第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述98

地域理学療法8

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:山田実(筑波大学大学院人間総合科学研究科)

[O-0735] 地域高齢者における思考特性と転倒および転倒恐怖感との関係

木根稚菜, 林拓人 (畿央大学健康科学部理学療法学科)

Keywords:地域在住高齢者, 転倒恐怖感, 思考特性

【はじめに,目的】
転倒後症候群(post-fall syndrome)は高齢者の閉じこもりの原因となり,これによる身体機能低下がさらに転倒リスクを高めるという悪循環をもたらす。しかし,転倒がもたらす心理的影響は個人によって異なることが予測され,転倒者全員が転倒後症候群になるわけではない。ポジティブ思考やネガティブ思考といった個人の思考特性は健康関連指標と関連すると報告されているが,これらが転倒リスクおよび転倒恐怖感と関連するかは十分に調査されていない。本研究の目的は,地域高齢者の思考特性と転倒および転倒恐怖感との関係を明らかにし,転倒後症候群に陥るリスクの高い者を判別するための一助とすることである。
【方法】
対象は,一次予防教室に参加した地域高齢者121名(男性28名,女性93名,平均年齢76歳)である。対象者に対し,過去3ヶ月における転倒歴の有無,転倒恐怖感,思考特性についてアンケート調査を実施した。転倒恐怖感の評価にはVisual Analogue Scale(VAS)を用い,思考特性の評価には,日本語版PANASを一部改変した独自の調査票を作成し,予備研究にて併存的妥当性を確認した上で使用した。思考特性に関する質問項目は,「はい」と回答すればポジティブ思考と判定する設問と,ネガティブ思考と判定する設問で構成され,各5項目の計10項目である。アンケートの結果から対象者を転倒歴の有無,転倒恐怖感の有無(VAS 4.9cm以上を有りと判定),思考特性(ポジティブ思考とネガティブ思考)をそれぞれ2群に分類した。思考特性は,ポジティブまたはネガティブ要素の回答数が6項目以上該当しているかに基づいて分類した。尚,両者の該当数が等しい人は中性とし,分析から除外した。統計解析はχ二乗検定を用いて実施した。有意水準は5%未満とし,10%未満は傾向ありとした。
【結果】
転倒恐怖感を有する者の中で,実際に転倒経験のある者は11%のみであった。転倒恐怖感と思考特性の関係では,ポジティブ思考群では恐怖感を有する者の割合が51%であるのに対し,ネガティブ思考群では78%が転倒恐怖感を有していたが,統計学的な差には至らなかった。一方,実際の転倒経験者はポジティブ思考を有する割合が非転倒者よりも多い傾向が認められ(ポジティブ思考者:87.5%,ネガティブ思考者:83.3%),思考特性別での転倒発生率もポジティブ思考群がネガティブ思考群に比較して多い傾向を示した(ポジティブ思考群:14.9%,ネガティブ思考群:11.1%)。
【考察】
一般的に,ポジティブ思考の人は物事を肯定的に捉える特徴があるといわれており,本研究でもポジティブ思考群のほうが,転倒恐怖感が低い結果となった。このことから,転倒恐怖感の形成には個人の思考特性が影響している可能性が示唆された。一方,ポジティブ思考群に転倒発生率が高い傾向が認められたことは,転倒恐怖感の低さが注意の欠如につながる可能性が考えられ,転倒恐怖感を有することが,必ずしも転倒リスクを関連する訳ではない事を示していると考えられる。これとは逆に,ある程度の転倒恐怖感の保持は,慎重な行動をとる者とも解釈されるため,日常的に転倒を回避しやすい可能性もある。しかし,これらと活動性低下との関係については明らかではなく,「過剰な恐怖感」を有する者などその強度と転倒後症候群発生の関連性などを調査していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
転倒は,寝たきりの要因の上位であり,2015年には65歳以上の人口が26.8%に達することから介護予防の重要性が叫ばれている。従来,転倒予防において,身体機能や認知機能の低下などが重要視がちであるが,思考特性にも着目することで,転倒予防における新たな手段の確立につながるのではないか。そこで,本研究で思考特性と転倒の関係性を明らかにすることにより,思考特性を考慮した指導プログラムの作成に役立てる。