[O-0714] 成人の痙直型脳性まひ者に対する筋緊張評価“Pendulum test”を用いた再現性およびRelaxation Indexと角速度の有用性について
キーワード:痙縮, 角速度, Pendulum test
【はじめに,目的】
痙縮は“上位運動ニューロン障害のひとつである。そして過大な伸張反射を伴う筋緊張であり,その筋緊張は速度に依存して増加する特徴を持つ運動障害である。”と定義されている。現在臨床で多く用いられている痙縮の評価指標であるModified Ashworth Scale(以下MAS)は,簡便な方法であるが,主観的評価法である。そのため,治療による軽微な痙縮抑制の効果判定を行うために,客観的な評価方法が必要であると考える。そこで今回Pendulum test(以下Pt)に着目した。Ptは筋緊張の評価法であり,末梢の肢の自由落下時に見られる関節運動を測定する方法である。Ptから得られる指数算出方法は様々だが,その一つにRelaxation Index(以下RI)というSwing時の関節角度を元にした指数がある。他にも肢の落下時の最大角速度Max Angular Velocity(以下MAV)や加速度を評価するものもある。
このPtによる評価の妥当性や再現性に関する研究は成人脳性まひ(以下CP)者に対して行われていない。
また,PtによるRIの測定は客観的であるが,評価手法が煩雑であるため,臨床では用いられていない。
そこで本研究ではPtを用いて成人CP者の膝関節伸展筋群の筋緊張の再現性を検討すること,下腿のMAVがRIに相当するパラメータとなるか検討することを目的とした。
【方法】
対象者は某施設に入所している成人の脳性まひ痙直型の8名(年齢44.4±8.4歳,GMFCSIII7名,IV1名,MASは1+が5名,2が3名)であり,対象下肢は左下肢とした。取り込み基準は膝関節伸展筋群に痙縮を認め,下腿の自由落下により関節運動が発生すること。検者の説明が理解でき,研究の承諾ができることとした。除外基準は6ヶ月以内に測定下肢に外科的手術を行った人とした。また比較対象群は健常者8名(年齢21.8±0.5歳)とした。
手順は,ベッド上にて上半身を起こした半臥位をとり,加速度計を下腿の遠位前面に固定した。左下肢を他動的に最大伸展位に保持し,急に離す。下腿の自由落下が起こる。この状態を録画して3つの関節角度(自由落下前の最大伸展角,初期屈曲角,下腿下垂角)の状態を静止画保存した。それをImage Jによる画像解析にて計測しRIを算出した。MAVは1回目の伸張反射が誘発される直前のMAVの数値を計測した。
また1日の測定において2回連続して計測を行った。再現性の検討は筋緊張の日内変動,日間変動を考慮し1週間後の同じ時間帯に測定した。
本研究の統計処理において同一日内の再現性は同日の2回のデータを用いた。日間変動に関しては各測定日2回のデータの平均値を計測データとして扱い級内相関係数(以下ICC)を算出した。またRIとMAVの相関関係は8名の計32データを用いてピアソンの相関係数の検定を施行した。
【結果】
CP者のRI平均値は1週目0.947±0.213,2週目0.941±0.272。健常者連続2回のRI平均値は1.789±0.217。MAV平均値は1週目250.2±71.3,2週目は243.5±77.6。健常者の連続2回のMAV平均値は399.7±24.7となった。また,CP者のRIにおいて連続2回の施行結果のICCは0.88(95%CI:0.54-0.97)。2日間の日間変動のICCは0.87(95%CI:0.53-0.98)。CP者のMAVにおいて連続2回の施行結果のICCは0.86(95%CI:0.48-0.97)。2日間の日間変動のICCは0.86(95%CI:0.49-0.97)。
また,健常者のRIにおいて2回の施行結果のICCは0.80(95%CI:0.33-0.96)。MAVにおいて2回の施行結果のICCは0.80(95%CI:0.32-0.96)であった。
また,RIとMAVの相関係数はr=0.63であった。
【考察】
成人CP者のRIおよびMAVにより筋緊張の高い再現性が認められた。またRIとMAV間に中等度の相関が認められたため,MAVはRIの代替手法として同程度の痙縮の評価を施行できる可能性が示唆された。さらに,MAVの計測はRIに比べ評価時間が短く,簡便に評価ができる。よってPtにおけるMAVの計測は評価内容,評価時間を考慮した際に有用性が高いことも示唆された。またRIとMAVについて健常者の95%CIとの比較から成人CP者の筋緊張の再現性は健常者より安定している可能性が高く,CP者の筋緊張の安定性が高いと考えられる。以上のことから成人脳性まひの病態は,発達機能がプラトーに達することで,獲得した機能を維持する応用段階に入ることからも筋緊張の日間変動が少なく,安定している可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,客観的かつ簡便な痙縮評価の提案が現在臨床行われている痙縮抑制の治療効果判定や継時的な痙縮の変化をとらえることで適切な治療の選択を行っていくための礎となる。また,筋緊張の観点から病態の特徴をとらえる基礎研究を進めていくための足掛かりとなる。
痙縮は“上位運動ニューロン障害のひとつである。そして過大な伸張反射を伴う筋緊張であり,その筋緊張は速度に依存して増加する特徴を持つ運動障害である。”と定義されている。現在臨床で多く用いられている痙縮の評価指標であるModified Ashworth Scale(以下MAS)は,簡便な方法であるが,主観的評価法である。そのため,治療による軽微な痙縮抑制の効果判定を行うために,客観的な評価方法が必要であると考える。そこで今回Pendulum test(以下Pt)に着目した。Ptは筋緊張の評価法であり,末梢の肢の自由落下時に見られる関節運動を測定する方法である。Ptから得られる指数算出方法は様々だが,その一つにRelaxation Index(以下RI)というSwing時の関節角度を元にした指数がある。他にも肢の落下時の最大角速度Max Angular Velocity(以下MAV)や加速度を評価するものもある。
このPtによる評価の妥当性や再現性に関する研究は成人脳性まひ(以下CP)者に対して行われていない。
また,PtによるRIの測定は客観的であるが,評価手法が煩雑であるため,臨床では用いられていない。
そこで本研究ではPtを用いて成人CP者の膝関節伸展筋群の筋緊張の再現性を検討すること,下腿のMAVがRIに相当するパラメータとなるか検討することを目的とした。
【方法】
対象者は某施設に入所している成人の脳性まひ痙直型の8名(年齢44.4±8.4歳,GMFCSIII7名,IV1名,MASは1+が5名,2が3名)であり,対象下肢は左下肢とした。取り込み基準は膝関節伸展筋群に痙縮を認め,下腿の自由落下により関節運動が発生すること。検者の説明が理解でき,研究の承諾ができることとした。除外基準は6ヶ月以内に測定下肢に外科的手術を行った人とした。また比較対象群は健常者8名(年齢21.8±0.5歳)とした。
手順は,ベッド上にて上半身を起こした半臥位をとり,加速度計を下腿の遠位前面に固定した。左下肢を他動的に最大伸展位に保持し,急に離す。下腿の自由落下が起こる。この状態を録画して3つの関節角度(自由落下前の最大伸展角,初期屈曲角,下腿下垂角)の状態を静止画保存した。それをImage Jによる画像解析にて計測しRIを算出した。MAVは1回目の伸張反射が誘発される直前のMAVの数値を計測した。
また1日の測定において2回連続して計測を行った。再現性の検討は筋緊張の日内変動,日間変動を考慮し1週間後の同じ時間帯に測定した。
本研究の統計処理において同一日内の再現性は同日の2回のデータを用いた。日間変動に関しては各測定日2回のデータの平均値を計測データとして扱い級内相関係数(以下ICC)を算出した。またRIとMAVの相関関係は8名の計32データを用いてピアソンの相関係数の検定を施行した。
【結果】
CP者のRI平均値は1週目0.947±0.213,2週目0.941±0.272。健常者連続2回のRI平均値は1.789±0.217。MAV平均値は1週目250.2±71.3,2週目は243.5±77.6。健常者の連続2回のMAV平均値は399.7±24.7となった。また,CP者のRIにおいて連続2回の施行結果のICCは0.88(95%CI:0.54-0.97)。2日間の日間変動のICCは0.87(95%CI:0.53-0.98)。CP者のMAVにおいて連続2回の施行結果のICCは0.86(95%CI:0.48-0.97)。2日間の日間変動のICCは0.86(95%CI:0.49-0.97)。
また,健常者のRIにおいて2回の施行結果のICCは0.80(95%CI:0.33-0.96)。MAVにおいて2回の施行結果のICCは0.80(95%CI:0.32-0.96)であった。
また,RIとMAVの相関係数はr=0.63であった。
【考察】
成人CP者のRIおよびMAVにより筋緊張の高い再現性が認められた。またRIとMAV間に中等度の相関が認められたため,MAVはRIの代替手法として同程度の痙縮の評価を施行できる可能性が示唆された。さらに,MAVの計測はRIに比べ評価時間が短く,簡便に評価ができる。よってPtにおけるMAVの計測は評価内容,評価時間を考慮した際に有用性が高いことも示唆された。またRIとMAVについて健常者の95%CIとの比較から成人CP者の筋緊張の再現性は健常者より安定している可能性が高く,CP者の筋緊張の安定性が高いと考えられる。以上のことから成人脳性まひの病態は,発達機能がプラトーに達することで,獲得した機能を維持する応用段階に入ることからも筋緊張の日間変動が少なく,安定している可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,客観的かつ簡便な痙縮評価の提案が現在臨床行われている痙縮抑制の治療効果判定や継時的な痙縮の変化をとらえることで適切な治療の選択を行っていくための礎となる。また,筋緊張の観点から病態の特徴をとらえる基礎研究を進めていくための足掛かりとなる。