[O-0729] 非線形時系列解析による歩行評価
Keywords:加速度計, 非線形時系列解析, リヤプノフ指数
【はじめに,目的】近年,歩行を分析する手法として,軽量,比較的安価,簡便性の面から小型加速度計が有用と考えられる。小型加速度計を用いた歩行評価の中で,Digwellらは,歩行に係る力学系から動的システムの状態の時間発展をリヤプノフ指数により定量化することにより,歩行の動的安定性を評価する方法を示している。リヤプノフ指数はその値が高いほど動的安定性が低いことを示し,躓きなどの予期せぬ摂動が加わった場合の回復力が低いことを示唆する。しかし,実際にリヤプノフ指数を用いて歩行分析を行った研究は少なく,他の運動機能やADLとの関連を検討した報告は散見するのみである。そこで,本研究の目的は,非線形時系列解析としてリヤプノフ指数を用いてADL尺度,脳血管疾患患者における歩行機能との関連性を明らかにすることとした。
【方法】対象は当院入院中の回復期リハビリテーション対象患者の内,以下の条件を満たした脳血管疾患患者24名(男性18名,女性6名,平均年齢70.0±11.82)とした。対象の選択条件は,1)日常生活内での歩行が監視レベル以上で可能であること,2)測定者の指示について理解可能な者とした。加速度の測定には,歩行解析機器として,ワイヤレス型3軸加速度計(Micro Stone社製)を用いた。歩行中の加速度の測定は,15mの直線を「できるだけ早く歩いてください」と指示を与え歩行してもらった。その際,中間10mの歩行に要する時間,歩数を計測した。得られた垂直方向の体幹加速度波形から,波形が定常状態にある1strideを選択した。加速度信号から,カオス時系列解析システムSunday Chaos Times Windows版1ライセンス(株式会社あいはら)を用いてリヤプノフ指数を算出した。歩行機能は,最大歩行速度(m/sec),歩行率(cadence,steps/min)を算出した。ADLの評価としてBI,バランス能力の評価としてBBSを用い評価した。統計解析にはssps18.0を用い,BI点数満点と非満点群の2群に分け,各方向の平均リヤプノフ指数,各方向最大リヤプノフ指数,最大歩行速度,歩数,歩行率,BBS点数を比較した。また,歩行機能とリヤプノフ指数との関連性は,Pearsonの相関係数によって検討した。統計学的な有意水準は5%未満とした。
【結果】BI満点群と非満点群との比較では,満点群の平均・最大リヤプノフ指数の前後方向が有意に高値を示した。また,非満点群の歩数,平均・最大リヤプノフ指数の垂直方向が有意に高値を示した。歩行機能とリヤプノフ指数との相関関係の検討では,歩数と最大リヤプノフ指数の垂直方向に有意な相関関係を認めた。
【考察】BI満点群と非満点群のリヤプノフ指数と歩行機能の比較では,満点群は平均・最大リヤプノフ指数の前後方向において有意に高値を示した。このことから,非満点群は,進行方向に対し動揺性が低く,推進力が小さいことが推察された。本研究では,最大歩行速度で有意な差は認めていないが満点群の方が高値を示しており,ADL機能が高い方がより推進力が高い歩行であることが考えられる。また,非満点群は,平均・最大リヤプノフ指数の垂直方向において有意に高値を示しており,垂直方向への動揺が大きいことが示唆された。先行研究によると,健常高齢者であれば歩行時の動揺は減少するとされている。山本は,健常者では接地時に低い位置にある体重心が単脚支持期に向かって上昇し,反対側の接地時に再び下降し,片麻痺者では,麻痺側接地後の体重心の上昇が認められず,非麻痺側の接地時には体重心の上昇がみられると報告している。片麻痺者では非麻痺側の接地時に大きな重心移動が起こるため,垂直方向へ動揺が大きい歩行であると考えられる。本研究の対象者は,脳血管疾患患者であり,ADL機能が低いほど,平均・最大リヤプノフ指数の垂直方向において有意に高値を示す結果になったと推察された。歩行機能とリヤプノフ指数との相関を比べた結果では,歩数と最大リヤプノフ指数の垂直方向に有意な相関を認めた。高齢者の歩行動作特性を分析した柳川の報告では,若年者と高齢者の自由歩行を比較し,歩行速度・歩調・鉛直方向の床反力において有意に若年者が高値を示している。このことから,健常者では歩数が多いほど垂直方向の加速度も大きく,本研究の結果からも脳血管患者に関しても同様のことがいえると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】今回の結果から,リヤプノフ指数は,歩行解析として有益であることが示唆された。今後は,性別や麻痺の程度に合わせた検討が必要である。
【方法】対象は当院入院中の回復期リハビリテーション対象患者の内,以下の条件を満たした脳血管疾患患者24名(男性18名,女性6名,平均年齢70.0±11.82)とした。対象の選択条件は,1)日常生活内での歩行が監視レベル以上で可能であること,2)測定者の指示について理解可能な者とした。加速度の測定には,歩行解析機器として,ワイヤレス型3軸加速度計(Micro Stone社製)を用いた。歩行中の加速度の測定は,15mの直線を「できるだけ早く歩いてください」と指示を与え歩行してもらった。その際,中間10mの歩行に要する時間,歩数を計測した。得られた垂直方向の体幹加速度波形から,波形が定常状態にある1strideを選択した。加速度信号から,カオス時系列解析システムSunday Chaos Times Windows版1ライセンス(株式会社あいはら)を用いてリヤプノフ指数を算出した。歩行機能は,最大歩行速度(m/sec),歩行率(cadence,steps/min)を算出した。ADLの評価としてBI,バランス能力の評価としてBBSを用い評価した。統計解析にはssps18.0を用い,BI点数満点と非満点群の2群に分け,各方向の平均リヤプノフ指数,各方向最大リヤプノフ指数,最大歩行速度,歩数,歩行率,BBS点数を比較した。また,歩行機能とリヤプノフ指数との関連性は,Pearsonの相関係数によって検討した。統計学的な有意水準は5%未満とした。
【結果】BI満点群と非満点群との比較では,満点群の平均・最大リヤプノフ指数の前後方向が有意に高値を示した。また,非満点群の歩数,平均・最大リヤプノフ指数の垂直方向が有意に高値を示した。歩行機能とリヤプノフ指数との相関関係の検討では,歩数と最大リヤプノフ指数の垂直方向に有意な相関関係を認めた。
【考察】BI満点群と非満点群のリヤプノフ指数と歩行機能の比較では,満点群は平均・最大リヤプノフ指数の前後方向において有意に高値を示した。このことから,非満点群は,進行方向に対し動揺性が低く,推進力が小さいことが推察された。本研究では,最大歩行速度で有意な差は認めていないが満点群の方が高値を示しており,ADL機能が高い方がより推進力が高い歩行であることが考えられる。また,非満点群は,平均・最大リヤプノフ指数の垂直方向において有意に高値を示しており,垂直方向への動揺が大きいことが示唆された。先行研究によると,健常高齢者であれば歩行時の動揺は減少するとされている。山本は,健常者では接地時に低い位置にある体重心が単脚支持期に向かって上昇し,反対側の接地時に再び下降し,片麻痺者では,麻痺側接地後の体重心の上昇が認められず,非麻痺側の接地時には体重心の上昇がみられると報告している。片麻痺者では非麻痺側の接地時に大きな重心移動が起こるため,垂直方向へ動揺が大きい歩行であると考えられる。本研究の対象者は,脳血管疾患患者であり,ADL機能が低いほど,平均・最大リヤプノフ指数の垂直方向において有意に高値を示す結果になったと推察された。歩行機能とリヤプノフ指数との相関を比べた結果では,歩数と最大リヤプノフ指数の垂直方向に有意な相関を認めた。高齢者の歩行動作特性を分析した柳川の報告では,若年者と高齢者の自由歩行を比較し,歩行速度・歩調・鉛直方向の床反力において有意に若年者が高値を示している。このことから,健常者では歩数が多いほど垂直方向の加速度も大きく,本研究の結果からも脳血管患者に関しても同様のことがいえると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】今回の結果から,リヤプノフ指数は,歩行解析として有益であることが示唆された。今後は,性別や麻痺の程度に合わせた検討が必要である。