[O-0753] パフォーマンス・動作効率化に影響を及ぼす跳躍動作の要素
主観的努力度の差異より
Keywords:跳躍, 動作解析, 効率化
【はじめに】
目的とする動作に必要とされる出力を主観的に判断し,その調節を行うこと(主観的努力度)は様々な動作において,パフォーマンスに影響を及ぼす。跳躍動作は競技スポーツにおいて頻用され,高い跳躍やムリ・ムダ・ムラのない効率的な跳躍は重要である。また身体重心の軌跡は動作効率化の指標となる。臨床において,上半身重心と下半身重心に分類し,動作効率化について解釈することは有効である。本研究は,主観的努力度を調整した垂直跳躍が,パフォーマンスや動作効率化に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健常男性9名(年齢24.3±2.3歳,身長167.4±3.5cm,体重62.1±5.1kg)とした。使用機器はVICON MX-3(カメラ10台,100Hz)と床反力計OR6-7(AMTI 1000Hz,2枚)とした。マーカセットは15体節の剛体リンクモデルを用い,35点に貼付した。運動課題は,自然立位から上肢の反動を用いた垂直跳躍とした。主観的努力度は90%と100%の2条件に設定した。
跳躍高は最高到達点のCenter Of Gravity(COG)のZ成分と離地時のCOGのZ成分の差から算出した。自然立位から離地までの股・膝・足関節の仕事量を関節モーメント値に関節運動の角速度を乗じ,そのパワーを計算し,さらにその値を時間積分した。また体節の質量比が付与されたモデルを用い,頭部,上腕,前腕,手部,体幹,骨盤の合成重心をCenter Of Gravity Upper(COGU),大腿,下腿,足部の合成重心をCenter Of Gravity Lower(COGL),全身の合成重心をCOGとして算出した。動作時における鉛直方向に対しての各合成重心の前後左右方向の変位量を,X成分Y成分の変位で表される単位時間あたりの長方形の面積として算出し,垂直跳躍における動作効率化の指標として採用した。
なお,自然立位から身体重心が最下点に至る過程を下降相,身体重心が最下点に達してから離地に至る過程を上昇相とした。
跳躍高,股・膝・足関節の仕事量,各合成重心の前後左右方向の変位量を,条件間で比較した。また各条件で跳躍高,各関節の仕事量,各合成重心の前後左右方向の変位量の相関を求めた。
対象者には,実験後に主観的努力度に関してアンケートを行った。
【結果】
跳躍高は,90%にて397.8±72.9mm,100%にて420.9±64.7mmと条件間に有意差は認められなかった。また各関節の仕事量,各合成重心の変位量は,条件間に有意差は認められなかった。
90%では,跳躍高と上昇相における膝関節仕事量との間に正の相関が認められた(r=0.61)。また下降相における膝・股関節の仕事量と,上昇相におけるCOGとCOGUの変位量との間にそれぞれ正の相関が認められた(r=0.76,r=0.78)。更に下降相,上昇相ともにCOGとCOGUの変位量との間に,高い正の相関が認められた(下降相:r=0.98,上昇相:r=0.98)。
100%では,跳躍高と上昇相における足・股関節の仕事量との間にそれぞれ正の相関が認められた(r=0.74,r=0.62)。また下降相,上昇相ともにCOGとCOGLの変位量との間に,正の相関が認められた(下降相:r=0.65,上昇相:r=0.80)
アンケート結果より,9名中7名が90%において,力を抜く部位を「股関節」と回答し,残り2名は「上肢」と回答した。
【考察】
跳躍動作において,下肢三関節は協調してパワーを発揮する駆動機構として,上肢・体幹は姿勢の調整や主動関節の補助機構として役割を有している。駆動機構を抑制することは,上肢・体幹に対して代償を招くことにつながる。本研究から,意識下での運動強度の抑制が,動作時に上肢・体幹に動揺をもたらせた。また股関節の働きを調整したという内省からも股関節機能を上半身で代償したことが示唆された。
さらに身体重心は90%では上半身重心に,100%では下半身重心に影響を受けた。以上のことから,同一動作において対象者の努力度の設定は動作様式の変容を招くことが示された。またこれまで身体重心の位置関係から動作様式を検討する方法が用いられた中で,身体を上半身,下半身に分割し,各重心の位置関係を捉えることの有用性が示された。
【理学療法学研究としての意義】
スポーツ動作においてパフォーマンスを的確に発揮する上で,主観的努力度が用いられる場合があるが,努力度の違いにより運動様式が異なる可能性を有した。このことは動作指導をする上で,単に努力度の設定だけではなく,内的イメージも組み合わせていく必要があると考える。また,跳躍動作においても,身体重心の位置関係のみならず,身体を上半身と下半身に分割し,動作を捉える必要性があると考える。
目的とする動作に必要とされる出力を主観的に判断し,その調節を行うこと(主観的努力度)は様々な動作において,パフォーマンスに影響を及ぼす。跳躍動作は競技スポーツにおいて頻用され,高い跳躍やムリ・ムダ・ムラのない効率的な跳躍は重要である。また身体重心の軌跡は動作効率化の指標となる。臨床において,上半身重心と下半身重心に分類し,動作効率化について解釈することは有効である。本研究は,主観的努力度を調整した垂直跳躍が,パフォーマンスや動作効率化に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健常男性9名(年齢24.3±2.3歳,身長167.4±3.5cm,体重62.1±5.1kg)とした。使用機器はVICON MX-3(カメラ10台,100Hz)と床反力計OR6-7(AMTI 1000Hz,2枚)とした。マーカセットは15体節の剛体リンクモデルを用い,35点に貼付した。運動課題は,自然立位から上肢の反動を用いた垂直跳躍とした。主観的努力度は90%と100%の2条件に設定した。
跳躍高は最高到達点のCenter Of Gravity(COG)のZ成分と離地時のCOGのZ成分の差から算出した。自然立位から離地までの股・膝・足関節の仕事量を関節モーメント値に関節運動の角速度を乗じ,そのパワーを計算し,さらにその値を時間積分した。また体節の質量比が付与されたモデルを用い,頭部,上腕,前腕,手部,体幹,骨盤の合成重心をCenter Of Gravity Upper(COGU),大腿,下腿,足部の合成重心をCenter Of Gravity Lower(COGL),全身の合成重心をCOGとして算出した。動作時における鉛直方向に対しての各合成重心の前後左右方向の変位量を,X成分Y成分の変位で表される単位時間あたりの長方形の面積として算出し,垂直跳躍における動作効率化の指標として採用した。
なお,自然立位から身体重心が最下点に至る過程を下降相,身体重心が最下点に達してから離地に至る過程を上昇相とした。
跳躍高,股・膝・足関節の仕事量,各合成重心の前後左右方向の変位量を,条件間で比較した。また各条件で跳躍高,各関節の仕事量,各合成重心の前後左右方向の変位量の相関を求めた。
対象者には,実験後に主観的努力度に関してアンケートを行った。
【結果】
跳躍高は,90%にて397.8±72.9mm,100%にて420.9±64.7mmと条件間に有意差は認められなかった。また各関節の仕事量,各合成重心の変位量は,条件間に有意差は認められなかった。
90%では,跳躍高と上昇相における膝関節仕事量との間に正の相関が認められた(r=0.61)。また下降相における膝・股関節の仕事量と,上昇相におけるCOGとCOGUの変位量との間にそれぞれ正の相関が認められた(r=0.76,r=0.78)。更に下降相,上昇相ともにCOGとCOGUの変位量との間に,高い正の相関が認められた(下降相:r=0.98,上昇相:r=0.98)。
100%では,跳躍高と上昇相における足・股関節の仕事量との間にそれぞれ正の相関が認められた(r=0.74,r=0.62)。また下降相,上昇相ともにCOGとCOGLの変位量との間に,正の相関が認められた(下降相:r=0.65,上昇相:r=0.80)
アンケート結果より,9名中7名が90%において,力を抜く部位を「股関節」と回答し,残り2名は「上肢」と回答した。
【考察】
跳躍動作において,下肢三関節は協調してパワーを発揮する駆動機構として,上肢・体幹は姿勢の調整や主動関節の補助機構として役割を有している。駆動機構を抑制することは,上肢・体幹に対して代償を招くことにつながる。本研究から,意識下での運動強度の抑制が,動作時に上肢・体幹に動揺をもたらせた。また股関節の働きを調整したという内省からも股関節機能を上半身で代償したことが示唆された。
さらに身体重心は90%では上半身重心に,100%では下半身重心に影響を受けた。以上のことから,同一動作において対象者の努力度の設定は動作様式の変容を招くことが示された。またこれまで身体重心の位置関係から動作様式を検討する方法が用いられた中で,身体を上半身,下半身に分割し,各重心の位置関係を捉えることの有用性が示された。
【理学療法学研究としての意義】
スポーツ動作においてパフォーマンスを的確に発揮する上で,主観的努力度が用いられる場合があるが,努力度の違いにより運動様式が異なる可能性を有した。このことは動作指導をする上で,単に努力度の設定だけではなく,内的イメージも組み合わせていく必要があると考える。また,跳躍動作においても,身体重心の位置関係のみならず,身体を上半身と下半身に分割し,動作を捉える必要性があると考える。