第50回日本理学療法学術大会

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口述

セレクション 口述18

スポーツ・外傷予防

Sun. Jun 7, 2015 12:00 PM - 1:00 PM 第6会場 (ホールD7)

座長:川島敏生(日本鋼管病院 リハビリテーション科), 渡邊裕之(北里大学 医療衛生学部 リハビリテーション学科 理学療法学専攻)

[O-0764] 片脚と両脚でのサイドジャンプ着地時の膝関節の運動学的分析

沼野崇平1, 浦辺幸夫2, 前田慶明2, 笹代純平2, 藤井絵里2, 岩田昌2, 河原大陸2, 木下恵美1 (1.広島大学医学部保健学科, 2.広島大学大学院保健学研究科)

Keywords:ACL損傷, ジャンプ, 着地動作

【はじめに,目的】

競技バドミントンでの膝前十字靭帯(Anterior cruciate ligament以下ACL)損傷は,1年間のACL損傷全体の11%を占めているとの報告がある(木村ら,2008)。バドミントンではサイドジャンプが行われるが,これはACL損傷の受傷機転の一つである。前方および垂直ジャンプの着地では,片脚や両脚での着地時に膝関節屈曲角度が軽度屈曲位で膝関節外反が加わりACLに過度の緊張が加わることが危険だと報告されている(渡邉ら,2013)。しかし,このサイドジャンプでの下肢バイオメカニクスは明らかにされていない。

本研究は,サイドジャンプの着地時の膝関節運動を片脚着地と両脚着地で比較し,サイドジャンプ着地動作時の膝関節バイオメカニクスを明らかにすることを目的とした。仮説は,片脚着地は両脚着地と比較して膝関節最大屈曲角度は減少し,膝関節の最大外反角度,最大外反モーメントは大きくなるとした。
【方法】

対象は下肢に整形外科的既往のない健康な女子大学生9名で,年齢(平均値±SD)は22.0±0.5歳,身長は156.4±7.3cm,体重は53.8±7.9kgであった。着地動作の測定は三次元動作解析装置(VICON社)16台を用い,100Hzで撮影した。反射マーカーをPlug-in-gait modelに基づき下肢に16か所に貼付し,床反力を床反力計(AMTI社)2基でサンプリング周波数1,000Hzにて測定した。課題動作は両脚で利き脚方向へジャンプし,両脚と片脚で着地を行う2条件を設定した。利き脚はボールを蹴る下肢と定義し,片脚着地を利き脚で行った。対象の利き脚はすべて右脚であった。ジャンプの距離は対象が安全に課題を行えるよう,藤澤ら(2009)を参考にし,対象の転子果長の80%の距離とした。対象は開始地点で立位姿勢をとり,上肢を胸の前で組ませ検者の合図でサイドジャンプを行った。ジャンプの高さは着地後,立位姿勢を保持できた試行を採用し,3回ずつ測定した。データは動作解析ソフトNexus1.8.3(VICON社)を用いて解析し,解析区間は利き脚下肢の接地から膝関節最大屈曲位までとした。接地時期は床反力の垂直成分が10Nを超えた時点とした。サイドジャンプの高さ,距離,膝関節の最大屈曲角度,最大外反角度,最大外反モーメントを算出し,3試行の平均値を求めた。外反モーメントを正の値で算出した。

統計分析にはStatcel3(オーエムエス出版社)を使用した。各項目の片脚着地と両脚着地間での比較には対応のあるt検定を用いた。危険率は5%未満を有意とした。
【結果】

サイドジャンプの高さは,片脚着地で15.5±4.6cm,両脚着地で20.0±4.0cmとなり,片脚着地で有意に小さかった(p<0.05)。サイドジャンプの距離は,片脚着地で62.0±8.1cm,両脚着地で59.0±5.0cmとなり,片脚着地と両脚着地で有意差はなかった。膝関節最大屈曲角度は,片脚着地で56.5±12.0°,両脚着地で61.7±8.1°となり,両脚着地で有意に大きかった(p<0.05)。膝関節最大外反角度は,片脚着地で12.2±12.9°,両脚着地で15.4±13.1°となり,両脚着地で有意に大きかった(p<0.05)。膝関節最大外反モーメントは,片脚着地で-183.3±160.6Nm,両脚着地で65.5±104.8Nmとなり,両脚着地で有意に大きかった(p<0.05)。片脚着地では内反モーメントが生じた。



【考察】

本研究では,片脚着地と比較して両脚着地での膝関節の屈曲角度は小かったが,最大外反角度,最大外反モーメントは有意に大きくなった。これは仮説や前方および垂直ジャンプ着地の先行研究とは異なる結果であった。今回規定した高さと距離でのサイドジャンプの着地に限定すれば過度な膝関節外反角度や外反モーメントは生じず,片脚着地ではむしろ内反モーメントが生じていることが明らかとなった。加えてジャンプの高さが片脚着地は小さかったことで,膝関節に加わる床反力が小さくなり外反モーメントも小さくなったと考えられる。

しかし実際のバドミントンの動作では,ジャンプ距離や高さ,上肢の動きやジャンプの高さや体幹の傾斜といった要素が加わるため,必ずしも本研究と同様のバイオメカニクスであるとは限らない。今後はそれらの要素も含めてサイドジャンプ着地の研究を進めてゆくことがACL損傷予防に有益であると考える。



【理学療法学研究としての意義】

本研究のサイドジャンプ着地に限り,過度の膝関節外反角度や外反モーメントはみられなかった。今後,実際の上肢や体幹の動きを加味してサイドジャンプ着地の膝関節運動の研究を進めることで,バドミントンでのACL損傷予防に貢献することができる。