第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述96

発達障害理学療法

2015年6月7日(日) 09:40 〜 10:40 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:北原エリ子(順天堂大学医学部附属順天堂医院 リハビリテーション室)

[O-0711] 痙直型脳性麻痺患者における日本語版Selective Control Assessment of the Lower Extremity(SCALE)の信頼性と妥当性の検討

楠本泰士1, 高木健志2, 新田收3, 松田雅弘4 (1.東京工科大学, 2.南多摩整形外科病院, 3.首都大学東京, 4.植草学園大学)

キーワード:脳性麻痺, 随意性, 信頼性

【はじめに】
脳性麻痺患者における下肢随意運動の評価は,運動障害を構成する重要な因子の一つと考えられているが,その評価は日本をはじめ世界的に行われてこなかった。2009年に脳性麻痺痙直型患者における下肢随意性の評価法としてSelective Control Assessment of the Lower Extremity(SCALE)が開発され,SCALEと歩行時遊脚期の動きとの関係がいくつか報告されている。しかし,日本において,脳性麻痺の下肢随意性の評価指標はない。そこで本研究では,日本の痙直型脳性麻痺患者に対する下肢随意性検査として,SCALEの信頼性と妥当性を検証することを目的とした。
【方法】
SCALEの翻訳は国際基準にのっとり行い,制作者の承諾を得てから順翻訳,逆翻訳,統合作業を行った。完成した日本語版SCALEを用いて検者内信頼性と検者間信頼性を測定した。SCALEとは,痙直型脳性麻痺に対する下肢随意性の評価法で,股関節屈伸,膝関節屈伸,足関節底背屈,距骨下関節内外反,足趾屈伸の計5つの自動運動を,3秒間の言語指示中に行い,運動の程度によって2~0点で採点する。左右それぞれが10点満点となり,両下肢合わせると20点満点となる。対象は粗大運動能力分類システム(Gross Motor Function Classification System;GMFCS)にてレベルI~IVの痙直型脳性麻痺患者とした。本研究ではGMFCSにてレベルVの者,過去6ヶ月以内に整形外科手術を行った者,ボツリヌス療法を行った者は対象から除外した。検者内信頼性の測定は,痙直型脳性麻痺患者18名(平均14.7歳,7~35歳,片麻痺1名,両麻痺13名,四肢麻痺4名,GMFCSレベルI5名,II4名,III4名,IV5名)を対象とした。1名の理学療法士が1ヵ月以内に同一の対象者に対してSCALEの測定を2回試行した。各測定値を基に級内相関係数(ICC1.1)を算出した。検者間信頼性の測定は,痙直型脳性麻痺患者18名(平均12.6歳,7~28歳,片麻痺1名,両麻痺13名,四肢麻痺4名,GMFCSレベルI5名,II4名,III4名,IV5名)を対象とした。2名の理学療法士が1ヵ月以内に同一の対象者に対してSCALEの測定を1回ずつ行った。各測定値を基に級内相関係数(ICC2.1)を算出した。構成概念妥当性の検証は,痙直型脳性麻痺患者29名(平均15.4歳,7~44歳,片麻痺2名,両麻痺21名,四肢麻痺6名)を対象とした。SCALEとGMFCSとの相関関係をSpearmanの相関係数を用いて検証した。統計処理にはIBM SPSS Statistics Ver.19を使用し,有意水準を5%とした。
【結果】
両下肢全体の得点はICC1.1が0.93,ICC2.1は0.92だった。妥当性の検証では,対象者の粗大運動レベルはGMFCSレベルIが8名(SCALEは11~16点),IIが7名(6~12点),IIIが7名(5~8点),IVが7名(1~4点)だった。Spearmanの相関係数は-0.93だった。
【考察】
級内相関係数はICC1.1,ICC2.1ともに0.93,0.92と高い値が得られ,概ね良好な結果が得られたことから,SCALEの臨床での使用が可能と考えられる。SCALEとGMFCSとの相関係数は-0.93だった。随意運動のコントロールは「随意運動の要求に反応する選択的なパターンにおける筋の独立した活動能力」と定義され,皮質脊髄路の損傷は,筋活動時の力や速度,タイミングなどを妨げるとされている。そのため,痙直型脳性麻痺の主な原因である脳室周囲白室軟化症による皮質脊髄路の障害では,筋の随意的なコントロールが障害されることが運動機能障害の要因の一つと考えられている。今回,SCALEとGMFCSとの間に高い相関が得られたことより,痙直型脳性麻痺における運動機能障害の要因の一つとして,下肢随意性の重要性が示唆された。Fowlerらは同様の対象者に対して構成概念妥当性の検証を行っており,相関係数-0.83と本研究と比較してわずかに低い値が得られていた。これは本研究とは異なりGMFCSレベルIの対象者のSCALEの得点が12~18点,レベルIIで10~15点,IIIで0~13点,IVで0~8点と,対象者の下肢随意性の状態に幅があったためと考えられる。本研究の妥当性の検証では,全体的に対象者の数が少なかったため,先行研究と比較してGMFCSレベルIII,IVの下肢随意性の幅が狭くなった可能性がある。今後は対象者を増やすことでより詳細な検討を行い,縦断調査による下肢随意性の変化を調査する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
脳性麻痺痙直型両麻痺患者における下肢随意性検査が一般化されることで,縦断的な調査により下肢変形の程度とSCALEとの関係が明らかになれば,予防的な理学療法介入や整形外科的治療の一助となると考えられる。