[O-0723] 2者の対話における共感に関連する要因の検討
Keywords:対話, 共感, 同調
【はじめに,目的】
共感とは,他者の感情の理解を含めて,他者の感情を共有することである(澤田,1998)。先行研究では,医療従事者の共感性や医療従事者から共感されているという患者の認識は,患者の満足度・QOL・抑うつなどに良好な影響を及ぼすことが報告されている(Neumann, et al, 2007)。しかし,医学教育分野において,学生は学年を経るごとに患者への共感能力が低下し,医療の科学的側面のみに関心が向く傾向があると報告されている(Pedersen, 2010)。一方,共感に関連する要因として,理論の上では個人因子・認知的因子などが報告されているが(Davis, 1999),実際の2者の対話場面において共感に関連する要因は明らかではない。これらのことから,幅広い評価指標を用いて,2者の対話における共感に関連する要因を検討することを目的とした。
【方法】
対象は健常若年者2人組を1ペアとし,ペアが同性同士,初対面である23組とした。(平均年齢27.6±3.5歳,女性10組,男性13組)手続きとして,対話前に価値尺度を用いて,個人の考える「最も重要な人生の目標」の1・2番目を選択させ,お互いに1番目の意見が異なる状況を確認した。その後,「最も重要な人生の目標」をテーマに2人で1つの結論を出す問題解決型対話を5分間実施した。実験中は,ビデオカメラを対象者から1.5m側方の位置に設置し,矢状面上の対話の様子を撮影した。評価は,対話前評価として自己の気分を測定するPOMS短縮版,対話中評価として身体動作の同調性(対話中のビデオ動画をMATLAB使用にて解析),対話後評価として,共感の程度を捉える共感的コーピング尺度,対話の結論の程度の内観を問う質問紙(7件法),個人因子評価として,セルフモニタリング尺度を用いた。統計解析は,全対象者の共感的コーピング尺度得点の中央値を基準に,2者共に中央値よりも高いペアと低いペアの14組を対象とした。また,共感的コーピング尺度と各評価項目の関係性についてSpearmanの順位相関係数を算出し,共感的コーピング尺度を目的変数,共感的コーピング尺度と相関のある因子を説明変数とした重回帰分析を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
共感的コーピング尺度に対して,身体動作の同調性に有意な正の相関(ρ=.78,p<.01),対話前POMSに有意な負の相関(ρ=-.41,p<.05),対話の結論の程度に有意な正の相関(ρ=.41,p<.05),セルフモニタリング尺度に有意な正の相関(ρ=.46,p<.05)を認めた。重回帰分析の結果,身体動作の同調性(p<.05),セルフモニタリング尺度(p<.01)において,共感的コーピング尺度に対して有意な影響を及ぼす変数として選択された(R2=.61)。
【考察】
2者の対話における共感には,身体動作の同調性,セルフモニタリング能力が関連することが考えられた。対話以外の相互作用場面において,身体動作の同調性は共感性の伝達やラポールの形成に関与することが報告されている(長岡,2006)。よって,2者の対話時においても,身体動作の同調性は共感に関連する可能性がある。また,他者理解には自己理解が必要であるという先行研究と同様に(山本,2004),2者の対話時における共感にはセルフモニタリング能力(自己の行動を正確に観察できる能力)が必要である可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
根拠に基づいた医療における最良の結果をもたらすための介入の基盤には,患者との対話が必要であり,患者を理解し,患者の感情を共有する共感が重要である。本研究は対話時における共感には,身体動作の同調とセルフモニタリング能力が必要であり,非言語コミュニケーションと自己理解の重要性を示唆する報告である。
共感とは,他者の感情の理解を含めて,他者の感情を共有することである(澤田,1998)。先行研究では,医療従事者の共感性や医療従事者から共感されているという患者の認識は,患者の満足度・QOL・抑うつなどに良好な影響を及ぼすことが報告されている(Neumann, et al, 2007)。しかし,医学教育分野において,学生は学年を経るごとに患者への共感能力が低下し,医療の科学的側面のみに関心が向く傾向があると報告されている(Pedersen, 2010)。一方,共感に関連する要因として,理論の上では個人因子・認知的因子などが報告されているが(Davis, 1999),実際の2者の対話場面において共感に関連する要因は明らかではない。これらのことから,幅広い評価指標を用いて,2者の対話における共感に関連する要因を検討することを目的とした。
【方法】
対象は健常若年者2人組を1ペアとし,ペアが同性同士,初対面である23組とした。(平均年齢27.6±3.5歳,女性10組,男性13組)手続きとして,対話前に価値尺度を用いて,個人の考える「最も重要な人生の目標」の1・2番目を選択させ,お互いに1番目の意見が異なる状況を確認した。その後,「最も重要な人生の目標」をテーマに2人で1つの結論を出す問題解決型対話を5分間実施した。実験中は,ビデオカメラを対象者から1.5m側方の位置に設置し,矢状面上の対話の様子を撮影した。評価は,対話前評価として自己の気分を測定するPOMS短縮版,対話中評価として身体動作の同調性(対話中のビデオ動画をMATLAB使用にて解析),対話後評価として,共感の程度を捉える共感的コーピング尺度,対話の結論の程度の内観を問う質問紙(7件法),個人因子評価として,セルフモニタリング尺度を用いた。統計解析は,全対象者の共感的コーピング尺度得点の中央値を基準に,2者共に中央値よりも高いペアと低いペアの14組を対象とした。また,共感的コーピング尺度と各評価項目の関係性についてSpearmanの順位相関係数を算出し,共感的コーピング尺度を目的変数,共感的コーピング尺度と相関のある因子を説明変数とした重回帰分析を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
共感的コーピング尺度に対して,身体動作の同調性に有意な正の相関(ρ=.78,p<.01),対話前POMSに有意な負の相関(ρ=-.41,p<.05),対話の結論の程度に有意な正の相関(ρ=.41,p<.05),セルフモニタリング尺度に有意な正の相関(ρ=.46,p<.05)を認めた。重回帰分析の結果,身体動作の同調性(p<.05),セルフモニタリング尺度(p<.01)において,共感的コーピング尺度に対して有意な影響を及ぼす変数として選択された(R2=.61)。
【考察】
2者の対話における共感には,身体動作の同調性,セルフモニタリング能力が関連することが考えられた。対話以外の相互作用場面において,身体動作の同調性は共感性の伝達やラポールの形成に関与することが報告されている(長岡,2006)。よって,2者の対話時においても,身体動作の同調性は共感に関連する可能性がある。また,他者理解には自己理解が必要であるという先行研究と同様に(山本,2004),2者の対話時における共感にはセルフモニタリング能力(自己の行動を正確に観察できる能力)が必要である可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
根拠に基づいた医療における最良の結果をもたらすための介入の基盤には,患者との対話が必要であり,患者を理解し,患者の感情を共有する共感が重要である。本研究は対話時における共感には,身体動作の同調とセルフモニタリング能力が必要であり,非言語コミュニケーションと自己理解の重要性を示唆する報告である。