第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述100

膝関節

2015年6月7日(日) 10:50 〜 11:50 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:松本正知(桑名西医療センター 整形外科 リハビリテーション室)

[O-0747] 大腿骨前脂肪体と膝蓋下脂肪体の角度特性による柔軟性評価

―Shear Wave Elastographyを用いた高齢健常者群と変形性膝関節症患者群との比較―

久須美雄矢1, 水島健太郎1, 水池千尋1, 三宅崇史1, 稲葉将史1, 石原康成1, 堀江翔太1, 立原久義2, 山本昌樹1 (1.大久保病院明石スポーツ整形・関節外科センターリハビリテーション科, 2.大久保病院明石スポーツ整形・関節外科センター整形外科)

キーワード:大腿骨前脂肪体, 膝蓋下脂肪体, Shear Wave Elastography

【はじめに,目的】膝関節拘縮(拘縮)の原因は様々であるが,膝関節周囲の脂肪体硬化も発生要因の一つである。日常臨床において変形性膝関節症(OA)の大腿骨前脂肪体(PFP)や膝蓋下脂肪体(IFP)の柔軟性の改善に伴い,関節可動域(ROM)が改善することを経験する。しかしながらこれまでにPFPとIFPの動態,PFPおよびIFPとROMとの関連性についての詳細な報告はない。本研究の目的は,超音波エコー(US)を用いて高齢健常者群(N群)とOA群における,PFPおよびIFPの角度変化による柔軟性を評価し,比較検討することである。またOA群において,PFPおよびIFPの柔軟性と膝ROMとの相関を検討した。

【方法】対象はN群15例22膝(男性5人,女性10人,平均年齢73.1±4.0歳),OA群11例15膝(男性2人,女性9人,平均年齢75.7±5.1歳)とした。抽出条件は,N群が膝関節に明らかな整形外科的疾患の既往がなく,ROM制限および疼痛がない者とし,OA群は医師にOAと診断された者とした。方法は,測定肢位を背臥位とし,US(ACUSON S3000,SIEMENS社製)のShear Wave Elastographyを用いてPFPとIFPの組織弾性を測定した。PFPの測定は,大腿遠位部の長軸走査にてPFPを同定し,大腿直筋筋腱移行部と膝蓋骨上縁を結ぶ中点において短軸走査に変更した上で,PFPの組織弾性を測定した。測定角度は,膝関節伸展位(伸展位)と90度屈曲位(屈曲90)の組織弾性を各3回測定し,その平均値を算出した。IFPの測定は,膝蓋骨底と膝蓋靭帯および脛骨粗面を描出した長軸走査にてIFPを同定し,IFPの組織弾性を測定した。測定角度は伸展位と120度屈曲位(屈曲120)の組織弾性を各3回測定し,その平均値を算出した。膝伸展筋力はmicroFET2(日本メディックス社製)を用い,膝90°屈曲位で5秒間の最大等尺性収縮を2回行い,平均値の体重比(kgf/kg)を算出した。算出したPFPおよびIFP柔軟性を群間で比較し,また,OA群におけるPFPおよびIFP柔軟性と膝ROM,膝伸展筋力との相関を求めた。統計処理は,N群とOA群とのPFPおよびIFP柔軟性の比較にはWelch’s t test,Mann-Whitney’s U testを用い,PFPおよびIFP柔軟性と膝ROMとの相関にはPearsonの相関係数を用いて,有意水準を5%未満とした。

【結果】N群のPFPの伸展位が2.5±0.3m/s,屈曲90が2.2±0.6m/s,IFPの伸展位が2.2±0.4m/s,屈曲120が1.6±0.5m/sであった。OA群のPFPの伸展位が2.5±0.5m/s,屈曲90が2.6±0.9m/s,IFPの伸展位が2.2±0.4m/s,屈曲120が2.9±1.6m/sであった。N群に比べOA群は,屈曲120(p<0.03)のみ有意にIFP柔軟性が低下していた。OA群において,屈曲120のIFP柔軟性と膝屈曲ROMとの間で負の相関が認められ(r=-0.61,p<0.05),屈曲120のIFP柔軟性と膝伸展ROMとの間で負の相関が認められた(r=-0.65,p<0.05)。膝伸展筋力とPFPおよびIFP柔軟性は,相関を認めなかった。

【考察】今回の結果よりOA群はN群に比べて屈曲120においてIFP柔軟性が有意に低下しており,IFP柔軟性と膝屈曲および伸展ROMに負の相関が認められた。林は,IFPが機能的に変化しながら,関節内の適合性の向上や内圧調整に関与すると述べている。OA群において関節の変形や膝関節周囲組織の硬さは,IFPの機能的変形を阻害し,IFPの内圧上昇やインピンジメントなどによる疼痛やROM制限を生じるものと推察された。これよりOAの膝屈曲および伸展拘縮の一要因としてIFPの柔軟性低下が関与しており,柔軟性改善が膝ROMの改善につながる可能性が示唆された。今後は治療前後の膝屈曲および伸展角度の変化に合わせてIFPの柔軟性を測定し,柔軟性の改善が治療に与える影響について客観的に検証する予定である。

【理学療法学研究としての意義】証拠に基づく理学療法を行うためには,客観性の高い評価が必要である。超音波エコーを用いた組織弾性の客観的評価が,変形性膝関節症における拘縮の病態理解や治療の発展にも寄与すると考える。