第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述101

スポーツ・エクササイズ

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:尾崎勝博(野崎東病院 アスレティックリハビリテーションセンター リハビリテーション部), 相澤純也(東京医科歯科大学医学部附属病院 スポーツ医学診療センター)

[O-0751] ハムストリングスの柔軟性に対するダイナミック・ストレッチングの急性効果

山本彩乃1, 松尾真吾1, 宮崎学2, 深谷泰山3, 土田和可子1,2, 鈴木重行2,3, 岩田全広1,2 (1.日本福祉大学健康科学部, 2.名古屋大学大学院医学系研究科, 3.名古屋大学医学部保健学科)

Keywords:ダイナミック・ストレッチング, ハムストリングス, 柔軟性

【はじめに,目的】
ダイナミック・ストレッチング(dynamic stretching:以下,DST)は,目的とする筋群の拮抗筋群を意識的に収縮させ,関節の屈伸や回旋などを行うことで筋や腱を伸張する方法(山口太一・他:CREATIVE STRETCHING,2007.)であり,その効果は,プロサッカー選手,女性アスリート,さらには健常者などを対象として,スプリントタイムの短縮,筋パワーの増加,あるいは筋電図振幅の増加などが報告されている。これらの報告を根拠に,瞬発的なパフォーマンス発揮が必要とされる運動前のウォーミングアップとしてはDSTの利用が推奨されており,事実,スポーツ現場ではウォーミングアップにおけるDSTの利用が促進してきている(Duehring MD, et al.:J Strength Cond Res, 2009.)。他方,柔軟性に対するDSTの効果については,DSTが関節可動域(range of motion:以下,ROM)に与える急性効果を検討した報告は散見されるものの,stiffnessや最大動的トルクといったROM以外の柔軟性の評価指標を用いて検討した報告はほとんどなく,さらに,各評価指標を同時に測定し,比較・検討した報告は見当たらない。本研究の目的は,DSTが柔軟性の各評価指標に与える急性効果を明らかにすることである。
【方法】
対象は,下肢に整形外科的および神経学的疾患を有しない,健常学生12名(男性6名,女性6名,平均年齢21.8±0.8歳)とし,対象筋は右ハムストリングスとした。すべての被験者は,股関節および膝関節をそれぞれ約110°屈曲した座位姿勢(以下,測定開始肢位)をとり,等速性運動機器Primus RS(BTE社製)を用いてDST実施前・後における柔軟性の変化を評価した。ハムストリングスに対するDSTは,両手で平行棒を把持した立位姿勢から,膝関節伸展位で股関節を最大屈曲させた後に元の立位姿勢に戻すまでの自動運動を,2秒/回の頻度で行った。DSTの回数は15回×1セットとし,計10セット(150回)実施した。柔軟性の評価指標は,stiffness,最大動的トルク,ROMの3種類とした。Stiffness,最大動的トルク,ROMは,測定開始肢位から膝関節最大伸展角度(大腿後面に痛みの出る直前)まで5°/秒の角速度で他動的に伸展させた際のトルク-角度曲線より求めた。StiffnessはDST実施前の膝関節最大伸展角度からその50%の角度間の回帰直線の傾きと定義し,最大動的トルクおよびROMはそれぞれ膝関節最大伸展角度における値とした。実験はまず各評価指標を測定し,DSTを行い,再び各評価指標を測定した。統計処理はWilcoxonの符号付順位和検定を用い,DST実施前・後の比較を行った。有意水準は危険率5%未満とした。
【結果】
ROMはDST実施前・後で83.2±9.6°が92.7±8.7°となり,有意に高値を示した。StiffnessはDST実施前・後で0.42±0.11 Nm/degが0.38±0.10 Nm/degとなり,有意に低値を示した。最大動的トルクはDST実施前・後で30.5±7.4 Nmが34.5±9.0 Nmとなり,有意に高値を示した。
【考察】
本研究結果から,DSTによるROMの増加に伴ってstiffnessは低下し,最大動的トルクは増加することが明らかとなった。Stiffnessは先行研究より,筋腱複合体の粘弾性を反映すると考えられ,stress relaxationなど筋腱複合体の力学的特性の変化と関連することが示唆されている(McHugh MP, et al.:Med Sci Sports Exerc, 1992., Magnusson SP, et al.:Scand J Med Sci Sports, 1995.)。また,最大動的トルクは先行研究より,痛みを誘発するのに必要な伸張量であり,その値は伸張刺激に対する痛み閾値を反映する指標として用いられている(Magnusson SP, et al.:J Physiol,1996., Mizuno T, et al.:Scand J Med Sci Sports, 2013.)。したがって,DST実施後にROMが増加した要因は,stiffnessの低下,すなわち筋腱複合体の力学的特性の変化と,最大動的トルクの増加,すなわち痛み閾値の上昇の両者によってもたらされたものと推察される。
【理学療法学研究としての意義】
柔軟性に対するDST効果に関する基礎的データの蓄積は,より有効なDSTの実践と適用の拡大をする上で必須であり,evidence-basedな運動処方の確立に向けた一助になるものと考える。