[O-0759] 疼痛が遺残した術後頚髄症者の健康関連quality of lifeおよび生活範囲と関連する術前因子
Keywords:頚髄症, 健康関連QOL, 生活範囲
【はじめに,目的】頚髄症者の多くが有するしびれを含む広義の疼痛は手術でも消失させることは難しいとされるため,理学療法士は術後頚髄症者が遺残した疼痛を適切に自己管理しながら,豊かで活動度の高い生活を送ることができるように働きかけを行っていくことが求められる。それを効果的なものとするには,術後に低い健康関連quality of life(HRQOL)や狭い活動範囲となるリスクのある人を早期に発見することが必要である。また,慢性疼痛を有する人においては,精神的健康感は疼痛強度だけではなく,疼痛への対処方略とも関連することが報告されている。以上より,本研究の目的を,術後頚髄症者のHRQOLおよび生活範囲を予測するための資料を得ることとし,術前の心身機能ならびに疼痛の対処方略との関連性を検証した。
【方法】2011年8月~2013年10月に椎弓形成術を受けた頚髄症者79人(男性53人,女性26人;手術時年齢61.7±10.0歳)を対象に郵送による記名式質問紙調査を行った。なお,術前に疼痛がなかった人や頚髄症以外の疾患により運動障害や疼痛が明らかだった人は除外した。術後調査はshort-form 8-item health surveyとlife space assessmentを用い,身体的健康感(PCS),精神的健康感(MCS)および生活範囲指数(LSI)を算出した。また,術前因子として日本整形外科学会頚部脊髄症評価質問票(JOACMEQ)の頚椎機能・上肢運動機能・下肢運動機能・膀胱機能,疼痛強度,不安・抑うつ,疼痛の対処方略(願望思考・破滅思考・自己教示・注意の転換・思考回避・無視・疼痛行動の活性化・他の行動の活性化)を用いた。まず,調査項目間の単相関分析(ピアソンの積率相関係数)を行い,次に,PCS,MCS,LSIを従属変数,術前因子を独立変数とした階層的重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。第1ブロックはJOACMEQ,疼痛強度,不安・抑うつ,第2ブロックは疼痛の対処方略とした。独立変数の投入数は分析対象者数の1/10までとし,各ブロックで等分した。その際,単相関分析で相関係数が高かった変数を優先させた。有意水準は危険率5%とした。
【結果】59人から回答が得られた(74.7%)。疼痛が遺残していない8人,手術以降に疼痛をきたす恐れのある疾患の診断を受けた7人,強いストレス下にあると判断される2人を除外し,42人(53.2%)のデータを分析した(男性28人,女性14人;64.4±10.3歳;術後経過日数793.5±220.7日)。PCSは40.8±7.8点,MCSは48.6±8.0点,LSIは90.8±26.4点であった。PCSと有意な相関を示した術前因子は上肢運動機能(相関係数0.52),下肢運動機能(0.45),膀胱機能(0.43),破滅思考(-0.39),自己教示(-0.45),無視(-0.34)であった。同様に,MCSは下肢運動機能(0.38),不安(-0.35),願望思考(-0.34),注意の転換(-0.40)と,LSIは上肢運動機能(0.34),下肢運動機能(0.45),膀胱機能(0.38),破滅思考(-0.44)と有意な相関を示した。階層的重回帰分析の結果,PCSは自己教示,MCSは注意の転換,LSIは破滅思考を加えることで有意にR2が増加した(それぞれ0.07,0.11,0.09)。得られた重回帰式は(PCS)=31.57+0.18(上肢運動機能)-0.71(自己教示)(調整済R2=0.31),(MCS)=45.21+0.11(下肢運動機能)-0.72(注意の転換)(調整済R2=0.22),(LSI)=73.93+0.42(下肢運動機能)-2.46(破滅思考)(調整済R2=0.26)で,いずれも有意で多重共線性は認められなかった。
【考察】本研究の対象者のLSIは過去に報告された地域在住高齢者の値と近似しており,対象者は遺残痛のためにHRQOLは低かったが,地域在住高齢者と遜色ない生活範囲であった。術前の心身機能に疼痛の対処方略を加えることで,術後のHRQOLおよび生活範囲の説明率を7~11%向上させることができた。これは主観的健康感が疼痛強度だけでなく,疼痛の認知的処理過程の影響も受けて形成されるとするモデルを支持する結果であり,心身機能だけでなく疼痛の認知的処理過程を含めて評価することの重要性が示唆された。術前の心身機能が低い上,疼痛に打ち勝とうと自らを奮い立たせている人,疼痛以外に注意を向かわせようとしている人,悲観的な思考に陥っている人は術後に低いHRQOL,狭い生活範囲となるリスクを有していると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】頚髄症者の術後理学療法は1ヶ月弱で終了し,継続的に関わることは少ないため,早期の長期帰結の予測は重要な課題である。本研究によって長期的に低いHRQOL,狭い生活範囲となるリスクのある対象者を見出すための資料を提供することができた。
【方法】2011年8月~2013年10月に椎弓形成術を受けた頚髄症者79人(男性53人,女性26人;手術時年齢61.7±10.0歳)を対象に郵送による記名式質問紙調査を行った。なお,術前に疼痛がなかった人や頚髄症以外の疾患により運動障害や疼痛が明らかだった人は除外した。術後調査はshort-form 8-item health surveyとlife space assessmentを用い,身体的健康感(PCS),精神的健康感(MCS)および生活範囲指数(LSI)を算出した。また,術前因子として日本整形外科学会頚部脊髄症評価質問票(JOACMEQ)の頚椎機能・上肢運動機能・下肢運動機能・膀胱機能,疼痛強度,不安・抑うつ,疼痛の対処方略(願望思考・破滅思考・自己教示・注意の転換・思考回避・無視・疼痛行動の活性化・他の行動の活性化)を用いた。まず,調査項目間の単相関分析(ピアソンの積率相関係数)を行い,次に,PCS,MCS,LSIを従属変数,術前因子を独立変数とした階層的重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。第1ブロックはJOACMEQ,疼痛強度,不安・抑うつ,第2ブロックは疼痛の対処方略とした。独立変数の投入数は分析対象者数の1/10までとし,各ブロックで等分した。その際,単相関分析で相関係数が高かった変数を優先させた。有意水準は危険率5%とした。
【結果】59人から回答が得られた(74.7%)。疼痛が遺残していない8人,手術以降に疼痛をきたす恐れのある疾患の診断を受けた7人,強いストレス下にあると判断される2人を除外し,42人(53.2%)のデータを分析した(男性28人,女性14人;64.4±10.3歳;術後経過日数793.5±220.7日)。PCSは40.8±7.8点,MCSは48.6±8.0点,LSIは90.8±26.4点であった。PCSと有意な相関を示した術前因子は上肢運動機能(相関係数0.52),下肢運動機能(0.45),膀胱機能(0.43),破滅思考(-0.39),自己教示(-0.45),無視(-0.34)であった。同様に,MCSは下肢運動機能(0.38),不安(-0.35),願望思考(-0.34),注意の転換(-0.40)と,LSIは上肢運動機能(0.34),下肢運動機能(0.45),膀胱機能(0.38),破滅思考(-0.44)と有意な相関を示した。階層的重回帰分析の結果,PCSは自己教示,MCSは注意の転換,LSIは破滅思考を加えることで有意にR2が増加した(それぞれ0.07,0.11,0.09)。得られた重回帰式は(PCS)=31.57+0.18(上肢運動機能)-0.71(自己教示)(調整済R2=0.31),(MCS)=45.21+0.11(下肢運動機能)-0.72(注意の転換)(調整済R2=0.22),(LSI)=73.93+0.42(下肢運動機能)-2.46(破滅思考)(調整済R2=0.26)で,いずれも有意で多重共線性は認められなかった。
【考察】本研究の対象者のLSIは過去に報告された地域在住高齢者の値と近似しており,対象者は遺残痛のためにHRQOLは低かったが,地域在住高齢者と遜色ない生活範囲であった。術前の心身機能に疼痛の対処方略を加えることで,術後のHRQOLおよび生活範囲の説明率を7~11%向上させることができた。これは主観的健康感が疼痛強度だけでなく,疼痛の認知的処理過程の影響も受けて形成されるとするモデルを支持する結果であり,心身機能だけでなく疼痛の認知的処理過程を含めて評価することの重要性が示唆された。術前の心身機能が低い上,疼痛に打ち勝とうと自らを奮い立たせている人,疼痛以外に注意を向かわせようとしている人,悲観的な思考に陥っている人は術後に低いHRQOL,狭い生活範囲となるリスクを有していると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】頚髄症者の術後理学療法は1ヶ月弱で終了し,継続的に関わることは少ないため,早期の長期帰結の予測は重要な課題である。本研究によって長期的に低いHRQOL,狭い生活範囲となるリスクのある対象者を見出すための資料を提供することができた。