第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述96

発達障害理学療法

2015年6月7日(日) 09:40 〜 10:40 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:北原エリ子(順天堂大学医学部附属順天堂医院 リハビリテーション室)

[O-0712] 3歳から6歳までの幼児における膝伸展筋力測定の検者内信頼性

月齢別での検討

重島晃史, 山﨑裕司, 片山訓博 (高知リハビリテーション学院理学療法学科)

キーワード:幼児, 膝伸展筋力, 信頼性

【はじめに,目的】
筋力測定は従来,徒手筋力テスト法が実施されてきたが,筋力の変化をとらえる感度に乏しく定量化には不十分であった。そのような背景から,最近ではハンドヘルドダイナモメーター(HHD)が普及し,経済性や操作性が高いことから健常成人や高齢者,脳血管障害患者などを対象に広く臨床応用されるようになってきた。しかし,子どもを対象にHHDを用いた筋力測定は本邦において報告が少なく,測定の信頼性に関する報告はほとんどない。信頼性が明らかになれば,筋力の基礎データが参照できるだけでなく,運動障害を持つ子どもの筋骨格系の評価や治療の指標としての活用も期待される。そこで本研究では,立ち上がり能力や歩行能力との関連性が報告される膝関節伸展筋力について同一検者における筋力測定の信頼性を検討したので報告する。
【対象および方法】
対象は幼児37名(男児19名,女児18名)で,月齢(平均±標準偏差)は58.8±8.8ヶ月(範囲42~73ヶ月)であった。身長,体重,BMIの計測値(平均±標準偏差)はそれぞれ,105.6±7.4cm,17.4±3.3kg,15.5±1.4で,幼稚園に所属する身体・認知機能面に問題がない健康な幼児であった。
等尺性膝伸展筋力の測定にはHHDとしてアニマ社製μ-TAS F-1を用いた。測定は測定者(14年目の理学療法士)と測定補助者(理学療法学科3年次生の学生)の2名で実施した。測定者の役割は測定のオリエンテーションや測定の実施,測定補助者は測定値の読み取り及び記録とした。測定手順はまず端座位で両上肢は胸の前で腕を組み,足底は全面接地するよう高さを調整した。次にボールを蹴る足を聴取しそれを利き足とし,センサーアタッチメントを利き足の下腿内外果直上に装着し,固定ベルトで下腿後方の支柱に連結した。測定に際しては,3秒間できる限り強く膝を伸展するように指示した。なお,測定の指示が理解しやすいよう,測定者は対象児に対し測定のモデルを示し,模倣するよう促した。測定ではまず練習を行い,理解できたことを確認して実施した。できる限り大きな筋力が発揮されるよう評価者は口頭にて励ました。測定は2回実施し,大きい値を等尺性膝伸展筋力(kgf)として採用した。また,測定肢の膝関節運動軸からセンサーまでの距離(m)を測定し,等尺性膝伸展筋力トルク(Nm)を求めた。これまでの過程を1セッションとし,これを2セッション実施した。セッション間は約30分の間隔を置き,測定値は測定補助者が測定者に知られないよう配慮した。
統計学的解析では対象児を60ヶ月未満と60ヶ月以上の2群に分類した。各群において検者内信頼性を検討するにあたり,2セッション間の等尺性膝伸展筋力トルクについて級内相関係数(ICC(1,1))および最小可検誤差(MDC),Bland-Altmanプロットによる固定誤差および比例誤差の検討を行った。なお,解析のソフトウェアにはR2.8.1を使用し,危険率5%未満を有意水準とした。
【結果】
等尺性膝伸展筋力トルク(1セッション目)は60ヶ月未満,60ヶ月以上の順に17.9±6.4Nm,27.2Nmであった。ICC(1,1)は60ヶ月未満,60ヶ月以上の順に0.80(95%信頼区間0.55~0.92),0.88(95%信頼区間0.71~0.95),MDCは同様の順に8.3Nm,9.7Nmであった。また,有意な比例誤差および固定誤差は認められなかった。
【考察】
桑原ら(1993)によると,ICCの評価基準は0.7以上で普通,0.8以上で良好,0.9以上で優秀であるとしている。この基準に基づいた場合,今回の結果から対象児における膝伸展筋力測定の信頼性は良好であり,特に60ヶ月以上では良より良い信頼性を有することが示唆された。子どもへの筋力測定において危惧されることは口頭での運動指示が十分理解できているかどうかである(大畑,2013)。また,Piagetによると認知発達において抽象概念ができるのは11歳以降とされる。今回対象となった幼児は3歳~6歳であり,筋力測定にはより具体的な説明が必要と考えられた。そこで,測定者の行動を模倣することと測定前の事前練習および動作確認を十分行い,動作が理解できた時は褒めるよう工夫した。今回の結果から,幼児においても膝伸展筋力測定は有用であることが示唆され,特に60ヶ月以上では筋力データの有効な活用が期待される。今後は異なる検者における信頼性の検討が課題である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は,子どもにおける筋骨格系の評価の一指標としての活用が期待され,運動器の発達評価や運動障害を有する子どもへの治療効果の判定への応用が期待される。