[O-0713] デュシェンヌ型筋ジストロフィーにおける経口摂取の継続状況について
キーワード:デュシェンヌ型筋ジストロフィー, 経口摂取, 機械による咳介助
【はじめに,目的】
非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation;NPPV)による呼吸管理と心筋症に対する心保護治療などにより,デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy;DMD)の生命予後が大きく改善した。NPPVを効果的に活用するには気道クリアランスが不可欠である。進行したDMDでは脊柱,特に頸部の伸展拘縮や前彎変形,廃用などにより二次的に喉頭と咽頭機能の低下が認められ,気道クリアランスや嚥下機能へ影響を与える。しかし,徒手や機械による咳介助(mechanical insufflation-exsufflation;MI-E)を行うことにより,窒息や痰づまり,誤嚥性肺炎を予防することで,挿管や気管切開を回避し,NPPVを継続できるようになった。Bianchiらは,嚥下障害が認められる患者においても,咳のピークフロー(cough peak flow:CPF)が242L/min以上に達した患者の多くは誤嚥性肺炎の予防が可能で,経口摂取が可能であったと報告している。一方,筋萎縮性側索硬化症(ALS)においては,%FVCが50%に低下するまでに胃瘻を造設することがガイドラインで推奨されている。本研究では当院DMD患者における経口摂取の継続状況について検討した。
【方法】
対象は2014年7月に入院中の気管切開を施行していないDMD患者とした。対象の年齢,栄養摂取形態,経口摂取から経管栄養への移行年齢と理由,NPPV使用有無,MI-E使用有無,誤嚥性肺炎や挿管の有無を診療録より後方視的に調査した。呼吸機能は肺活量(vital capacity:VC),CPFを調査した。経口摂取の継続状況をKaplan-Meier法で解析し,経口摂取率を調査した。
【結果】
診療録より1998年2月から2014年7月まで調査可能であった。対象は79名(年齢29.3±8.5歳,11~48歳),NPPV使用患者は70名(終日NPPV:60名)であった。経口摂取患者が67名,経管栄養患者が12名,胃瘻造設術患者は0名であった。経口摂取率は20歳で98.6%,30歳で88.6%,40歳で64.2%となった。経口摂取から経管栄養へ移行した理由には,経口摂取量の低下による低栄養(4例),腹部膨満による経口摂取困難(4例),重度な知的障害によりリスク回避が困難(3例),食事拒否(1例)があった。
呼吸機能に関しては経口摂取患者が63名(VC:628.4±669.8ml,CPF:108.1±104.9L/min),経管栄養患者が4名(VC:132.5±113.5ml,CPF:21.3±42.5L/min)調査可能であった。経口摂取患者のCPFにおいて242L/min以上が8名(年齢:16.5±3.1歳),そのうちMI-E使用が0名,242L/min未満が55名(年齢:29.8±7.4歳),そのうちMI-E使用は52名(94.5%)であった。また,CPFが242L/min未満患者において対象期間に誤嚥性肺炎,気管挿管はなかった。
【考察】
40歳での経口摂取率は6割を超えていた。年齢が増加しても経口摂取継続が可能な要因として,食事中の気道クリアランスが保たれているからと考えた。食事中に誤嚥やむせがみられた場合,徒手による咳介助やMI-Eの使用により咳機能を強化することで,誤嚥性肺炎,食物の排出困難による窒息や気管挿管のリスクを回避していた。また,定期的に呼吸機能検査を行うことでCPFを把握し,その結果から誤嚥やむせへの対処方法を選択,MI-Eの導入を行っている。Bianchiらは,慢性誤嚥患者にとってCPFは肺合併症を予測するのに有用で,CPF<242L/minで肺合併症が予測されるとした。当院経口摂取患者の多くはCPFが242L/minを下回っていたが,対象期間中に誤嚥性肺炎や気管挿管はなかった。CPFが弱くなる進行性の神経筋疾患患者への呼吸理学療法として,徒手の咳介助によるCPFの増強やMI-Eを使用可能にすることで経口摂取を継続し,誤嚥性肺炎を防ぐことができると考えられる。この他,経口摂取継続への対応として,ベッド上のポジショニングや進行に合わせて電動車椅子のシーティングを行い,不良姿勢による頸部変形での嚥下や咳の機能低下を最小限にしている。ベッド上の食事では,リクライニングや枕などを利用し,各患者の飲み込みやすい姿勢作りを行っている。また,当院では経口摂取困難,食事による易疲労や摂取量低下,体重減少などがみられる患者には積極的にNPPV装着下での食事を導入しており,経口摂取継続可能な要因のひとつと考える。
【理学療法学研究としての意義】
NPPVによる呼吸管理と心筋症に対する心保護治療などの集学的治療により寿命がさらに延長されていくことが予想され,今後嚥下障害が著名に問題となってくることが考えられる。そのなかで気道クリアランス等のケアを行うことにより,経口摂取継続を可能にすることが必要である。
非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation;NPPV)による呼吸管理と心筋症に対する心保護治療などにより,デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy;DMD)の生命予後が大きく改善した。NPPVを効果的に活用するには気道クリアランスが不可欠である。進行したDMDでは脊柱,特に頸部の伸展拘縮や前彎変形,廃用などにより二次的に喉頭と咽頭機能の低下が認められ,気道クリアランスや嚥下機能へ影響を与える。しかし,徒手や機械による咳介助(mechanical insufflation-exsufflation;MI-E)を行うことにより,窒息や痰づまり,誤嚥性肺炎を予防することで,挿管や気管切開を回避し,NPPVを継続できるようになった。Bianchiらは,嚥下障害が認められる患者においても,咳のピークフロー(cough peak flow:CPF)が242L/min以上に達した患者の多くは誤嚥性肺炎の予防が可能で,経口摂取が可能であったと報告している。一方,筋萎縮性側索硬化症(ALS)においては,%FVCが50%に低下するまでに胃瘻を造設することがガイドラインで推奨されている。本研究では当院DMD患者における経口摂取の継続状況について検討した。
【方法】
対象は2014年7月に入院中の気管切開を施行していないDMD患者とした。対象の年齢,栄養摂取形態,経口摂取から経管栄養への移行年齢と理由,NPPV使用有無,MI-E使用有無,誤嚥性肺炎や挿管の有無を診療録より後方視的に調査した。呼吸機能は肺活量(vital capacity:VC),CPFを調査した。経口摂取の継続状況をKaplan-Meier法で解析し,経口摂取率を調査した。
【結果】
診療録より1998年2月から2014年7月まで調査可能であった。対象は79名(年齢29.3±8.5歳,11~48歳),NPPV使用患者は70名(終日NPPV:60名)であった。経口摂取患者が67名,経管栄養患者が12名,胃瘻造設術患者は0名であった。経口摂取率は20歳で98.6%,30歳で88.6%,40歳で64.2%となった。経口摂取から経管栄養へ移行した理由には,経口摂取量の低下による低栄養(4例),腹部膨満による経口摂取困難(4例),重度な知的障害によりリスク回避が困難(3例),食事拒否(1例)があった。
呼吸機能に関しては経口摂取患者が63名(VC:628.4±669.8ml,CPF:108.1±104.9L/min),経管栄養患者が4名(VC:132.5±113.5ml,CPF:21.3±42.5L/min)調査可能であった。経口摂取患者のCPFにおいて242L/min以上が8名(年齢:16.5±3.1歳),そのうちMI-E使用が0名,242L/min未満が55名(年齢:29.8±7.4歳),そのうちMI-E使用は52名(94.5%)であった。また,CPFが242L/min未満患者において対象期間に誤嚥性肺炎,気管挿管はなかった。
【考察】
40歳での経口摂取率は6割を超えていた。年齢が増加しても経口摂取継続が可能な要因として,食事中の気道クリアランスが保たれているからと考えた。食事中に誤嚥やむせがみられた場合,徒手による咳介助やMI-Eの使用により咳機能を強化することで,誤嚥性肺炎,食物の排出困難による窒息や気管挿管のリスクを回避していた。また,定期的に呼吸機能検査を行うことでCPFを把握し,その結果から誤嚥やむせへの対処方法を選択,MI-Eの導入を行っている。Bianchiらは,慢性誤嚥患者にとってCPFは肺合併症を予測するのに有用で,CPF<242L/minで肺合併症が予測されるとした。当院経口摂取患者の多くはCPFが242L/minを下回っていたが,対象期間中に誤嚥性肺炎や気管挿管はなかった。CPFが弱くなる進行性の神経筋疾患患者への呼吸理学療法として,徒手の咳介助によるCPFの増強やMI-Eを使用可能にすることで経口摂取を継続し,誤嚥性肺炎を防ぐことができると考えられる。この他,経口摂取継続への対応として,ベッド上のポジショニングや進行に合わせて電動車椅子のシーティングを行い,不良姿勢による頸部変形での嚥下や咳の機能低下を最小限にしている。ベッド上の食事では,リクライニングや枕などを利用し,各患者の飲み込みやすい姿勢作りを行っている。また,当院では経口摂取困難,食事による易疲労や摂取量低下,体重減少などがみられる患者には積極的にNPPV装着下での食事を導入しており,経口摂取継続可能な要因のひとつと考える。
【理学療法学研究としての意義】
NPPVによる呼吸管理と心筋症に対する心保護治療などの集学的治療により寿命がさらに延長されていくことが予想され,今後嚥下障害が著名に問題となってくることが考えられる。そのなかで気道クリアランス等のケアを行うことにより,経口摂取継続を可能にすることが必要である。