第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述94

変形性膝関節症2

2015年6月7日(日) 09:40 〜 10:40 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:土居誠治(愛媛十全医療学院 教務科)

[O-0702] 変形性膝関節症患者を対象とした片側T字杖歩行とノルディックウォーキングにおける客観的・主観的な歩行状態の比較

桑原麻里1, 木村貞治2, 奥泉宏康3, 半田秀一3, 大塩琢也4, 岡田真平5 (1.信州大学大学院医学系研究科博士前期課程保健学専攻, 2.信州大学医学部保健学科, 3.東御市立みまき温泉診療所, 4.社会福祉法人みまき福祉会, 5.公益財団法人身体教育医学研究所)

キーワード:変形性膝関節症, ノルディックウォーキング, 歩行状態

【はじめに,目的】
変形性膝関節症(OA)患者の理学療法では,膝関節の疼痛軽減を目的としてT字杖を用いた歩行練習を行うことが多い。一方近年では,OA患者における2本のポールで歩くノルディックウォーキング(NW)の有用性が報告され,埋め込み式関節面圧測定センサーを用いた測定の結果,NWは通常歩行やアライメントを意識した歩行よりも,大腿脛骨関節の接触力が有意に小さくなるとされている。このことから本研究では,NWの方が一般的な片側T字杖歩行(TW)よりもOA患者の膝関節への負荷が軽減し,歩行状態が向上する可能性があると考えた。しかし,TWとNWの歩行状態を比較した先行研究は見当たらないのが実状である。そこで本研究はOA患者を対象として,杖なし歩行(FW),TW,NWの3条件における10m歩行中の歩行速度(V),左右の平均ステップ長(SL),骨盤の動き(PM),ケイデンス(C)などの客観的データと,歩行時痛や歩きやすさなどの主観的データを指標とし,歩行補助具としての有用性を比較・検証することを目的とした。
【方法】
対象は,口頭と文章での説明に対して被験者としての同意が得られたOA患者21例(年齢73±9歳,BMI25.2±4.7)とした。全てのOA患者は医師による診察およびレントゲン検査によってKellgren-Lawrence(KL)分類に基づいた判定が行われた。歩行評価は1名の理学療法士が行い,個人特性(年齢,身長,体重),安静時痛(VAS),歩行時痛(VAS)についての評価を実施した。測定条件は,FW,TW,NWを2試行ずつとし,測定順序は乱数表を用いて無作為化した。Vは時間計測装置を,SL,PMは3Dカメラを,Cはタブレットのカメラ機能を用いてそれぞれ測定した。PMの測定は反射マーカを左右の踵部と仙骨外側部へ2箇所ずつ貼付して実施した。歩行時痛(VAS)と歩きやすさ(リッカート尺度)は各試行直後に用紙を用いて評価した。データ解析は10m歩行中央の1歩行周期におけるSL,PMの上下動・回旋を解析ソフトウェアを用いて解析し,Cは撮影した動画を用いて10m歩行中の歩数から求め,各条件における2試行の平均値を指標とした。統計解析は,正規性を認めたデータに反復測定分散分析を,認めないデータにFriedman検定を行い,有意差が認められた場合に事後検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
全被験者が左右どちらかがKL分類でII以上の両側性のOA患者と診断され,症状の重い側で分類するとIIが6例,IIIが9例,IVが6例であった。3条件間で有意差が認められたのは,V,C,PMの上下動・回旋,歩行時痛の5項目で,SLと歩きやすさには有意差が認められなかった。事後検定の結果,VはFWが有意に速く,CはTW,NWがFWよりも有意に少なかった。PMの上下動はNWが有意に大きく,回旋はNWで大きくなる傾向を示した。歩行時痛は3条件共に平均で20mm以下の低い値を示し,条件間比較ではTWが低い値を示した。その他の項目では,事後検定で有意差を認めなかった。
【考察】
本研究は,2本のポールを使用するNWが基底面積の拡大や両上肢による推進力の増大などの点から,客観的・主観的データの両面において,他の2条件よりも効果的な歩行状態になる可能性があると仮定した。しかし,結果として客観的データのうちVでは,TWやNWのように杖を持った方が持たないFWよりも遅くなり,Cも少なくなるという傾向が示された。一方,PMの上下動・回旋共にNWが他の2条件よりも大きくなる傾向が認められた。主観的データである歩行時痛は1本杖であるTWが2本杖であるNWよりも少なくなるという傾向を示し,歩きやすさには条件間で差が認められなかった。以上より本研究の結果では,仮説と異なりNWにおける歩行補助具としての有用性が認められなかった。この背景として,被験者における歩行時痛そのものが相対的に低かったこと,症例数が少なかったこと,21例中9例が日常的にT字杖を使用していたことによる慣れが影響したこと,NWの練習時間が短かったことなどが影響している可能性があるものと推察された。今後はこれらの点を考慮して,OA患者におけるNWの影響を検証していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
OA患者を対象とした客観的・主観的データの両面からTWとNWを比較することで,OA患者にとってより有用性のある歩行補助具について定量的に検証できるものと考える。