[O-0768] 聴覚刺激を用いた学習方法が運動イメージ能力と運動パフォーマンスに与える影響
Keywords:系列運動課題, 聴覚刺激, 記憶
【はじめに,目的】新たな身体運動を学習するとき,運動の手順を覚える過程を踏む。学習過程において,短期記憶から長期記憶への移行には,注意・集中の影響を受けるとされる。先行研究によれば,適切な聴覚刺激は,注意力を高め,結果として運動パフォーマンスを向上させることが報告されている。また,運動の記憶には運動イメージ能力も関与する。そこで,本研究では系列運動課題の学習にて聴覚刺激を呈示した場合における,運動イメージ能力と運動パフォーマンスに与える影響について検討することを目的とした。
【方法】対象は,健常成人30名(男性19名,女性11名),平均年齢26.9歳(20~37歳)とし,対象者を無作為に音あり群,音なし群,コントール群の計3群(各群10名)に割り当てた。学習課題は文脈のない一連の身体運動の習得とした。音あり群と音なし群は,パソコンのモニター上に一定の速度(60Beat Per Minutes)にて連続して呈示される6つの身体運動(静止画)を覚える課題を行った。学習課題中,音あり群には,イヤホンを通して静止画の切り替えと共にメトロノーム音を聴覚刺激として付与した。静止画の再生試行回数は合計8クールとし,再生中は身体運動を禁じた。学習後の評価として,両群に学習課題の再生(再生課題)を行わせた。再生課題では,学習課題で用いた一連の身体運動を実際に10クール連続して再生させ,ビデオにて撮影した。撮影した映像からクール毎にパフォーマンスの正確さを点数化し,運動を再生するのに要した時間を記録した(運動再生時間)。また,各クール間同士の時間(例:1クール目の再生終了時から2クール目の再生開始時までの時間)をビデオより計測し記録した(再生クール間間隔時間)。コントロール群は,学習課題は行わず,計算課題のみを行った。運動イメージ能力の評価には,運動イメージ統御可能性テスト再生法(controllability of motor imagery test:CMI-T)のうち立位課題7項目を抜粋し用いた。学習課題と計算課題の実施前後にCMI-Tを行い点数化した(学習前CMI-T,学習後CMI-T)。また,学習前・後におけるCMI-Tの変化をCMI-T変化率として算出した。パフォーマンスの正確さ,運動再生時間,再生クール間間隔時間について,各クールを一要因(10水準),学習条件を一要因(2水準)とした二元配置分散分析を行った。学習前・後でのCMI-Tについて各群内および群間比較を行い,CMI-T変化率については群間比較を行った。統計解析にはSPSS(21.0)を用い,有意水準は5%とした。
【結果】学習課題を行った音あり・音なし群の両群にて,パフォーマンスの正確さ,運動再生時間,再生クール間間隔時間の全項目にて学習方法の違いによる有意差は認めなかった。音なし群で,運動再生時間のみ各クール間における主効果を認め(F=5.175,p=0.003),クールの後半では,クールの前半に比べ有意に運動再生時間は減少した。音あり群では,運動再生時間及び再生クール間間隔時間において,主効果を認めた(F=3.363,p=0.034,F=5.889,p=0.002)。両項目にて,クールの後半では,クールの前半に比べ有意に減少した。パフォーマンスの正確さは,両群ともにクールの後半では上昇したが,各クール間における統計的有意差を認めなかった。運動イメージ能力は,学習前CMI-Tに3群間での有意差はみられず,学習前・後での違いにおいても群間・群内比較にて有意差は認めなかった。
【考察】課題の前・後での運動イメージ能力に変化を認めなかった。しかし,音あり群では,時間経過と共に運動再生時間・再生クール間間隔時間に有意な時間短縮が起こり,パフォーマンスの正確さも向上傾向にあった。このことから,運動パフォーマンスの改善には至らなかったものの時間経過の中で記憶した一連の運動を想起しやすくなったと考える。すなわち,聴覚刺激がわずかながら注意力を向上させ,記憶した運動の想起に関与した可能性が推測された。今後,再生試行回数を増加することでパフォーマンスの正確さや運動イメージ能力に変化がでてくる可能性があると考える。
【理学療法学研究としての意義】手続き記憶と運動イメージ能力及び運動パフォーマンスとの関係における新たな知見となり,治療法を検討する際の参考となりうる。
【方法】対象は,健常成人30名(男性19名,女性11名),平均年齢26.9歳(20~37歳)とし,対象者を無作為に音あり群,音なし群,コントール群の計3群(各群10名)に割り当てた。学習課題は文脈のない一連の身体運動の習得とした。音あり群と音なし群は,パソコンのモニター上に一定の速度(60Beat Per Minutes)にて連続して呈示される6つの身体運動(静止画)を覚える課題を行った。学習課題中,音あり群には,イヤホンを通して静止画の切り替えと共にメトロノーム音を聴覚刺激として付与した。静止画の再生試行回数は合計8クールとし,再生中は身体運動を禁じた。学習後の評価として,両群に学習課題の再生(再生課題)を行わせた。再生課題では,学習課題で用いた一連の身体運動を実際に10クール連続して再生させ,ビデオにて撮影した。撮影した映像からクール毎にパフォーマンスの正確さを点数化し,運動を再生するのに要した時間を記録した(運動再生時間)。また,各クール間同士の時間(例:1クール目の再生終了時から2クール目の再生開始時までの時間)をビデオより計測し記録した(再生クール間間隔時間)。コントロール群は,学習課題は行わず,計算課題のみを行った。運動イメージ能力の評価には,運動イメージ統御可能性テスト再生法(controllability of motor imagery test:CMI-T)のうち立位課題7項目を抜粋し用いた。学習課題と計算課題の実施前後にCMI-Tを行い点数化した(学習前CMI-T,学習後CMI-T)。また,学習前・後におけるCMI-Tの変化をCMI-T変化率として算出した。パフォーマンスの正確さ,運動再生時間,再生クール間間隔時間について,各クールを一要因(10水準),学習条件を一要因(2水準)とした二元配置分散分析を行った。学習前・後でのCMI-Tについて各群内および群間比較を行い,CMI-T変化率については群間比較を行った。統計解析にはSPSS(21.0)を用い,有意水準は5%とした。
【結果】学習課題を行った音あり・音なし群の両群にて,パフォーマンスの正確さ,運動再生時間,再生クール間間隔時間の全項目にて学習方法の違いによる有意差は認めなかった。音なし群で,運動再生時間のみ各クール間における主効果を認め(F=5.175,p=0.003),クールの後半では,クールの前半に比べ有意に運動再生時間は減少した。音あり群では,運動再生時間及び再生クール間間隔時間において,主効果を認めた(F=3.363,p=0.034,F=5.889,p=0.002)。両項目にて,クールの後半では,クールの前半に比べ有意に減少した。パフォーマンスの正確さは,両群ともにクールの後半では上昇したが,各クール間における統計的有意差を認めなかった。運動イメージ能力は,学習前CMI-Tに3群間での有意差はみられず,学習前・後での違いにおいても群間・群内比較にて有意差は認めなかった。
【考察】課題の前・後での運動イメージ能力に変化を認めなかった。しかし,音あり群では,時間経過と共に運動再生時間・再生クール間間隔時間に有意な時間短縮が起こり,パフォーマンスの正確さも向上傾向にあった。このことから,運動パフォーマンスの改善には至らなかったものの時間経過の中で記憶した一連の運動を想起しやすくなったと考える。すなわち,聴覚刺激がわずかながら注意力を向上させ,記憶した運動の想起に関与した可能性が推測された。今後,再生試行回数を増加することでパフォーマンスの正確さや運動イメージ能力に変化がでてくる可能性があると考える。
【理学療法学研究としての意義】手続き記憶と運動イメージ能力及び運動パフォーマンスとの関係における新たな知見となり,治療法を検討する際の参考となりうる。