて成分を統合した。また,ビジュアル・アセスメントの7項目(I:歩行リズム,II:前方推進力,III:側方動揺性,IV:足部の接地,V:股関節の運動範囲,VI:上肢の運動範囲,VII:踵接地と上肢の振りの同調性),とJKOM活動との関連性を,独立サンプルT検定を用いて検討し,歩行速度とJKOM活動との関連性はPearsonの相関係数を用いて検討した。さらに有意であった変数においてJKOM活動を目的変数とした階層的重回帰分析にて交絡因子を強制投入後,ステップワイズ法にて交絡因子から独立して目的変数に寄与する変数を抽出した。解析ソフトはSPSSを使用し,有意水準は両側5%とした。
【結果】
主成分分析の結果,累積寄与率71%にて第1成分がBMI,性別の負荷量が大きく,成分名を「身体的特徴」とした。次に第2成分はOA側,NRS,重症度の負荷量が大きく,成分名を「膝関節の状態」とした。また,第3成分は年齢を含んだ「その他」を成分名とした。独立サンプルT検定の結果は歩行リズム,前方推進力,側方動揺性,股関節の運動範囲,踵接地と上肢の振りの同調性の5項目にてp<0.05と有意差を認め,JKOM活動との関連性を示した。また,歩行速度とJKOM活動との相関係数は-0.67となり,関連性を示した。主成分分析にて統合された3成分(BMI,OA側,年齢)を交絡因子とし,説明変数を歩行速度とビジュアル・アセスメント項目の歩行リズム,前方推進力,側方動揺性,股関節の運動範囲,踵接地と上肢の振りの同調性とし,目的変数をJKOM活動としたモデルにて重回帰分析を行った結果,ビジュアル・アセスメント項目の前方推進力が交絡因子の影響からは独立して,目的変数に有意に寄与(p=0.02)していた。なお,変数間の分散拡大係数はすべての変数で3.8以下となり,多重共線性は認めなかった。
【考察】
歩行速度テストは歩行評価においてゴールドスタンダードであり,先行研究からも信頼性と妥当性が検証されている。膝OAの研究領域においても歩行速度はJKOM全項目と関連性を持ち,評価の有用性には優れている。本研究ではビジュアル・アセスメント項目の前方推進力が歩行速度や交絡因子からも独立して有意にJKOM活動に寄与することが示唆された。前方推進力は立脚時の体幹が足部よりも前方へ位置することを観察する項目であり,膝関節への荷重が十分に行える必要がある。荷重の減少は膝OAでは補償戦略と報告されており,歩行速度では捉えきれない歩行動態を観察する必要性は高いと考える。
【理学療法学研究としての意義】
膝OAの歩行異常性をビジュアル・アセスメントし,生活機能に及ぼす影響を提示していくことは臨床現場において重要である。本研究は歩行評価において生活機能予後を示すための一助となりうると考える。
変形性膝関節症(膝OA)の帰結として,疼痛を有する膝OAは活動量が低下するとScott Dら(2013)により報告されている。活動量低下は厚生省,WHOにおいても生活習慣病,死亡リスクの増加が報告され,問題視されていることがわかる。。活動量低下は加齢に伴う変性や疼痛によって引き起こされ,なかでも疼痛の要因としては外部膝関節内反モーメントなどの歩行異常性が報告されている。膝OAの歩行異常性に関する報告は動作解析装置を使った報告が多い。しかし,解析装置は臨床では時間的制約があり,理学療法士が視覚的歩行観察での評価(本研究ではビジュアル・アセスメントとする)を行うことが多い。膝OAのビジュアル・アセスメントは歩行時の膝関節側方動揺を観察するなどであり,信頼性と妥当性が報告されている。このように臨床に即した評価の有用性は高く,理学療法士がビジュアル・アセスメントを行う根拠を提示する必要があると考える。本研究の目的は活動度と膝OAにおけるビジュアル・アセスメントの関連性を検討することである。
【方法】
対象は当院にて膝OAと診断された32名(男性5名,女性27名)とした。除外基準は,膝関節以外の疼痛が歩行の著明な制限となっている者とした。計測は変形性膝関節症患者機能評価尺度の下位項目であるふだんの活動(JKOM活動),歩行速度,疼痛,OA側(両側OAの有無),ビジュアル・アセスメントを行った。ビジュアル・アセスメントは歩行異常性尺度(GARS)をベースとした7項目のものを異常性あり・なしの2値で数量化し使用した。計測方法は,3mの歩行路を通常速度で独歩にて1往復し,ビデオカメラで前額面と矢状面の撮影を行った。採点は一度撮影した動画を再生ソフト(movie.M)でスロー再生にて行った。統計処理として,交絡因子と考えられる年齢,性別,疼痛,OA側,重症度,BMIを主成分分析にて成分を統合した。また,ビジュアル・アセスメントの7項目(I:歩行リズム,II:前方推進力,III:側方動揺性,IV:足部の接地,V:股関節の運動範囲,VI:上肢の運動範囲,VII:踵接地と上肢の振りの同調性),とJKOM活動との関連性を,独立サンプルT検定を用いて検討し,歩行速度とJKOM活動との関連性はPearsonの相関係数を用いて検討した。さらに有意であった変数においてJKOM活動を目的変数とした階層的重回帰分析にて交絡因子を強制投入後,ステップワイズ法にて交絡因子から独立して目的変数に寄与する変数を抽出した。解析ソフトはSPSSを使用し,有意水準は両側5%とした。
【結果】
主成分分析の結果,累積寄与率71%にて第1成分がBMI,性別の負荷量が大きく,成分名を「身体的特徴」とした。次に第2成分はOA側,NRS,重症度の負荷量が大きく,成分名を「膝関節の状態」とした。また,第3成分は年齢を含んだ「その他」を成分名とした。独立サンプルT検定の結果は歩行リズム,前方推進力,側方動揺性,股関節の運動範囲,踵接地と上肢の振りの同調性の5項目にてp<0.05と有意差を認め,JKOM活動との関連性を示した。また,歩行速度とJKOM活動との相関係数は-0.67となり,関連性を示した。主成分分析にて統合された3成分(BMI,OA側,年齢)を交絡因子とし,説明変数を歩行速度とビジュアル・アセスメント項目の歩行リズム,前方推進力,側方動揺性,股関節の運動範囲,踵接地と上肢の振りの同調性とし,目的変数をJKOM活動としたモデルにて重回帰分析を行った結果,ビジュアル・アセスメント項目の前方推進力が交絡因子の影響からは独立して,目的変数に有意に寄与(p=0.02)していた。なお,変数間の分散拡大係数はすべての変数で3.8以下となり,多重共線性は認めなかった。
【考察】
歩行速度テストは歩行評価においてゴールドスタンダードであり,先行研究からも信頼性と妥当性が検証されている。膝OAの研究領域においても歩行速度はJKOM全項目と関連性を持ち,評価の有用性には優れている。本研究ではビジュアル・アセスメント項目の前方推進力が歩行速度や交絡因子からも独立して有意にJKOM活動に寄与することが示唆された。前方推進力は立脚時の体幹が足部よりも前方へ位置することを観察する項目であり,膝関節への荷重が十分に行える必要がある。荷重の減少は膝OAでは補償戦略と報告されており,歩行速度では捉えきれない歩行動態を観察する必要性は高いと考える。
【理学療法学研究としての意義】
膝OAの歩行異常性をビジュアル・アセスメントし,生活機能に及ぼす影響を提示していくことは臨床現場において重要である。本研究は歩行評価において生活機能予後を示すための一助となりうると考える。