[O-0721] 臨床実習にクリニカルクラークシップを導入する方法論の模索(第3報)
学生の理解度を把握するための新しいツールの開発
Keywords:臨床推論, 統合と解釈, ICF
【はじめに,目的】
当学院では,クリニカルクラークシップ(CCS)を臨床現場に啓蒙するために,積極的な提案と導入を実施してきた。平成24年度はCCSの簡易マニュアルの作成と啓蒙を行い,学生や臨床実習指導者(SV)の実習に対するストレス軽減につながった。反面,実際の指導はCCSとレポート指導の併用(併用)が多いという状況から,平成25年度では併用がなぜ行われるかを調査し,SVが学生の理学療法に対する理解度を把握するためであることが示唆された。そこで平成26年度はSVが簡易に学生の理解度を把握できることを目的として,新しいツールの開発を行った。また実際に実習でこのツールを試行した結果をSVと学生にアンケート調査し,その効果と課題を分析した。以上の実践から一定の知見を得ることができたので報告する。
【方法】
①新しいツールの開発:SVが学生の理解度を把握するため特に注目していた項目に,臨床推論および統合と解釈があった。そこでICFモデルを用い臨床推論や統合と解釈を推考可能なチャートを開発した。これは問題点を箇条書きやキーワードとして記入し,関連付けやカテゴリー化してまとめるもので,臨床推論や統合と解釈の概念を体系化することができるようにした。さらに問題点の優先順位と,それに対する治療計画,治療目標,リスク管理などが整理できるように工夫したマトリクスを準備した(ICFツール)。次に学生の実習前指導として,このICFツールを用いたPBL(問題解決型学習)を実施した。それに加えて,臨床記録から考察と問題点の抽出を行う環境作りとして,SOAPによるカルテの作成を指導し,リハビリテーション総合実施計画書の様式を模した学生サマリーの作成を義務付けた。またSVとの情報交換の手段であるデイリーノートや,知識の内面化のための自己学習ノート作成を指導した。最終的にこれらのツール等を関連させた概念図を文書化し,それぞれの運用方法をSVと学生に説明した。
②アンケート調査:新しいツールの使用状況や感想などのアンケート調査を,平成26年度長期実習2期のうち,前半の第I期のみで実施した。データ分析の対象は有効回答のあったSV36名,学生40名とした。アンケート結果は記述統計処理を行ってデータを分析し(Excel2010使用),今後の課題を検討した。
【結果】
SVの実習指導内容の内訳は,レポート指導9人(25%),CCS8人(22%),CCSとレポート指導の併用(併用)19人(53%)であった。ICFツールの使用状況は,使用がSV12人(33%),学生18人(45%)で,不使用の理由は,SVが「指導法がわかりにくい」11人(48%),学生では「SVが使用しなくてもよいといったから」9人(45%)が最も多かった。ICFツールを使用したSVへの有効性に関する質問では,有効8人(62%),非有効はいなかった。またICFツールを使用した学生の感想は,「統合と解釈をする上で使いやすかった」11人(58%),「臨床推論をする上で使いやすかった」5人(26%)であった。学生サマリーの使用状況は,使用がSV21人(58%),学生32人(80%)で,学生サマリーを使用したSVへの有効性に関する質問では,有効2人(9%),非有効10人(43%)であった。また新しいツールが使いこなせなかった理由は,SVと学生に共通して「時間がない」「使用法がわからない」という回答が多かった。
【考察】
ICFツールの使用状況は,SV全体の3割程度と試行段階とはいえ低い結果となった。また不使用あるいは使いこなせなかった理由は,SVと学生共に時間不足,使用方法の理解不十分であった。このことから学生指導がSVの業務を圧迫しているという基本的問題の存在と,ICFツールの使用方法の学生指導,SVへの説明がかなり不足していたことがわかった。これは来年度以降解決すべき大きな課題である。また学生サマリーに対するSVの有効性の認識がかなり低い原因として,学生の症例発表のレジュメとして内容がそぐわないという自由意見が多く,実習指導での使用に対する抵抗感が強かった。しかしICFツールを使用したSVと学生が,その有用性を共通認識し,臨床推論や統合と解釈に役立つと感じていることは,このツールの導入で,SVが学生の理解度を把握することが可能であることを示唆していると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で,今回開発した新しいツールの使用が,SVのニーズである学生の理解度の把握を可能とすることを示唆していることは,今後の臨床教育において意義があると考える。
当学院では,クリニカルクラークシップ(CCS)を臨床現場に啓蒙するために,積極的な提案と導入を実施してきた。平成24年度はCCSの簡易マニュアルの作成と啓蒙を行い,学生や臨床実習指導者(SV)の実習に対するストレス軽減につながった。反面,実際の指導はCCSとレポート指導の併用(併用)が多いという状況から,平成25年度では併用がなぜ行われるかを調査し,SVが学生の理学療法に対する理解度を把握するためであることが示唆された。そこで平成26年度はSVが簡易に学生の理解度を把握できることを目的として,新しいツールの開発を行った。また実際に実習でこのツールを試行した結果をSVと学生にアンケート調査し,その効果と課題を分析した。以上の実践から一定の知見を得ることができたので報告する。
【方法】
①新しいツールの開発:SVが学生の理解度を把握するため特に注目していた項目に,臨床推論および統合と解釈があった。そこでICFモデルを用い臨床推論や統合と解釈を推考可能なチャートを開発した。これは問題点を箇条書きやキーワードとして記入し,関連付けやカテゴリー化してまとめるもので,臨床推論や統合と解釈の概念を体系化することができるようにした。さらに問題点の優先順位と,それに対する治療計画,治療目標,リスク管理などが整理できるように工夫したマトリクスを準備した(ICFツール)。次に学生の実習前指導として,このICFツールを用いたPBL(問題解決型学習)を実施した。それに加えて,臨床記録から考察と問題点の抽出を行う環境作りとして,SOAPによるカルテの作成を指導し,リハビリテーション総合実施計画書の様式を模した学生サマリーの作成を義務付けた。またSVとの情報交換の手段であるデイリーノートや,知識の内面化のための自己学習ノート作成を指導した。最終的にこれらのツール等を関連させた概念図を文書化し,それぞれの運用方法をSVと学生に説明した。
②アンケート調査:新しいツールの使用状況や感想などのアンケート調査を,平成26年度長期実習2期のうち,前半の第I期のみで実施した。データ分析の対象は有効回答のあったSV36名,学生40名とした。アンケート結果は記述統計処理を行ってデータを分析し(Excel2010使用),今後の課題を検討した。
【結果】
SVの実習指導内容の内訳は,レポート指導9人(25%),CCS8人(22%),CCSとレポート指導の併用(併用)19人(53%)であった。ICFツールの使用状況は,使用がSV12人(33%),学生18人(45%)で,不使用の理由は,SVが「指導法がわかりにくい」11人(48%),学生では「SVが使用しなくてもよいといったから」9人(45%)が最も多かった。ICFツールを使用したSVへの有効性に関する質問では,有効8人(62%),非有効はいなかった。またICFツールを使用した学生の感想は,「統合と解釈をする上で使いやすかった」11人(58%),「臨床推論をする上で使いやすかった」5人(26%)であった。学生サマリーの使用状況は,使用がSV21人(58%),学生32人(80%)で,学生サマリーを使用したSVへの有効性に関する質問では,有効2人(9%),非有効10人(43%)であった。また新しいツールが使いこなせなかった理由は,SVと学生に共通して「時間がない」「使用法がわからない」という回答が多かった。
【考察】
ICFツールの使用状況は,SV全体の3割程度と試行段階とはいえ低い結果となった。また不使用あるいは使いこなせなかった理由は,SVと学生共に時間不足,使用方法の理解不十分であった。このことから学生指導がSVの業務を圧迫しているという基本的問題の存在と,ICFツールの使用方法の学生指導,SVへの説明がかなり不足していたことがわかった。これは来年度以降解決すべき大きな課題である。また学生サマリーに対するSVの有効性の認識がかなり低い原因として,学生の症例発表のレジュメとして内容がそぐわないという自由意見が多く,実習指導での使用に対する抵抗感が強かった。しかしICFツールを使用したSVと学生が,その有用性を共通認識し,臨床推論や統合と解釈に役立つと感じていることは,このツールの導入で,SVが学生の理解度を把握することが可能であることを示唆していると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で,今回開発した新しいツールの使用が,SVのニーズである学生の理解度の把握を可能とすることを示唆していることは,今後の臨床教育において意義があると考える。