第50回日本理学療法学術大会

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口述

セレクション 口述18

スポーツ・外傷予防

Sun. Jun 7, 2015 12:00 PM - 1:00 PM 第6会場 (ホールD7)

座長:川島敏生(日本鋼管病院 リハビリテーション科), 渡邊裕之(北里大学 医療衛生学部 リハビリテーション学科 理学療法学専攻)

[O-0766] バイクテストは膝ACL損傷ハイリスク者の下肢アライメントを表現できるか

浦辺幸夫, 岩田昌, 笹代純平, 森田美穂, 前田慶明, 佐々木英文, 池田陽一郎 (広島大学大学院医歯薬保健学研究科)

Keywords:バイクテスト, 下肢アライメント, ACL損傷予防

【はじめに,目的】
膝前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament:ACL)損傷予防プログラムを実施するに当たり,「ハイリスク者」を重点的に指導することに意味があると考える。ハイリスク者はスポーツ活動時に「過度な膝関節外反」をおこし,これは「Knee-in & Toe-out」として知られている。ACL損傷予防プログラムでは,「適正なアライメントを保ち,マルアライメントを避ける」指導を行う。しかし,ランニング,ストップ,ジャンプ着地などのスポーツ動作でおこる「Knee-in & Toe-out」を客観的に示す指標は少なく,指導者側の評価もあいまいになりがちである。
筆者らは,自転車のペダリング動作時の下肢アライメントを評価する「バイクテスト(2012)」を考案した。本研究ではバイクテストがハイリスク者の下肢アライメントを客観的に示すことが可能か検討した。
【方法】
対象は膝ACL損傷の既往のない,大学女子学生42名84下肢である。平均年齢20.9歳,身長162.7cm,体重55.1kg,BMI 20.8kg/m2だった。
バイクテストとして固定自転車(エアロバイク75XL3)でのペダリング動作,ならびにランニングとストップ動作を,下肢とシューズにマーカーを貼付しビデオ撮影をした。
トウクリップは使用せず,サドルの高さはサドル上端中央部からペダルの下死点までの距離を対象の転子果長に一致させた。1)指示なし,2)足尖を前方に向け,両足部を平行にする,3)両膝蓋骨を前方に向ける,という3種類を設定した。
バイクテストおよびランニングのサポートフェーズ,ストップ動作についてビデオ画像から,フリーソフト(Image J.1.46r)を使用し足尖の外転角を測定した。足尖の内転を(-),前方を向く者を(N),5°までの外転を(+),5°以上外転を(++)とした。膝蓋骨については内側に向くほど膝関節外反が大きいと考え,外側を向く者を(-),前方を向く者を(N),内側を向く者を(+),著明に内側を向く者を(++)とした。
統計学的分析として,バイクテストとランニングならびにストップ動作の各条件間でカイ二乗検定を行った。足尖の外転角の平均値の差の検定には対応のあるt検定を使用した。危険率5%未満を有意とした。
【結果】
バイクテストの1)指示なしの状態でペダリング動作を行わせた場合,足尖のマーカーの外転角は(平均±SD)4.5±2.9°だった。(+)が35膝,(++)が22膝,(N)が25膝だった。膝蓋骨のマーカーは,(+)が60膝,(++)が9膝だった。足尖と膝蓋骨の両方が(+)か(++)となる組み合わせは35下肢に認められた。2)で足部を平行にすると膝蓋骨の(+),(++)が増加し,3)で膝蓋骨を前方に向けると足尖の(+),(++)が増加した。
ランニングでは足尖のマーカーの外転角は6.5±3.7°になり,1)と比較し有意に増加した(p<0.05)。ランニングで足尖と膝蓋骨が(+)か(++)となる組み合わせは33下肢に認められ,バイクテストの結果と高い一致度を示した。
ストップ動作では足尖のマーカーの外転角は2.9±2.7°になり,1)と比較し有意に増加した(p<0.05)。膝蓋骨の(+),(++)が増加し,バイクテストの2)と類似した結果になった。
なお,ペダルの踏力,サドル高,ペダリング速度を変化させてもバイクテストの結果はほぼ影響を受けなかった。下肢アライメントの運動の左右差については割愛する。
【考察】
バイクテストによるペダリング動作は矢状面を基準にし,体幹部変動を少なくして下肢の連続運動が観察できるため,比較的容易に下肢アライメントを評価することが可能であった。このことから,指導者による判定の違いが生じにくくなるのではないかと考えた。本研究の結果から,「Knee-in & Toe-out」という現象を,2)のように足部から上向性に観察したり,3)のように膝関節から下向性に観察することができた。また,1)ではランニングやストップ動作を再現するような下肢アライメントが再現できた。バイクテストで足尖と膝蓋骨が(+)や(++)の組み合わせになる35下肢は,ランニングやストップ動作で「Knee-in & Toe-out」になり,ACL損傷のハイリスク者と考えてよいだろう。
今後,下肢アライメントの修正のために,たとえば足部を固定してKnee-outを意識したペダリング動作を試みることなどの発展が考えられた。さらに,下肢アライメントの指導後の効果判定にバイクテストを用いることができるかなど,検討を進めたい。
【理学療法学研究としての意義】
バイクテストでは客観的に下肢アライメントを評価できる可能性がある。対象と指導者の両方に有益な情報を示すことができれば,理学療法学研究としての意義が高くなる。