第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述97

運動制御・運動学習6

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM 第7会場 (ホールD5)

座長:笠原敏史(北海道大学大学院保健科学研究院)

[O-0726] 訪問リハビリテーションでの足趾把持筋力とバランス能力との関係について

小島一範1,2 (1.児島中央訪問看護ステーション, 2.川崎医療福祉大学大学院リハビリテーション学専攻)

Keywords:足趾把持筋力, バランス能力, 訪問リハビリテーション

【はじめに,目的】バランス能力と歩行能力とは密接な関係があり,バランス能力が高く歩行能力が高い対象者では,屋外や屋内での転倒も少ないといった報告もある(Graafmansら,1996)。これまでに,大腿部や下腿部といった下肢筋力とバランス能力との関係については研究がなされているが(Buchner, 1996),足趾把持筋力との関係についてはまだ不明な点が多い。また,活動レベルの低い高齢者ほど足部や足趾の運動機能の低下が著明であり転倒との関連性について明らかとなっている(Benvenutiら,1995)。しかし足趾把持筋力のような足趾の運動機能を客観的に評価し,疾患を有する人の姿勢制御や転倒との関連性を示した報告は少ないのが現状である。そこで,本研究では足趾把持筋力とバランス能力との関係性を中枢疾患や整形外科的疾患を有する訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)利用者に対して調べることにより,足趾把持筋力の重要性について検討した。また,訪問リハ前後での足趾把持筋力とバランス能力についても調べ,訪問リハの介入による即時効果についても調べた。
【方法】対象は,ベッド柵や手すりなど支えがなくても立位姿勢が30秒間以上とれる訪問看護ステーションにて訪問リハのサービスを利用している被験者33名とした。足趾把持筋力の評価について,竹井機器工業株式会社製の足指筋力測定器II®を使用し,左右ともに3回測定しその中での最大値を採用した。バランス能力の評価方法については,①開眼での左右片脚立位時間測定,②立位でのリーチ試験Functional Reach Test(FRT),③立位での重心動揺計測,を訪問リハ前後で行った。訪問リハの内容としては,各個人の身体能力や環境により多少の回数の違いや時間の違いがあるものの,基本的にはベッド上背臥位でのキッキングエクササイズ10回やhip-upエクササイズ10回,足部底背屈の抵抗運動10回,四肢の筋のストレッチング,端座位での足部底背屈運動10回,屋内外での歩行練習10分間といった内容を実施した。重心動揺計測については,アニマ株式会社のグラビコーダGP-7®を使用し,30秒間の静的な立位重心動揺を計測し,総軌跡長と外周面積でバランス能力を評価した。統計処理は,足趾把持筋力とバランス能力との関係についてはSpeamanの順位相関係数を使用し,訪問リハ前後での比較については対応のあるt検定を使用し,有意水準を5%未満とした。
【結果】足趾把持筋力と重心動揺計測での総軌跡長,または足趾把持筋力と外周面積との相関係数は訪問リハ前と訪問リハ後ともに優位な相関がみられなかった。足趾把持筋力と片脚立位時間との相関係数は訪問リハ前でr=0.505,訪問リハ後でr=0.600と正の相関(中等度)を示した。また訪問リハ前後での比較については,足趾把持筋力について訪問リハ前で平均5.9±3.8 kgf,訪問リハ後で平均7.0±4.7 kgfとなり有意な増加が認められた(p<0.05)。
【考察】これまでの研究においては,片脚立位時間は歩行能力に密接に関連する因子であり,片脚立位時間が短いと転倒のリスクも高いことが明らかとなっている(蟻川ら,1999)。今回,足趾把持筋力と片脚立位時間との相関係数が中等度の相関を示しており,足趾把持筋力と歩行能力との関係も示唆された。また訪問リハ前後で足趾把持筋力について有意な増加が認められたことから,訪問リハの運動により足趾把持筋が活性化されたことが考えられ,転倒を予防するために歩行前に訪問リハで行ったような運動を行うことが有効であることも示唆された。今後は,タオルギャザー等の足趾把持筋力増強練習を積極的に施行することによる足趾把持筋力増強練習のバランス能力に及ぼす長期的効果を調べていく。
【理学療法学研究としての意義】足趾把持筋力のバランス能力に及ぼす影響を明確化することができ,足趾把持筋力と歩行安定性との関係を示すことができる。また,訪問リハ前後での足趾把持筋力とバランス能力についても調べ,訪問リハの介入による即時効果についても調べることにより,訪問リハの重要性を示す一助となる。