第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述95

脊椎2

Sun. Jun 7, 2015 9:40 AM - 10:40 AM 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:渡邉純(清泉クリニック整形外科 東京)

[O-0705] 異なる坐位保持課題が腰部受動性組織に及ぼす影響

~腰部分節の角度変化に着目して~

野田敏生1, 齊藤大介1, 古川公宣2 (1.豊橋整形外科江崎病院, 2.星城大学リハビリテーション学部)

Keywords:Upright sitting, Slump sitting, 腰椎分節角度変化

【はじめに,目的】
Jeffrey(2006)らによると,慢性腰痛症は全米における就労欠如要因(仕事を休む)の第1位に挙げられており,その社会的損失は1000億から2000億ドルと試算され,大きな社会問題となっている。また,我が国でも平成25年度国民生活基礎調査において有訴,通院者の両方で男女とも高い順位にあるため,厚生労働省は,慢性疼痛に対する対策を検討している。
慢性腰痛症の発生原因のひとつと考えられているのは,長時間の坐位保持による作業,いわゆるデスクワークである。諸家の報告によると,腰椎の生理的前弯を保つ坐位姿勢(Upright sitting)は深層筋が優位に働き,脊柱の靭帯軟部組織への負担は少ないとされている。それに対し,胸腰部を脱力し,骨盤を後傾した坐位姿勢(Slump sitting)は,脊柱起立筋にFlexion Relaxation Phenomenon(FRP)が出現し,腰椎を生理的前弯に保つ力源を非収縮性の受動性組織に依存する。従って,これらが伸張され菲薄化することで強度低下を起こし(クリープ現象),脊柱の安定性が損なわれるとされているが,腰部分節の角度変化に関して経時的な変化を調査したものはない。
そこで今回我々は,Upright sittingとSlump sittingを保持する間の各腰椎間の関節(椎間関節)の角度変化から,異なる坐位姿勢が腰部負担に与える影響を調査した。
【方法】
対象は健常成人男性14名,年齢:30.7±6.8歳,身長:171.1±5.1cm,体重:65.0±9.3kgで,1年以内に強い腰部痛の経験がなく,かつ腰部に障害を残遺する疾患及び外傷の既往がない者とした。
被験者は大腿骨をベッドに平行,膝関節屈曲90°で足底は床から離すように治療用ベッドに着坐し,体重の20%の重錘を両側肩関節に掛けたベルトに懸垂した状態で,Upright sittingとSlump sittingを,それぞれ20分間保持した。腰椎分節間の角度変化は,超音波式3次元動作解析システム(Zebris社製CMS-70P)を用いて測定した。2つの試行間には十分な期間(7日間以上)を設けた。
統計学的解析にはStatView Ver.5.0 for windows(SAS Institute社製,USA)を使用した。Upright sittingとSlump sittingの坐位保持課題時の角度変化における比較には対応のあるt検定,経時的変化には反復測定分散分析と多重比較検定(Dunnet法)を用い,危険率5%未満を有意とした。
【結果】
Slump sittingは,20分間を通し腰椎全体と各分節において有意な姿勢の変化を認めなかったが,Upright sittingは,腰椎全体と各分節において後弯方向に有意な姿勢の変化が認められた。Upright sitting開始後に生じる腰椎角度変化は,腰椎全体は5分,L2/3は11分,L3/4は8分,L4/5は6分,L5/S1は5分から後弯方向に有意な姿勢の変化を認めた。
【考察】
Upright sittingは,経時的に後弯方向への変化から,脊柱の保持が腰部受動性組織に徐々に移行している事が推察された。特に下位腰椎の姿勢変化が早期に生じている事から,Upright sittingは,上位より下位の腰部受動性組織に負荷が大きく,これは腰椎ヘルニアの発生部位が下位に多い傾向にある要因の1つと考えられる。
Slump sittingは,腰部受動性組織にクリープ現象を生じると報告されているが,今回の研究の荷重負荷では観察されなかった。これは,脊柱伸筋活動との関連性が考えられるが,本研究では明らかに出来なかった。
以上の事より,推奨される姿勢を保つことは難しく,長時間の坐位保持中には受動性組織の負荷を減じるように坐位姿勢を頻繁に変化させることが必要であると思われる。
本研究の限界として,長時間の坐位保持を重量負荷にて再現したため,本来の長時間坐位保持による変化と異なる可能性がある。今後は日常的な作業環境での評価を行えるよう研究を進める計画である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果は,慢性腰痛症を予防するための適切な作業姿勢,作業時間等の指導を行う一助となり,地域のオフィスや学校などの環境整備を行う際に活用することができるものと考えている。