第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述102

脊髄損傷理学療法

2015年6月7日(日) 10:50 〜 11:50 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:信太奈美(首都大学東京健康福祉学部理学療法学科)

[O-0757] 外骨格系歩行アシスト装置(ReWalkTM)の使用にて歩行が可能となった第7胸髄完全損傷症例

緒方友登1, 久原聡志1, 明日徹1, 舌間秀雄1, 和田太2 (1.産業医科大学病院リハビリテーション部, 2.産業医科大学リハビリテーション医学講座)

キーワード:外骨格系歩行アシスト装置, 脊髄損傷, 歩行獲得

【はじめに,目的】脊髄損傷(Spinal Cord Injury:SCI)は主に外傷によって生じ,麻痺,呼吸障害,排尿排便障害,性機能不全,痙性亢進,痛みなどの後遺症が残存する。SCI患者のリハビリテーション(以下リハ)は,残存機能強化による車いす使用でのADL自立が第一目標となるが,昨今はSCI患者のリハに装具を使用して歩行練習を行う報告が散見されている。我々の病院では外骨格型歩行アシスト装置ReWalkTM(以下RW)を臨床導入している。今回,第7胸髄完全損傷による完全対麻痺患者対し,本邦で初めてRWで歩行可能となった事例を経験したので報告する。
【方法】RWは,両下肢に装着する立位支持装置に,コントローラとバッテリが内蔵されたリュックサックを接続して使用する外骨格型歩行アシスト装置である。RWは装置自体の立位保持機能がないため,ロフストランド杖を両上肢で使用してバランスを取る必要がある。RWは装着者の重心移動を検出して歩行を行うため,完全対麻痺患者でも歩行が可能である。骨盤部には加速度計が設置されており,上体傾斜角度を検知する。また,股関節と膝関節に内蔵されている運動モータは重心移動を検知して歩行動作を行う。RWには歩行動作に加え,起立,座位,段差昇降の動作が可能である。各動作は時計型のスイッチにてコントローラと無線接続し,動作を始動する。症例は20歳代の男性。10年前に交通事故にて第7胸椎骨折を受傷,現在は車いす生活にてADL自立している傍ら,車いすバスケットボール選手としても活躍している。American Spinal Injury Association Impairment ScaleはA,第7胸髄レベル以下は完全運動麻痺,完全感覚脱失を認める。理学療法評価では,関節可動域検査(以下ROM-T)にて両側膝関節伸展-5度,両側足関節背屈-10度(膝関節伸展位),筋緊張はModified Ashworth scale(以下MAS)にて足関節底屈筋群両側2,筋力は徒手筋力検査にて上肢は5レベル,腹直筋は2レベルであった。排尿は常時カテーテル留置にて対応しており,褥瘡はなかった。RW練習は,開発元が定めている20時間の基礎コースである,RW装着での立位バランス練習,理学療法士が後方から接触介助を行う歩行練習,近接監視での歩行練習で構成され,1~3回/週の外来で12週間介入した。下肢痙縮に対しては毎回の練習開始前に抗痙縮薬の内服と,集中的な下肢のストレッチを実施した。基礎コース完了時の目標である短距離歩行自立を目指し,歩行効率の評価としてRW歩行時の呼気ガス分析も実施した。
【結果】本症例は,20時間のRW練習にて皮膚トラブルや装置故障,また転倒等の事故無しに終えた。歩行能力としては,RW練習約10時間にて接触介助による歩行が約10m可能となった。20時間実施後には近接監視による歩行が可能となり,10m歩行時間は37秒,6分間歩行は57mとなった。また,ROM-Tでは,両側膝関節伸展は-5度から0度,両側足関節背屈(膝伸展位)は-10度から0度へ改善した。MASは両側足底屈筋群がMAS 2から+1へ改善が認められた。RW練習10時間実施後と,20時間実施後の歩行時の呼気ガス分析による酸素コストは,前者1.15 ml/kg/mに対し,後者0.87 ml/kg/mと低値を示した。
【考察】本症例はRW練習20時間実施により,近接監視での短距離歩行が可能となった。先行研究によると,第7胸髄から第9胸髄は高位SCIレベルと見なされる。高位SCI患者のRW練習20時間実施後の10m歩行時間の平均は85.7±14.7秒,6分間歩行距離の平均は22.7±7mと報告されている。本症例は高位SCIレベルでありながらも,残存機能が非常に高いことより,RW操作に重要となる重心移動の習熟が早く,先行研究より歩行速度が速く,かつ歩行距離の延長ができたと考えられる。また,練習量依存の学習効果が現れ,RW練習10時間と20時間との比較では酸素コストが軽減し歩行効率の向上が認められた。しかし,本症例の車いす駆動時の酸素コストは0.10 ml/kg/mであり,移動面での実用使用には課題が残る。RWは20時間の練習期間,安全に使用可能であった。しかし,尿カテーテルが圧迫されやすい事が問題点としてあがった。
【理学療法学研究としての意義】SCIは歩行獲得が困難な疾患であるが,RW歩行での移動が可能となれば,QOLの向上が期待できる。また,RWの使用を通じて長時間の立位保持が継続的に実施できれば,骨粗鬆症や褥瘡の予防,また,関節拘縮や,排尿排泄障害の改善などにも効果的であると考えられる。よって,RWはSCI患者が再び歩行での移動が可能となる装置であり,また,二次的合併症の予防・改善も効果的な事から,使用者のQOLの向上が期待でき,臨床的意義は充分にあるといえる。