[O-0710] 脳性麻痺児における歩行時Synergyの経年変化
非負値行列因子分解によって抽出されるSynergyの変化と運動機能の変化との関係
Keywords:脳性麻痺, Synergy, 歩行
【はじめに,目的】
Synergyとは中枢神経が筋骨格系における多自由度を調整し,四肢の複雑な運動をコントロールするために,個々の筋では無く複数の筋を同期させる活動を指す。近年,非負値行列因子分解(以下NNMF)という解析を用いて,計算論を基に歩行時のSynergyを定量化する報告が成されており,その結果から脳卒中後片麻痺者ではSynergy数と歩行速度との関係(Clark et al, 2010)が明らかとなっている。我々は,これまでに脳性麻痺児を対象として,Synergy数が痙性の程度や歩行時の足圧中心の移動量(以下dCOP)と関係することを報告した。しかし,脳性麻痺児の発達過程における,歩行時Synergyの経年変化については未だ報告されていない。そこで,本研究では脳性麻痺児の歩行時Synergyの1年間における経年変化と運動機能の変化との関係を縦断的に検討した。
【方法】
対象は脳性麻痺児10名とした(年齢13.3±3.8歳 GMFCS1レベル2名,2レベル7名,3レベル1名)。1年間に2度の測定を行い,各時期での歩行時筋活動を,Delsys社製Trigno Wireless Systemを用いて重度側下肢8筋にて測定した。得られた筋電波形をNNMFによってSynergyの活動波形(以下Coefficient)とSynergyが各筋に寄与する重みづけ(以下Weightings)として算出した。さらに,Synergyの経年変化の指標として,以下の2つの経年変化の指標を算出した。Coefficientについては,各Synergyの活動波形における年度間の差分の絶対値の総和として示した(ΔCo)。また,Weightingsは,後年度の値が基準値(0.3)以下の筋を選択して,その平均値を算出し,同一筋の前年度におけるweightingsの平均値との差を算出することでSynergyの選択性の変化を表す指標とした(ΔW)。運動機能は,歩行速度およびケーデンスを測定し,Zebris社製足圧分布計を用いて立脚期におけるdCOPを測定した。また,Pediatric Evaluation of Disability Inventory(以下PEDI)の移動項目尺度化スコアを算出した。各運動機能指標は年度間の変化率として示した。統計解析については,ΔCoおよびΔWと各運動機能指標の変化率との間のSpearmanの順位相関係数を算出した。
【結果】
NNMF解析の結果,前脛骨筋を含むSynergy(以下TA-Synergy),下腿三頭筋を含むSynergy(以下GS-Synergy),そしてハムストリングスを含むSynergy(以下Ham-Synergy)の三つが認められた。TA-SynergyのΔCoは,dCOPの変化率と有意な相関関係を認めた(ρ=0.96 p<0.01)。また,Ham-SynergyにおけるΔWはPEDIの変化率との間に有意な相関関係を認めた(ρ=0.86 p<0.01)。
【考察】
TA-Synergyの活動波形の変化量がCOPの移動量の変化率に関係し,Ham-Synergyの選択性の向上が日常生活機能の改善と関係した。先行研究において,CoefficientはSynergyに対する皮質からの入力を反映し,WeightingsはSynergyが支配する各筋への出力の割合を反映するとされている(Delis et al, 2013)。本研究において,TA-SynergyのΔCoとdCOPの変化が関係したことから,脳性麻痺児の歩行指標の改善に皮質の活動の変化が関与していると考えられた。さらに,ΔWとPEDIの変化が関係したことから,日常生活動作の向上にHam-Synergyの選択性の向上が関連していた可能性が高い。先行研究にて運動学習に伴うWeightingsの変化が報告されていることから(Kargo et al, 2003),脳性麻痺児は運動機能の発達の過程において,Weightingsを変化させてSynergyの選択性を向上させている可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
脳性麻痺児を対象とした,運動制御の背景となるSynergyの性質に関する報告は少ない。さらに,Synergyの経年的な変化について明示した報告は未だ認められていない。本研究の結果から,脳性麻痺児の長期的なSynergyの発達についてNNMFを用いて明らかに出来る可能性があると考えられる。
Synergyとは中枢神経が筋骨格系における多自由度を調整し,四肢の複雑な運動をコントロールするために,個々の筋では無く複数の筋を同期させる活動を指す。近年,非負値行列因子分解(以下NNMF)という解析を用いて,計算論を基に歩行時のSynergyを定量化する報告が成されており,その結果から脳卒中後片麻痺者ではSynergy数と歩行速度との関係(Clark et al, 2010)が明らかとなっている。我々は,これまでに脳性麻痺児を対象として,Synergy数が痙性の程度や歩行時の足圧中心の移動量(以下dCOP)と関係することを報告した。しかし,脳性麻痺児の発達過程における,歩行時Synergyの経年変化については未だ報告されていない。そこで,本研究では脳性麻痺児の歩行時Synergyの1年間における経年変化と運動機能の変化との関係を縦断的に検討した。
【方法】
対象は脳性麻痺児10名とした(年齢13.3±3.8歳 GMFCS1レベル2名,2レベル7名,3レベル1名)。1年間に2度の測定を行い,各時期での歩行時筋活動を,Delsys社製Trigno Wireless Systemを用いて重度側下肢8筋にて測定した。得られた筋電波形をNNMFによってSynergyの活動波形(以下Coefficient)とSynergyが各筋に寄与する重みづけ(以下Weightings)として算出した。さらに,Synergyの経年変化の指標として,以下の2つの経年変化の指標を算出した。Coefficientについては,各Synergyの活動波形における年度間の差分の絶対値の総和として示した(ΔCo)。また,Weightingsは,後年度の値が基準値(0.3)以下の筋を選択して,その平均値を算出し,同一筋の前年度におけるweightingsの平均値との差を算出することでSynergyの選択性の変化を表す指標とした(ΔW)。運動機能は,歩行速度およびケーデンスを測定し,Zebris社製足圧分布計を用いて立脚期におけるdCOPを測定した。また,Pediatric Evaluation of Disability Inventory(以下PEDI)の移動項目尺度化スコアを算出した。各運動機能指標は年度間の変化率として示した。統計解析については,ΔCoおよびΔWと各運動機能指標の変化率との間のSpearmanの順位相関係数を算出した。
【結果】
NNMF解析の結果,前脛骨筋を含むSynergy(以下TA-Synergy),下腿三頭筋を含むSynergy(以下GS-Synergy),そしてハムストリングスを含むSynergy(以下Ham-Synergy)の三つが認められた。TA-SynergyのΔCoは,dCOPの変化率と有意な相関関係を認めた(ρ=0.96 p<0.01)。また,Ham-SynergyにおけるΔWはPEDIの変化率との間に有意な相関関係を認めた(ρ=0.86 p<0.01)。
【考察】
TA-Synergyの活動波形の変化量がCOPの移動量の変化率に関係し,Ham-Synergyの選択性の向上が日常生活機能の改善と関係した。先行研究において,CoefficientはSynergyに対する皮質からの入力を反映し,WeightingsはSynergyが支配する各筋への出力の割合を反映するとされている(Delis et al, 2013)。本研究において,TA-SynergyのΔCoとdCOPの変化が関係したことから,脳性麻痺児の歩行指標の改善に皮質の活動の変化が関与していると考えられた。さらに,ΔWとPEDIの変化が関係したことから,日常生活動作の向上にHam-Synergyの選択性の向上が関連していた可能性が高い。先行研究にて運動学習に伴うWeightingsの変化が報告されていることから(Kargo et al, 2003),脳性麻痺児は運動機能の発達の過程において,Weightingsを変化させてSynergyの選択性を向上させている可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
脳性麻痺児を対象とした,運動制御の背景となるSynergyの性質に関する報告は少ない。さらに,Synergyの経年的な変化について明示した報告は未だ認められていない。本研究の結果から,脳性麻痺児の長期的なSynergyの発達についてNNMFを用いて明らかに出来る可能性があると考えられる。