第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

口述

口述94

変形性膝関節症2

Sun. Jun 7, 2015 9:40 AM - 10:40 AM 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:土居誠治(愛媛十全医療学院 教務科)

[O-0703] 多施設共同研究による人工膝関節置換術患者の術後早期の運動機能に影響を与える因子の検討(第1報)

内田茂博1, 玉利光太郎2, 天野徹哉3, 山田英司4, 川上翔平4, 木藤伸宏1 (1.広島国際大学総合リハビリテーション学部, 2.ペルー共和国国立障害者リハビリテーションセンター, 3.常葉大学保健医療学部, 4.回生病院関節外科センター附属理学療法部)

Keywords:変形性膝関節症, TUG, 検査特性

【はじめに,目的】
変形性膝関節症に対する手術は年間5万件以上も施行されており,人工膝関節置換術が多くの割合を占めている。術後においても理学療法の適用となることが多く,ほとんどの病院で退院時にある一定の運動機能を獲得させるためのクリティカルパスの作成を試みているが,クリティカルパスから逸脱する患者を経験することもある。そのような患者を術前より把握し,退院時やその後の在宅生活における運動機能を保証していく必要がある。本研究では機能的移動能力を測定する術後14日目のTimed Up and Go test(以下,TUG)をアウトカムとして,術前の身体機能と術後14日目のTUGとの関係を明らかにし,抽出された予測因子の検査特性を示すことを目的とした。
【方法】
2013年7月~2014年9月までに,多施設共同研究への参加協力が得られた全国6施設において,人工膝関節全置換術(TKA)および単顆関節置換術(UKA)の適用になった患者174名を対象とした。そのうち,術後14日目にTUGが実施可能であった97名(男性15名,女性82名,年齢75.6±7.1歳)を本研究の分析対象とした。研究デザインは前向きコホート研究であり,ベースライン時(術前)の測定項目は,基本的属性である性別,年齢,BMI,医学的属性として障害側(片側性と両側性),反対側の手術歴の有無,術式(TKAとUKA),身体機能として術側・非術側筋力(膝伸展筋力・膝屈曲筋力),術側・非術側関節可動域(股伸展ROM・膝伸展ROM・膝屈曲ROM),疼痛(NRS)について調査,計測し,追跡調査として術後14日目にTUGを計測した。統計学的分析では術後14日目のTUGをアウトカムとした重回帰分析を行い,変数選択法はステップワイズ法とした。また,基本的・医学的属性を交絡因子として分析モデルに強制投入し調整を行った。なお事前に単変量解析によって変数選択を行い,アウトカムとの関係がp<0.25であった変数のみを重回帰モデルに投入して分析を行った。さらに,Whitneyら(2005)の報告を参考にして術後14日目のTUGが15.0秒以上の者を遅い群「1」,15.0秒未満の者を早い群「0」として2群に分け,重回帰分析によって抽出された因子についてROC曲線を用いてカットオフ値を求め,抽出された変数においてTUGが15.0秒以上となる予測モデルを立て感度・特異度を算出した。統計ソフトは,SPSS Statistics 19.0を使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
単変量解析によって抽出された変数は,術側・非術側の膝伸展筋力,術側・非術側の膝屈曲筋力,非術側の股関節伸展ROM,疼痛であった。重回帰分析の結果(p=0.05,R=0.345,R2=0.119),術後14日目のTUGに影響を与える因子は非術側の膝伸展筋力(p=0.008,β=-0.287)であった。さらに,交絡因子投入後の重回帰分析の結果(p=0.035,R=0.407,R2=0.166)においても,非術側の膝伸展筋力(p=0.018,β=-0.284)が抽出され,交絡因子は抽出されなかった。ROC曲線分析の結果(p=0.046,AUC=0.625),非術側の膝伸展筋力のカットオフ値は0.97Nm/kgであり,感度73.8%,特異度39.4%,陽性尤度比1.2,陰性尤度比0.6であった。検査前確率を97名中61名がTUG15.0秒以上の遅い群であったことを踏まえて62.8%とすると,検査後確率は73.7%であった。
【考察】
本研究の結果より,交絡因子の要因からも独立して,術前の非術側の膝伸展筋力が術後14日目のTUGに影響を与えることが示唆された。また,術後14日目のTUGが遅くなる症例(15秒以上)は,術前の非術側の膝伸展筋力が有意に低下しており,カットオフ値を0.97Nm/kgとして,より低下している症例は73.7%の確率で術後14日目のTUGが15秒以上になることが示唆された。本研究結果は,術後早期の運動機能が低下する症例を術前より把握することにより術後の理学療法介入の一助になることが示唆される。本研究の限界として,術前のTUGの値を考慮していないため,手術によって術前から術後に変化した運動機能については言及できない。今後の課題として,一つの変数のみではなく一定の判別能力を持つ互いに独立した検査を複数組み合わせて臨床予測式を抽出し検査後確率を高める指標を検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で得られた知見は,人工膝関節置換術後患者のうち術後早期の運動機能が低下する症例を術前より把握することにより,術後の理学療法介入の一助になると考えられる。また,多施設によるデータを集積しているため,人工膝関節置換術患者の属性を反映しているものと考える。