第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述102

脊髄損傷理学療法

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:信太奈美(首都大学東京健康福祉学部理学療法学科)

[O-0758] 脊髄損傷後の疼痛によるself-efficacyおよび心理的要因への影響

佐藤剛介1,2, 田中陽一1,2, 大住倫弘3, 森岡周3 (1.畿央大学大学院健康科学研究科, 2.奈良県総合リハビリテーションセンターリハビリテーション科, 3.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター)

Keywords:脊髄損傷, 疼痛, self-efficacy

【はじめに】脊髄損傷(SCI)後の疼痛は,約80%の有訴率であることが知られている(Siddall 2003)。Craigら(2013)は,SCI者における疼痛強度は抑うつ気分と正の相関関係にあり,self-efficacy(SE)が両者の関係を媒介する心理モデルを提唱している。加えて,Middletonら(2007)は,高いSEを有するSCI者は,QOLが高いことを報告しており,SEが疼痛と関係しQOLに影響を与えていることが明らかにされている。そのため,SCI後の疼痛を管理する上ではSEを含めた心理的要因との関係を調べることは重要であると考えられるが,疼痛の有無によるSEの違いを検討した研究は少ない。そこで本研究では,SCI者における疼痛の有無によるSEおよび心理的要因への影響を検討することを目的とする。
【方法】対象は6ヶ月を経過した慢性期SCI者21名(平均年齢(SD):48.1(13.7)歳,性別:男性19名,女性2名)であった。対象者の基本項目として残存機能レベル・損傷タイプ・年齢・罹患期間,日常生活動作としてSpinal cord independence measure(SCIM)を用いて調べた。疼痛評価は,疼痛の有無・部位・強度・原因を評価した。疼痛強度はNumerical rating scale(NRS)を使用し,疼痛原因は国際疼痛学会のSCI後疼痛の分類を使用して評価した。心理的評価には抑うつの程度をBeck depression inventory II(BDIII),疲労をChalder fatigue scale(CFS),SEをMoorong self-efficacy scale(MSES),破局化をPain catastrophizing scale(PCS)を使用して実施した。データの収集は,対象者に評価表を配布し,後日記入されたものを回収した。データ分析は,最初に疼痛の有無を調べて割合を求め,疼痛の有無により疼痛グループ(以下PG)と非疼痛グループ(以下NPG)に分類した。次にグループ間の比較では,対象者の年齢・罹患期間・SCIMおよび心理的評価の比較を行った。そして,PGでの各評価項目間の相関関係を調べた。統計学的解析には,グループ間の比較にMann-WhitneyのU検定を使用し,相関関係はSpearmanの順位相関係数を求めた。なお,すべての検定の有意水準は5%とした。
【結果】疼痛が認められたのは,14名で66.7%であった。各グループの内訳は,残存機能レベルがPGではC5:5名,C6:2名,C7:3名,Th12:2名,L1:1名,L3:1名であり,NPGではC4:1名,C5:2名,C6:1名,C7:3名であった。損傷タイプは,PGの完全損傷/不全損傷は6/8名,NPGでは3/4名であった。疼痛原因の分類では筋骨格系が1名,神経障害性が14名であり1名で重複した。疼痛評価では,PGのNRS(平均(SD)が4.8(2.2)であった。年齢(中央値(四分位範囲))はPGで53.5(47.3-59.0)歳,NPGで44.0(32.5-48.5)歳であった。罹患期間は,PGが23.0(14.0-84.3)ヵ月,NPGは72.0(43-84.3)ヵ月であった。SCIMはPGが63.0(41.0-77.3),NPGが58.0(42.0-72.0)であった。心理的評価のBDIIIは13.0(12.0-17.8),NPGが7.0(6.5-10.0)であった。CFSの身体的/精神的スコアは,PGが17.0(9.0-18.0)/9.0(2.5-8.5),NPGが13.0(10.5-13.5)/3.0(2.0-7.5)であった。MSESは,62.0(51.3-77.0),NPGが75.0(67.0-87.5)であった。PCSは22.0(20.0-30.0),NPGが14.0(7.5-17.0)であった。各グループ間の年齢・罹患期間・SCIMの比較では,いずれも有意差が認められなかった。心理的評価の比較では,BDIIIとPCSで有意にPGが高い値であったのに対してMSESではPGが有意に低い値であった。CFSの比較では有意差が認められなかった。PGでの各変数間の相関では,NRSが年齢とPCSと有意な正の相関関係を示した。PCSは年齢とNRSと有意な正の相関関係であったのに対して,MSESとは負の相関関係を示した。
【考察】本研究の対象者では66.7%で疼痛が認められ,約67%~81%の有訴率である先行研究(Finnerup 2001, Siddall 2003)を肯定する結果であった。損傷タイプ・疼痛原因は不全損傷・神経障害性疼痛が多く,いずれも先行研究と同様の傾向を示した(Finnerup 2013)。グループ間の比較ではPGでBDIIIとPCSが有意に高く,抑うつ傾向であるともに疼痛への破局化が増加していることが示された。PCS・NRS・年齢は,各変数間で有意な正の相関関係を示し,相互関係にあることが明らかにされた。加えて,MSESはPGで有意に低下し,PCSと負の相関関係であったことから疼痛による破局的思考と関係してself-efficacyが低下していることが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】SCI後の疼痛による心理的側面への影響を調べることは疼痛を管理していく上で重要であり,本研究の結果は疼痛の緩和に向けた介入の基礎情報となる。